では「青少年を守れ!」と言っているのはダレなのか?

 自民党高市早苗議員が中心となって準備している「青少年ネット規制法案」について、全国高等学校PTA連合会、高橋正夫会長のお言葉。

    1. 「何を考えているのだろうと思った」
    2. 「子どもや、その親である私たちを全く外し、国とIT企業だけで話を進め、一律でフィルタリングをかけるのは勘弁してほしい。なぜ保護者に一度も相談がなかったのか。急にやられて一番迷惑するのは子どもと保護者。国の方針で子どもたちを振り回さないでほしい」
    3. 「積極的に社会に発信し、いろんな情報を得ようとしている子どもにまで一律にフィルタリングをかける必要があるのか。子どもが親の手元にいる間に、いろんな勉強をしてほしいと思っている親もいる。親子で勉強できる環境をつぶしてほしくない」
    4. 「小学生と高校生が同じはおかしい。フィルタは学年で種類を分けたり、解除できるようにしていほしい」
    5. 「政府はリテラシー教育が必要だと3〜4年前から言っていたはずなのに、なぜそれに力を入れなかったのか」
    6. 「ネット事業者に責任を負わせるのは筋違い」
    7. 「確かに子どもたちは最近、携帯電話を媒介にした事故に巻き込まれることも多い。だが事故が心配なら、親は携帯を持たせなければいいい。携帯を持たせた親が、一番反省しなくてはいけない」

 思わず姿勢を糺した(いや先生にはトラウマが^^;)。

では「コドモを守れ!」と言っているのはダレなのか?

 岡田有花さんの上記記事によると、高橋正夫会長は昨年12月に総務省の検討会に呼ばれた際に初めてネット規制法案の動きを知ったそうだ。では文部科学省はノータッチという事になる。

シナリオA)総務省の上位組織から政府方針として下命された

 例えば首相官邸知財推進計画など。
 知財推進計画2007はざっと舐めたが、それらしき記述は見当たらない。そもそも青少年の健全育成はフォーカスに無い。

シナリオB)総務省管掌の業界団体から要望として上がって来た。

 ざっと「ネットが普及しては困りそうな」団体名を探してみる。

日本の財団法人一覧-総務省所管

  • 特にそれらしき団体、無し。

日本の社団法人一覧-総務省所管

社団法人・日本民間放送連盟(民放連)

 加盟200社。地上波テレビ局はこのうち約130社。さらにそのうち地方局は一県一波政策により約110社にのぼる。民放連の意向は、キー局からの“補助金”でなんとか成り立っている地方局の利害を反映しやすい。

 以下、2007年4月23日の池田信夫さんインタビューより。
誰のためのデジタル放送か?(前編):NBonline(日経ビジネス オンライン)

 僕の『電波利権』っていう本に細かいことを書きましたけど、元々は田中角栄氏が派閥の所属議員に利権を分配するためのシステムに組み込まれたというところから日本の放送局は出発しているわけです。在京キー局なんかはまだマシだと思うんですが、問題は地方局です。地方局っていうのはこれから先、立ち行かなくなることは目に見えている。今でもキー局からの“補助金”でなんとか成り立っていて、自分たちのビジネスに未来はないということにものすごく脅えている。そして、不幸なことに日本民間放送連盟(民放連)っていうのは、加盟200社のうち130社ぐらいが地上波テレビ局で、そのうち110社ほどは地方局なんですね。東名阪の大手局は合わせて20社ぐらいしかないわけですよ。


 キー局の人たちは、変わることをひたすら拒否するようなバカなことをやっててもしょうがないと思っていますよ。キー局は自分たちで制作したコンテンツを持ってますから、いろんな形でそれらを再利用するチャンスがある。インターネットで自分たちのコンテンツを出していくことにも関心があって、「第2日本テレビ」とか、「ワッチミー!TV」とか、いろいろとチャレンジはしている。


 しかし、そういうことにさえ、地方局からごたごた文句がついてくるわけです。「地方には地方局がある。その頭越しに映像番組を配信されちゃ困る!」ってね。そういう地方局が民放連では多数派だから、キー局が仕切ることができない。国連と同じですよ。大国も1票、小国も1票なんです。


 そもそも、この狭い日本に、各県ごとに、130社もの放送局が必要なのかということが本当の問題です。地方局っていうのはずっと政治家の“オモチャ”にされ続けてきたがために自立できない企業になってしまった。だから、過剰なほどの恐怖心を抱くんです。自分たちの存立を危うくする脅威に対して、自分たちが変わることによって対抗するのではなく、すべての新規参入を潰すことによって生き延びる道を選んできた。


(*中略*)


 衛星放送が始まる時にも地方局は大反対しました。いわゆる「地方局炭焼き小屋論」っていうのがあった。放送業界では有名な言葉です。放送衛星から日本全国にダイレクトに電波が降ってくるようになると、地方局は炭焼き小屋みたいに時代遅れで意味のないものになってしまうと。とにかく衛星放送を止めさせようと運動した。その結果、日本はこの分野で米国よりも10年は遅れてしまった。


 ケーブルテレビにしても同じなんです。米国では85%ぐらいの人はケーブルでテレビを見ていて、地上波は少数派になっています。ところが、日本の場合はケーブルテレビの免許を市町村単位に限ったのでなかなか普及が進まなかった。ああいうインフラストラクチャーは規模の経済がものすごく効きますから、市町村のような小さな単位に押し込めてしまったら経営効率が高まるはずがない。今でも日本のケーブルテレビは半分ぐらいは赤字です。そういう状況を作り出したのが特に地方の地上波放送局なのです。自分たちの競争相手をあらゆる手を使って封じ込めてきたわけです。

 「青少年ネット規制法案」は議員立法。なので政府法案ではない。民間人が、議員さんに直訴して作っていただいた格好だ。民主党からも大同小異の議員立法が出ている。

 だから、多方面の善意の人々から要望があったかのように、見える。

 だがしかし、『元々は田中角栄氏が派閥の所属議員に利権を分配するためのシステムに組み込まれたというところから日本の放送局は出発しているわけです。』という池田さんの指摘の通り、110社ほどの地方局は、たいてい経営陣に「地元のセンセイ」が居る。

 ところで電通の発表によると、日本のテレビ広告費は年間2兆円だそうだ。全国CMを出したい企業は、いちいち地方局と交渉しなくても、東京で一括して番組枠を買い取る事ができる。これを「ネットセールス枠」というらしいのだけど、これを買うと、キー局が「自社ネットワークの提携各局」にCMを送って全国放送してくれる。

 つまり年間2兆円の結構な部分が、全国の地方局に「配分」されてゆくわけだ。これが「角栄流・派閥統治機構*1

 地元のU局では、かつてお正月に「XX県政財界人カラオケ大会」の生中継というものをやっていた。先代の知事の人が失脚してから消えたようだが。一県一波制度で放送免許があれば、あとは「ネットセールス枠」で東京からお金が流れてくるというワケだ。かかるのは設備維持費と電気代程度。

 ネットが普及し「テレビなんてダレも見ない」という青少年が増えれば、年間2兆のTV広告費は減ってゆく、干上がるのは彼らだ。

 B-CAS/コピワン著作権の問題ではないという印象を持った。

余談:認定放送持株会社について

 一方で、地方局は地デジの投資負担に耐えられないのでなんとかしてくださいという話もあるらしい。
 そのためか、規制緩和マスメディア集中排除原則がゆるめられ、2008/04/01から「認定放送持株会社」というものが認められている。要は、総務省の認可があれば、キー局とネットワーク系列局を経営統合して、その上に、純粋持ち株会社が乗っかる事を認めましょうと言うもの。2008/10/01付けで、フジテレビがこの体制に移行の予定

 これで地方局は安泰だろう(経営統合というのはそういう事だ)。キー局はほとんど大新聞社と資本関係にあるし、「マスコミが超党派の最大派閥」ということにもなる*2。なんだかイタリアみたいだなぁ。

奥木博一さん(WillVii 株式会社 最高技術責任者)

テレビ局は知っている。いつかはリビングに置かれたテレビがインターネット受信機として主要な地位を占めることを。テレビ放送とそん色ない動画コンテンツを映し出す能力を持つことを。また、自分たちと同等レベルのコンテンツ制作能力を持つ番組製作業者がインターネット上に現れることを。


その瞬間がまさにインターネット広告のもう一段の飛躍の段階である。現在はまだ、その瞬間の前にある。


ただし、動画コンテンツの製作能力において、自分たちを超える存在がそうは簡単に出てこないことも知っている。テレビ局はそのような「インターネットテレビ」が興隆する段階で、自分たち、もしくはその関連会社が「かやの中」に入りつづけられるよう準備は怠っていないだろう。


また、その準備が万端に整う前は、睨みを利かされたテレビメーカーは満足なブラウザを持つテレビを出すことはできない。

アクトビラ」や「4th media」など、現在見えている種火が、いつか炎になる時がくる。しかし、その時でも現在のテレビ局系資本の興隆は続くのだと思う。



知った場所:http://blogmag.ascii.jp/kodera/2008/04/24081106.html

*1:「治水感慨でみんなでしあわせになろうよ」的な印象もある。時代背景に「高度成長の格差是正」という大義があったはずだから。それはともかく角栄さんステキ。ちょークリエイティブ。だってテレビの黎明期なのだぜ? ナニ食ったらそんなに賢くなれるのだ?

*2:日本史で「排他的同業者組合」の事を『座』という。織田信長が「楽市・楽座」で潰したとされる。各地の町名に残る「X日市」がその「自由取引市場」の名残らしい。ただし東京の銀座をはじめ、各地の町名に「XX座」の名前も残るので、世の中が安定すると復活したものらしい。イメージとしては、「おぬしもワルよのぉ」みたいな?