5W1H

5W1Hとは

一番重要なことを先頭にもってくるニュース記事を書くときの慣行である - 5W1H - Wikipedia

  1. だれが(Who)
  2. なにを(What)
  3. いつ(When)
  4. どこで(Where)
  5. なぜ(Why)
  6. どのように(How)

毎日新聞 2008年11月19日 2時30分(最終更新 11月19日 2時30分)

 元次官宅襲撃:事件6時間前にネット書き込み…犯行示唆

 元厚生事務次官、吉原健二さんの妻靖子さんが刺された1事件の約6時間前に、インターネット上のサイト「フリー百科事典・ウィキペディア」に2犯行を示唆する書き込みがあったことが2分かった

 ウィキペディアは百科事典のネット版で、誰でも新しく項目を追加したり、すでにある記事を自由に編集できるサイト。

 1書き込みがあったのは18日正午すぎ。「社会保険庁長官」という項目で、「歴代の社会保険庁長官」というタイトルのすぐ下に「×は暗殺された人物を表す。」というただし書きがあり、一覧表の中の吉原さんの名前の前に「×」がつけられていた。

 利用者の書き込み履歴によると、「Popons」と名乗る人物が、18日午後0時27分、「下村健」(故人)の前に「×」を記入。同29分には、この「×」を削除し、「吉原健二」の前に「×」を記入。タイトルの下の「×は暗殺された人物を表す。」は同32分に書き込まれた。

 同日午後11時の時点で、書き込みはすべて削除されている。3アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できる3みられ4捜査本部は慎重に調べている

  • ポイント1.「事件の約6時間前」は確実か?
  • ポイント2.「犯行を示唆する書き込み」と「分かった」のはダレカ?
  • ポイント3.「アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できる」と「みた」のはダレカ?
  • ポイント4.『捜査本部は慎重に調べている』は事実か?

ポイント1.「事件の約6時間前」は確実か?

【確実でない】実際の書き込みは事件から3時間ほど後。

ウィキペディアの時計がおかしいです

ウィキペディアの標準設定では協定世界時 (UTC) が利用されています。あなたがお住まいの地域の時刻とは時差があるかもしれません。オプションで設定を変えることで、履歴などで表示する時刻を変更することができます。なお、ウィキペディア日本語版では利用者が発言に添える署名の時刻に協定世界時を採用しており、これは利用者の設定で変えることはできません

協定世界時(きょうていせかいじ、UTC)とはセシウム原子時計が刻む国際原子時(TAI)をもとに、天文学的に決められる世界時(UT1)との差が1秒未満となるよう国際協定により人工的に維持されている世界共通の標準時である。具体的には、世界時との差が0.9秒以内になるように閏秒を挿入して維持している。世界各国の標準時はこれを基準として決めている。例えば、日本の場合は日本標準時JST)で協定世界時より9時間進んでおり、「+0900(JST)」のように表示する

そりゃ知らなんだ(参考*1。したがって当該書き込みは事件から約3時間後。という事になる。

ポイント2.「犯行を示唆する書き込み」と「分かった」のはダレカ?

毎日新聞記者と思われる】。ただし、主語(Who)は無い。
以下、『【元厚生次官ら連続殺傷】毎日報道「ネットに犯行示唆」は誤報 (1/2ページ) - MSN産経ニュース』 より抽出。

  • 取材を担当した記者
    • 同サイトに掲載されていた、日本標準時より9時間遅い「協定世界時」による編集時刻を、日本時間と誤認
    • 書き込みの内容は、参考情報として、捜査当局にも伝えていたという。

日本時間と誤認も「捜査当局に伝えた」のも、毎日新聞記者である事から、「犯行を示唆する書き込みと判断した」のも取材を担当した記者と思われる。でなきゃ伝えまいし。

ポイント3.「アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できる」と「みた」のはダレカ?

【不詳】。やはり主語(Who)が無い。元記事の『捜査本部は』が、この一節の前に出ていれば、主語(Who)は捜査本部なのだが。
捜査当局に伝えた際のやりとりで「一般論として」そんな話が出る事はあり得るが、当該記者さんの「メモ(たぶんロディアみたいな切れ端)」でも出てこない限りなんとも。

ポイント4.『捜査本部は慎重に調べている』は事実か?

【どちらともいえない】主語(Who)はある。問題は、どのように(How)だ。
「御奉行様、こんな情報がありやすぜ!」「ふぅん。もしそれが本当なら、当たってみる必要があるだろうなぁ」「慎重に?」「当然じゃ。瓦版屋風情の言う事で軽々に動けるものか。」くらいの会話でも、この書き方はできる。その後にあった「ただし優先順位としては目撃者探しと物証が先じゃ。それが揃わぬうちから犯人像を絞り込むワケにはいかんからな!」を省いたとしても、「そりゃ別のハナシ」だし*2

警察は毎日の記者から情報を聞いたら「調べる」でしょうが、消されている記事をみてそのような意味としてとらえる読者は少ないでしょう。あいまいな記事の書き方はマスメディアにも警察にもメリットがあります。マスメディアは「捜査本部は調べている」とまるで情報主体が警察にあるように書くことで責任を回避できますし、警察は情報の非対称を利用して記者をコントロールすることが出来ます。

情報の非対称を利用した記者のコントロールとは「ゆめゆめ”慎重に”を忘れるでないぞ。」「へへぇっ」てなとこだべか。記者倶楽部出入り禁止とか?

(*書き込みの発見が*)独自ソースなら,結びの「捜査本部は慎重に調べている」という記述の信憑性は薄くなる。記者かデスクの「作文」の疑いが濃くなる。警察からのネタならば,協定世界時(UTC)を知らなかったアホさ加減は警察に転嫁できるのに。

ポイント3とあわせ、5W1Hをぼかす事で、新聞社は火の無いところに煙を立てたり*3、自らが吐き出すテキストに対する責任を曖昧にしたり、できるのかもしれない。
また、5W1Hより、読者の信頼より、事件がどう転んでも「警察との信頼関係」を損ねない書き方のほうが大事なのかもしれない。

まとめ

ポイント1.「事件の約6時間前」は確実か?→【確実でない】
Whenのチェックが欠けていた。
無理からぬ事か、プロ意識の問題か、それとも予断の存在を感じ取るかは、人に依る。
ポイント2.「犯行を示唆する書き込み」と「分かった」のはダレカ?→【毎日新聞記者と思われる】
Whoを省かないでほしい。日本語として座りが悪いという場合、記者名か、デスク名(つまり「文責」)があると代用になる。
ポイント3.「アクセスの記録などから書き込みがなされたパソコンが特定できる」と「みた」のはダレカ?→【不詳】
Whoを省かないでほしい。日本語として座りが悪いという場合、記者名か、デスク名があると代用になる。
ポイント4.『捜査本部は慎重に調べている。』は事実か?→【どちらともいえない】
Howをどの程度に縮めるかは難しいところだが、Who(捜査本部)とHow(慎重に調べている)というコトバを選んだのはダレカ?が明記してあると、読む側のリテラシーが高まったりしないかなこれは。

毎日jpのおわび

元次官宅襲撃
おわび:「ネットに犯行示唆?」の見出しと記事=11月19日付朝刊

 19日朝刊「ネットに犯行示唆?」の見出しと記事を掲載しましたが、書き込みがあった時刻は事件前ではなく、事件の報道後でした。おわびして訂正します。

 ネット上のサイト「フリー百科事典・ウィキペディア」に犯行示唆と受け取れる書き込みをしたとする人物が19日「たいへんなご迷惑をかけました。私の書き込みは事件後です」との文書を同サイト内に掲載しました。

 「ウィキペディア」に表示される更新日時は設定を変えない場合、自動的に日本時間より9時間遅れとなる「協定世界時(UTC)」になります。書き込み日時は11月18日午後0時27〜32分でしたが、UTC表記のため実際には9時間後、事件報道直後の午後9時半前後でした。本紙記者はその事実を把握しないまま記事にしました。

毎日新聞 2008年11月20日

ポイント1については明快になったが、どちらかというと2・3・4のほうに、より注意深くなって頂きたく思う。

当該書き込みを『犯行示唆と受け取れる』と『判断』したのは、毎日新聞の記者なのか、書き込みをした人物なのか。『犯行示唆と受け取れる書き込みをしたとする人物』の「する」って誰がしたのか。直にコンタクトして裏取るとかしてないのか。

行きがかり上ねちねちと読んでしまったが、まぁそんなカンジ。

余談

現在進行形の事件で亡くなった方にばってん振ったり、確実な手がかりが無いうちからテロだ暗殺だネットの闇だなど、犯人像に先入観を持ったり、あるいはそれを公開(ブログなどで)すんのはどうかと思う。今日考えるべき事は下手人の捕縛だ。先の事は先でいいじゃまいか。
言論の自由は守らねばならないが、現場の捜査官含む世間様に、先入観に基づく間違った犯人像を植え付けるのは、世が世なら『いたづらに世を騒がしたる罪』で額に入れ墨とかされちゃうんじゃないかな。

*1:※なお、『ネットアンケートは世論調査ではありません : 週刊オブイェクト』も参考。
※ちなみにWikipediaは様々な言語で提供されていますが、特に国境や国籍など、物理的な区分があるわけではなく、普段我々が見ているアレは「そのなかの日本語版」のようです。英語と日本語で詳しさが違ったりもすんのでちと実感しにくいけど、ココロはワールドワイドっちゅうか。こここコレがグローバリゼーションの先にあるという「グローバリティ」なのくわっ!!(ちがいます)。それはともかく、アイザック・アシモフさんに見せてやりたいよあたしゃ。

*2:なお、この会話はフィクションであり、実在するいかなる御奉行様や瓦版屋さんとも関係ありません。

*3:もちろんボヤより大火事のほうが新聞はよく売れ、シチョーリツは上がり、PVも伸びる。