医師不足、日医通さずに発信

Webでは一面の部分しか読めないが、2面に2つのエピソードが続いている。以下はその中の一つから写経。太字おれ。

医師には常識が欠落した人が多いと言った麻生首相に、日本医師会(日医)は強く抗議した。異なる反応をみせた医師の団体もあった。全国医師連盟(全医連) は欠落発言を批判しつつ、首相が「医者の数を減らせ減らせと言ったのはどなたでしたか」などと続けたことは「核心を突いている」と評価した。深刻化する医師不足日医は数年前まで、医療の質の低下につながりかねないなどとして、医学部の定員抑制を求めていた
「政治に医療現場の声が届いていないんですよ。圧倒的に」。勤務先の長崎県の療養所で全医連代表の黒川衛さん(51)は言った。日医の政治団体日本医師連盟自民党に票もカネも出して望む政策を実現させてきた。なのにそう言うわけは、日医と全医連のなりたちの違いにある。
全医連は6月に設立されたばかりの組織だ。きっかけはインターネット上の医師や弁護士の会話だった。連続32時間勤務は当たり前。眠い目をこすって手術するのがどんなに危険か一一。そんな生い立ちだけに、会員約800人の8割以上を医療崩壊に直面する病院勤務医が占める。16万人超の日医会員は開業医と勤務医がほぼ半々だが、代議員の大半や会長は開業医だ
日医を介すると、現場の声がうまく伝わらないと、もどかしさを感じていた。
開業医が日医を主導してきた一因は、勤務医が多忙で活動にかかわりにくいことにある。黒川さんも「勤務医はサラリーマンなので診療報酬にもうとく、医師会にもあまり声を上げなかった」という。医師が足り、診療報酬も伸びた頃はそれで済んだ。だが高度成長期には1割前後、時に19%も伸びた診療報酬は引き下げが続いた。08年度は本体部分が8年ぶりに上がったが0.38%。日医が働きかけてもここまでだった。
[1]政官財の日本型モデルはうまく機能しなくなったんです。私たちは特定政党と結びつくより、国民や議員に実態を訴え、医療はお荷物なのかと問い直したい。そのために公立病院の勤務の調査に着手した。各地の労働局に情報開示を請求し、時間外労働をする場合に労使で締結する協定が結ばれているか、内容が実態通りかなどを調べる。すでに未締結の病院が多数見つかっている。
一党に偏らないとはいえ、現状への憤りから生まれた組織だ。政権交代への期待感はあると、黒川さんは言った。
昔ながらの自民党の政治手法は経済成長の「果実」--つまり増えた予算を支持者に手厚く分配し、票とカネを得るやり方だ。だがいまや成長どころか、いつ縮小に転じてもおかしくない状況にある。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、日本の人口は05年からの半世紀で3割減、生産年齢人口は5割近く減る見通しだ。
「果実」を配るのなら配り方が偏っていても、だれかに痛みを強いることに直結はしない。成長が続くのならいずれは自分も潤うとも思える。しかし「果実」がないのに配ろうとすれば、他のだれかの利益を奪うか、借金をして将来世代に押しつけることになる。支持者の声ばかり聞く不公平は見過ごされない時代になったのだ。
この政治手法では、もう幅広い支持を得るのは難しい。小泉首相は支持組織の利益よりも世論を引きつけることを重視し、手法を変えようとした。だがその後は次第に逆戻りした。そして麻生首相は転げ落ちるように支持を失い、決断したはずの衆院解散をできないまま年を越す。

[1]『政官財の日本型モデル』の例。

医師会 厚労 族議員
医薬品業界 厚労 族議員
JEITA 経産 族議員
経団連 経産 族議員
芸団協 文科 族議員
私大連盟 文科 族議員

この左端の諸団体が「天下りのイス」や「票」を提供し、見返りに自らに有利な法を整備してもらったり、補助金を増額してもらったり、する。この構造は既存業界のありとあらゆる領域に張り巡らされており「事実上の統治機構」と言うに近い。

ここからハズレ気味な存在として「中小企業」がある。従業員の少ない中小企業の団体はあまり票にならない。天下りに大した退職金も払えない。従って、かれらのくらしむきがよくなるような政策が、熱心に進められる事は少ない。その結果「大企業の下請け」が増える。そのほうが経営が安定するから*1

CATVや衛星放送、インターネットプロバイダ、ネットでの医薬品販売、などなどの「新しい業界」もちょっと苦労する。特に既存の「事実上の統治機構」のカバー領域とバッティングする場合、ある程度成長すると、どこからともなく「ガラスの天井」がやってくる。これを突破するには、業界みんなで、自前の「事実上の統治機構」を組み立てるのが定番だ*2

これらはまだいい。勤務医のように、医師会に入っていても主導権を取りにくい存在や、大企業に所属はしていても「終身雇用ではない層」などは、「事実上の統治機構」に自らの意思や利害を反映させる機会がほぼ無い。

選挙があっても、左列の集票能力は莫迦にできないし、そもそも「事実上の統治機構」は日夜不断に活動しているため、非常に手数が多い。「業界の事情」は業界団体がかき集めるし、「法律知識と行政能力」は官僚が持っているし、「立法の腹芸」は自民党の十八番だし。

惜しくも上記記事では「自民党の政治手法の限界」を匂わす終わり方をしているが、コレ自体が高度成長を前提にしたシカケという見方は賛成だ。趣味的には「政治構造の限界」かと思う。

*1:中小企業はEUにも北米にも多いが〜というか日本より多いっぽいが〜「XXが取引先なのでウチは優良」的な会社は稀なようだ。

*2:自分の知る限り、任天堂は唯一、実力のみでこの「ガラスの天井」をぶち抜いている。