アメリカにおける上級公務員の政治任用制度

国防総省職員留任 ゲーツ長官が要請 新政権も当面 081225 - 読売新聞長官 - 7面(紙面のみ)
【ワシントン=黒瀬悦成】
23日付の米ワシントン・タイムズ紙は、オバマ次期政権で留任が確定しているゲーツ米国防長官が、ブッシュ政権下で[1]民間などから役職についた、いわゆる「政治任用」の国防総省職員約250人の多くについて、次期政権が後任の職員を決めるまで留任するよう要請したと報じた。

イラクアフガニスタンでの「テロとの戦い」が続く中、政権移行に伴い同省の[2]運営に空白が生じないよう配慮した異例の処置[1]国務省国土安全保障省、司法省など、他の外交・安保、法執行関連の省庁は、来年1月の新大統領就任を前に政治任命職員が一斉退職を予定している。

歴代政権が任命する国防総省幹部のうち、[2]次官や次官補など約40人は上院の承認が必要なため、正式就任まで数ヶ月かかる場合もあり、ゲーツ長官以下の幹部級は当面、現体制が続くことになる見通しだ。

[1]:米国では、大統領が、各大臣を指名し、各大臣が担当省庁の上級職員の指名枠を持つ。この枠(政治任用)を通じて、大統領選挙で示された主権者の意思」が、官僚機構に浸透してゆく。
たとえば大統領が「なんらかの改革」を掲げて当選した場合、これら政治任用官僚が、具体的なその手足となり「抵抗勢力」を抑えにかかる

アメリカ国防総省 - Wikipedia」によると、同省傘下の職員数はざっと200万人。国防総省の政治任用枠は250人にすぎないが、このうち144万人を占める職業軍人は、「文民統制」に服す義務を負う。残る文官66万人も、「大統領選挙で示された主権者の意思」に服す義務を負う。どーせわかりゃしねぇグダグダな議論に分け入らず、「シビリアン・コントロール」を「主権者コントロール」と意訳する場合、専門職員たる文官もまた、「主権者コントロール」に服す義務を負うのは当然である。公僕ってくらいなもんで。

250人の政治任用官僚は、主権者コントロールの具体的な実施責任者として、大統領の当選とともに官僚機構の要所に送り込まれ、大統領の交代とともに去る

これにより、必要性の疑わしいダム計画が何十年も継続したり、省庁側のミスを認めないまま何十年も揉める成田空港土地収用問題のような、大規模災害が少ない

このほかに、政治任用官僚の多くが民間から省庁に入り、民間に戻る制度は、大きく三つの結果を生む。
第一に、官庁による行政情報の秘匿が難しい。したがって、何世代も、政権交代の度に、人材が官民を行き来するなかで、秘匿すべき情報と公開すべき情報の分別ルールが明快、かつ厳格に、明文化されてゆき、同時に「モラル」も洗練されてゆく
第二に、同じ理由で、大学やシンクタンクで、種々の行政施策の比較研究が深まる。これは国民の行政リテラシーの向上を生む。さらに、これらアカデミズムの層が厚くなると、これも政治任用官僚の大供給源となる。
第三に、官僚が部族化・階級化・身分化しにくい。たとえば日本では外務省、財務省農林水産省など、古株の官庁ほど独自の「閉鎖的な文化」が色濃いが、ここの風通しがよくなる。

[2]:デメリットは、引継ぎ時や、特に前政権の方針を大幅に変更する場合に、行政運営の空白と混乱が避けがたい事。政争の具になる事も多い。このため行政効率や一貫性という点では、終身雇用の官僚が前例主義で回す制度に劣るだろう。