モノツク利権(仮)

さるところより引用

大した稼ぎも無い著作権ホルダーが家電メーカー(日本の主力産業の一つ)を翻弄してるって状況は誰が見ても異常なんだよきっと。

 自分はこれが「ジョーシキ」である状況はどうかなと思っています。自分にとって「AV家電」は、「仕方なく買うもの」だからです。「コンサートのチケット」や「会場までの交通費」みたいなもので、ソレ自体にはさしたる価値を見いだしていません。チケットの印刷屋や交通機関のおっさんが、コンサートのありかたに口を差し挟むのみならず「消費者はこれまで通り只見の席を求めている」とまで言うのは、ちょっと場違いに思うのです。そりゃ求めてる事は確かですけども、そんなん興行主とする話ですし。いいです別に。タクシー会社に出て来てもらわなくても。ああ、なに?10回ぶんのタダ券を同業組合で独占したいの?ハナシややこしくなるなぁ(悪い話ではないが国産のみだと機械が高止まりすんだよな、消費者の理想はB-CAS/コピワン撃滅だし)。

 今日の家電が「日本の主力産業(の一つ)」である事は疑う余地がありませんが、将来に渡ってそうであるとは限りません。個人的には、ピークは20年ほど前*1に過ぎ、その後は緩やかに衰退していると考えています。時期がいつであるかに関わらず、今治の造船やタオルだって、かつては「日本を支える主力産業」だったわけですし、家電だけが例外という事はないでしょう。

 日本の家電産業は、Walkman/VHS以降、ヒトビトの生活を不可逆的に変える発明品をモノにできていません。MD/DVD/HDレコーダは、これらのメディアフォーマットが頭打ちになったがための「リセット商売」に過ぎません。PlayStation任天堂が生んだ市場に橋頭堡を築き上げましたが、携帯電話では思いっきり敗退しています。

 また日本の家電産業は、サムスンノキアに比べれば、桁一つ違う利益率しか出せていません。各社とも世界市場で生き残るには『弱小』と言うべき体力しか持っておらず、投資能力で見劣りしています。理由はシェアです。

 言うまでもなく、GEの家電を北米市場から駆逐したのは日本の家電産業ですが、その原動力は「高性能」でも「ハイテク」でもありません。『価格性能比』です。「この性能/この耐久力で、このお値段!」これで「別ににGEにコダワルこともないか!」というお客さんを攻略し、シェアを拡大し、そこで得たスケールメリットでより安く部品を調達し、利幅を上げ、開発投資に回し、さらに価格性能比を高める。このサイクルを地道に繰り返す事でシェアを拡大して来たのです。その結果、GEの家電は80年代の終わりには「アメリカの主力産業」ではなくなりました。現在も米国本土内で細々とやってはいますが、それすら売却する意向です。

 我が世の春の90年代、なぜ松下はユニバーサル(映画会社)を買収し、3DO(マルチメディア端末と言って譲らないゲーム機)に手を出したのか? なぜソニーはコロンビア(映画会社)を買収し、PlayStationに手を出したのか? それが莫大な利益を産むからに他なりません。だけでなく、モノツクリだけではこの先やべぇという自覚があったからに他なりません。「自分たちと同じ道を追い上げてくる奴らの足音」を、正しく聴いていたからに他なりません*2。しかし残念な事に、エンタメ・ビジネスに必要な資質はモノツクリとは相当に異なります。ソニーには資質があり、松下にはありませんでした。

 今日、サムスンノキア、友達光電、長虹電器、ハイアール、華為電子、などなどが、そのシェア拡大路線をなぞっています。地道ながら、忠実に。今のところ、ソニーパナソニック、シャープの薄型テレビは、アメリカでも欧州でも「高性能」の代名詞ですが、サムスンはその一角に着実に食い込みつつあります。シェアで言うならサムスン, Visio, "低価格戦争に応じてからの"ソニーノキアや華為電子は、アフリカなど「キャリア」の存在しない国で自ら「キャリア」を開業し、端末をバラまいています。絶対性能なんか問題ぢゃありません。たたかいは数だよアニキぃ!。

 加えてデジタル・デバイスはアナログと異なり、部品買って来て組み立てりゃそれなりの格好が付きます。後はデザインとUIと買うヒトの「見栄」の問題(ブランド嗜好とも)。優れた部品を輸出できても、シェアを誇る相手に「たくさん買うから値引きしてちょ」と言われりゃ、苦労して開発した技術もさしたる利益を産みません。最大の利益は、シェアを持つ者が手にします。そして開発投資に回していずれ「最高級品の価格性能比でも」頂点に立つのです。

 Xbox360(2005)の試遊台は、なぜサムスンだったのか?「これで充分だろ」ではありません。ゲームの試遊台が発するメッセージは「これぞベストチョイス!」です。ソニーは別としても、あれに国産が選ばれなかった事は、Made In Japanのブランド価値にとって失点だったと思っています。失点の程度は、Xbox360で遊んだ青少年達が、『自分のオサイフでテレビを買う頃』に明らかになると思います。

 液晶パネルの生産枚数で一社もベスト3に入れず、ソニーを除けばTV市場シェアでサムスン, Visioに次ぐ3位にも入れず、その状態で「技術では勝っている」。だからなんなのか?各社ともたかだか5%に満たない利益率で、どうやって10数%のサムスンを凌ぐ「開発投資」をひねり出すのか?ビクター三洋程度の企業も経営統合できずに、どうやってこの先、きのこっていく積もりなのか?国内雇用を切り、開発部隊すら中国に移し、世界市場からたたき出された後でなお、

 「資源のない日本が発展できたのは技術進歩のおかげ」

 、、、それがどーしたと思うのです。発展"させた"みなさんはもうとっくに引退してるわけですし。もちろんその事は事実ではありますが、人前でこういう言葉を吐くのはいくらなんでも幼ないというか、当然に受けられると思っていたより低い扱いに憤慨する、貴族のようだと思います。自分は時折、モノツク利権の言葉の端々に、腐臭を感じます。

 ちなみに、現在のGEの主力事業は「金融」と「著作権ホールディング」です。あり得ないなんて事はあり得ないのだ*3

 少なくとも自分には、権利者団体側の発言のほうが、同調はできないまでも理解はできます。キャラが立ってるから。実演家著作隣接権センターの椎名和夫さんや日本映画製作者連盟の華頂尚隆さんの発言は、地道に追ってると「むむ、この人が怒ってるならちょっと考えねばなるまひ」という気がしてしまいます。あと日本音楽作家団体協議会の小六禮次郎さんはだいぶ気力が低下してるというか、むしろ可哀想なので誰か代わってあげてほしいです。田中公平さんとか(本人は厭だろうが^^;)。

 国内著作利権がゲーム産業を除きgdgdなのは事実です。しかし自分は、『ハイテクハイテク日本はやっぱりモノツクリ教』が視野狭窄を産んでいる事のほうが、国益を損ねるところ大であるように思うのです。

*1:つまりバブル期が頂点

*2:これは幻聴だったかもしれませんが、耳を塞ぐよりはマシです

*3:グリードさん曰く