でんきダイバーシティ

1)日本には核がない原潜がない原子力空母がない。これらがあるとシーバーフや南京軍区核緊急対応部隊、といったものが、生える。彼らにも「想定外」はあるだろうが「幅がダンチ」だろう。こうした想定の広さは、独り軍の問題ではなく「大学の研究者」や「現場の兵士」を通じて、広く社会に共有されるかと思う。原発村が官産学複合体であるなら、軍産学複合体は、より厳しいストレステストの提供者であり得る。

  • 原潜は、安全+第一である。国防予算の範囲で被害を防ぐ。最大想定は、魚雷の直撃である。
  • 原発は、成長+第一である。企業利益の範囲で被害を防ぐ。最大想定は、そこまでではない。

だからって日本も核武装すべきだなんて云う気はないのだが、非核保有国の「アトミック安全+第一」は、一段落ちがちではあると思う。

2)日本には国民投票の制度がない。EU脱原発政策を採る国の多くは、国民投票、ないしは、それに相当する制度に伴う国民的な議論の末に、そう決めているようだ。こうした「議論の過程」は、「国民総なっとく度」を高め、世論・俗論にながされにくい与論・公論の形成に資するかと思う。少なくとも、ある時点での結論を指して「脱原発だ!/原発回帰だ!」とやるのは、ちょっとプロパガンダ臭い。

3)日本には、地続きの一次エネルギー輸出国がない。ドイツやスペインでは再生可能エネルギーが盛んだが、これらの国は、その不安定さを、フランスの原発電気や、ロシアの天然ガスパイプラインで補っている。送電線もパイプラインも、機動的な電力供給に資する。日本では、こうした国際分業を前提にした「インターナショナル・スマート・グリッド*1」は難しい…そりゃ古里のでんきを海底ケーブルで引いてきたり、樺太の化石燃料をピストン輸送してくる事も、できなくはないだろうが、独・西よりは高コストになるだろう。

※)非核保有国にとっての原発の意味。電力供給の他に、a)事実上の核抑止力。b)核攻撃を受けた際の対処力*2。c)不意の石油ショック類への備えとして。d)放射線医療、放射線品種改良などの国際競争力開拓に*3。などが考えられる。国民投票の選挙戦プロセスでは、これらの事柄も、論戦のポイントとして、メディアなどで言及されるかと思う。推進・反対の双方が、学者やシンクタンクの数字付けて。

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4)日本には広島・長崎のトラウマがある。黎明期の原発推進派は、反核運動由来の無理解さに辟易したと言うが、旧科学技術庁の主管業務が、実質的に原発とロケット「だけ」だった事や、中ソがそれを保有していた事から考えて、全体としてはともかく「一部には底意を持つ向きがあるのでわ」と疑っても無理はないかと思う。少なくとも中国や旧ソ連から見た科技庁は「ああ、そう」とゆう感じだっただろう。また、IAEAの本筋業務は「軍事転用の監視」であり、その最重要査察対象国は「日本」であるようだ。

部分的であれ、暗黙の了解であれ、こうした「底意」が生き残っておれば、官産学複合体といえども「軍産学複合体なみの想定範囲」を持てるかと思うが、近年の電力会社は、国産ロボットの売り込みに対し「そんな事故がいつどこで起きるってゆうんですか」と色をなしたとも云う。需要のないところに産業は成立しない。きぃきぃした反原発派と、安全神話に縋る推進派は、ともに「クサイモノニフタ」の表裏であるかもしれない。

5)日本には、いまだ二次産業偏重の産業構造がある。日本にはメジャーの採掘権がない。カーギルの種苗がない。ファイザーの薬がない。デュポンの素材がない。コカ・コーラのブランドがない。ディズニーの『莫迦には見えない服』がない。資源採掘は無理としても、農林水産、情報産業、情緒産業が弱いのは、不安定だ。そもそも中国が「世界の工場」になりおおせた世界で「日本はやっぱりモノツクリ!」と戦前の成長戦略を背負ったまま*4なのは、娯楽としてはともかく、産業政策としては、なんかちょっとちがう。おそらく。コカコーラ・ボトリングの「1kWhあたりGDP」は、平均的な製造業より高いだろう。

7)日本には、産業VS運動の素の対立がある。推進派VS反原発派の対立は、軍産学複合体という仲立ちがない時点で二項化する。国民投票類似のシカケもないなら、対話や議論より素の対立になりがちだ。産業は食えるが運動ぢゃ食えないので、もともとこの対立は推進派が圧倒的に有利だ。ここに「クサイモノニフタ」をふりかけ、二次主導の産業構造で炊くと「政治的な・ニュークリア・セキュリティ*5」は、かなり厳しい事になると思う。

8)日本の原発は「安全神話」の上に立っていた。東電株や東電社債の「安定」もまた「安全神話」の上に立っていた。土地であれチューリップの球根であれ、神話に依拠する資産価値は「バブル」だ。バブルは、破綻処理しなければならない。温存すれば「神話の復活を切望」するからだ。2Big2Fail論は「次の事故の種まき」に近い。

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9)日本に資源がないとは限らない。地熱発電は、国内ではパッとしないが、世界シェアという事ならかなり良い線を行くらしい。また、メタハイやガス田が領土内にない訳ではない。再生可能エネルギーですべての電力を賄うというアイデアも魅力的だ。エネルギーシフトは、ブームに終わらないよう確実に進めていくべき事と思う。

10)新エネルギーがモノになるには時間がかかる。如何にポテンシャルが高くとも、再生可能エネルギーは、来年や再来年のスパンで原発を代替できるものではない。脱原発諸国の過去数十年におよぶ努力は、原発を代替するには至っていない。もちろん、再生可能エネルギーは、それ以上のカネと時間と努力がつぎ込まれた核融合よりは、順調に実績を積み重ねてきているのだが、英国のCO2政策諮問機関は、2020年代一杯は風力より原子力がローコストな状況が続くと予測した上で、原発の増設を求めている(URI)。

これを「不都合な真実派の言う事」として話はんぶんに聞くとしても、「ローコスト」て廃棄物処理コストを追いだしてへんかと疑うにしても、現在の経済競争がそういうルールである以上、福島第一事故の前には、脱原発諸国も原発回帰に傾きつつあった事は軽視しがたい。「より安全な原発」が手に入るのなら、当面はソレで凌ぐのもアリかなと思う。
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「なにがエネルギーのベストミックスか」の答えは、一概に判断しにくい。原発のコストの低さなど、一度事故ればふっとんでしまうし、たとえ事故がなくとも核廃棄物(とその処理コスト)は末永く残る。といって、CO2の問題を無視する事はできないし、原発ヤなら電気つかうなというのも無理がある。「現時点で望み得るベストミックス」は;

  1. 「より安全な原発」をベースラインにしつつ、
  2. 再生可能エネルギーを伸ばしてゆく。

というあたりな気がする。ただコレたぶん2世代ほど腰を据える覚悟が要るし、また先の事は確実でない。核融合だって夢のエネルギー源と言われつつ半世紀近くかけてモノになってないし、石油は枯渇期限が近づくたびに締切りが伸びるし、CO2問題にも「不都合な真実」が出てくるし、うわーん助けてドラえも〜ん!とゆう気分が湧いてくるが、ヤツも原子力で動いてんだよな確かw。

そこで。25〜50年くらい掛けて「全国総合電源整備五カ年計画(全電総)」を繰り返してゆくのはどうかと思うw。一次エネルギー政策のPDCAサイクルを制度化しちゃうの。少なくとも「事故直後に原子力委員会原発の位置づけを見直す」よりは真当に思えるが。

もちろん、並行して3割4割はあたりまえ!と節電に驀進する道も捨てがたい。どうも「日本の1kWhあたりGDP」は、G7かつ非核保有国の中で「イタリアの後塵を拝する位置」っぽい。3割節電の上で、それで利益を落とさなければ、その先の展開にツブシが効くだろう、、、まずは、夏場はフンドシをフォーマルウェアとしてだな、、、

*1:というか「ノット・イン・マイ・ボーダー・ライン」というか。

*2:おそらく原発事故対策は死の灰対策にもなるハズだ

*3:ユニバーシティがユニバーシティとして機能している事が前提

*4:領土拡大はそのための資源&市場の確保。これは冷戦構造下で「自由主義陣営」に属した事で確保された。

*5:SNS