「おたくの局ダビ10?。ぢゃ出演料10倍ね!」

既に録音補償金制度は崩壊している(JASRAC菅原理事)。

これはその通りだと思う。

以前に、私的録音録画補償金の事を調べた時に、制度設計の基本が「録画機械の提供者に掛けるか」、「録画機会の提供者に掛けるか」の二通りある事を知った。

現行は前者。後者にすると現行制度がメロメロになるので前者のまま続いているのだけど、もはやどんな機械が録音録画できるかワケワカメな昨今、機械に掛けるより、機会に掛けるほうが合理的なんじゃないかと。具体的には放送局という事になる。

より理想的には、制度補償ではなく、出演料や使用料交渉の段階で吹っかけべきという気もする。個々の芸人が。「おたくの局ダビ10?。ぢゃ出演料10倍ね!」みたいな。*1

さらに理想的には、B-CASがあるなら、ダビ10課金を求めてはどうか? HD録画は無償*2、「焼き増し一枚300円」。みたいな。人気番組は良く売れて、局と出演者で分け取り。みたいな*3

一介の消費者としちゃ「録画利権」という「既得権益」を損なう事になるのだけど、古今東西、芸商売の基本は一つ。「蓆(むしろ)で囲って目隠しし、見たい奴から金を取れ」だ。「無料放送が圧倒的な娯楽の王様」という、戦後日本固有の状況は、この基本を外している。

終身雇用が「パン」で、無料放送が「サーカス」。なんちて。

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実演家著作隣接権センターの椎名和夫氏は「経産、文科両大臣の合意が発表され、またダビング10も実施されながら、約7カ月間も指定が実行されないことは、極めて異常な事態」と、

これもその通りだと思う。各省庁に散在する著作権会議の泥沼は、ぽんと出て来た大臣合意で決着したはずではある。賛否善悪好悪利害はともかく、筋は通っている。まぁ出す側の懐具合はあるけども(今次不況は関係ない。その前からナニだ。)。

私的複製に関する制度問題をしっかりと決めた上でインターネットと向き合う必要がある。そしてその議論も省庁間の机の下でモニョモニョやるのではなく、開かれた公会の場で行ない、経産省文科省総務省が“ナショナルプラン”を協力して描いてもらわないといけない(椎名和夫氏)

わしもそー思う。

一介の消費者なので、自分の利害は椎名さんとは逆になるが、本来「著作利権 VS.消費者利権」のシンプルな構図でバトれば良いものが、日本固有の政治構造のおかげで話がムダにこじれている。

日本固有の政治構造は、「業界団体→担当省庁→担当大臣→閣議」というユニットで構成されている。手許の脳内では「事実上の統治機構」略して「じじとう」とタグ付けている。

ここに「派閥順送り論功大臣」や「1年持たない短命内閣」が乗っかると、議院内閣制が羊頭狗肉になる。ただし、必ずしも「非民主的」とは言えない。「業界団体→担当省庁」のラインが毛細血管のように社会を覆っていれば、それなりに「民意の近似値」を集約できるからだ。例えば「格の高い公益法人」の下に「格の低い業界団体」さらに「小規模な業界団体」が連なり「全てのXX民の総意」を集約できる場合など。「XX民」は「農民」なり「製造業従事者」なり。で、「XX民」と「YY民」の利害対立は省庁間で「調整」する、ダメだったら大臣間で「調整」する、みたいな。これは、何年かに一度の「選挙」より優れた面があるだろう(もちろん、ウマく回っていればの話だが)。

それぞれのユニットは、それぞれの業界の利害を代表し、天下りを受け入れる代わりに、各種の規制や政治決定に影響を及ぼす(ロビー)。ようするに日本の政策は「じじとう」への食い込み具合で決まる。私録補償に関しちゃ、以下のユニットが入り乱れる。

  1. 経産 ← モノツク利権(JEITA等) ← 世界に冠たるメーカー群(機器代依存)
  2. 総務 ← 電波利権(民間放送連盟/NHK等) ← 個々の放送局群(広告依存/受信料依存)
  3. 文科 ← 著作利権(実演家著作隣接権センター等) ← 個々のクリエイタ群(見料依存)

この三つが入り乱れて消費者そっちのけ。そりゃみんな消費者の為を口にはするけども。ホンネを言やぁ、そんなの二の次だろう。一介の消費者たるおいらにとっても、モノツク利権・著作利権・電波利権のみなさんのくらしぶりは二の次だもの。

突き詰めると「政治」は「利権の調整」だと思っているので、「非民主的」だろうが「渡り」だろうが、ウマく回ってりゃそれで良いのだけれど、このシカケは近年ウマく回ってない。「民意の算出精度」が劣化している。

たぶん、「じじとう」がウマく回るには、1)省庁編成が社会に適合しており、かつ、2)「毛細血管」が社会全般に十分に伸びている必要があるのだけど、その両方が崩れているのだと思う。つまり、1)省庁編成が社会に適合しておらず、かつ、2)「毛細血管」が必要な所に伸びていない(新陳代謝に必要な栄養が、不要血管の維持に回っている?)。

じじとうのデメリット

  1. 現状、日本の省庁編成は「消費者利権の代弁機能」を持たない。→消費者庁
  2. 既存業界が新興産業を潰しにかかる。
  3. 新興産業は「ユニット」を自前で構築しないと、既存業界に取り込まれる。
  4. パラダイムシフトやイノベーションに弱く、これを阻害する。

モノツク利権も電波利権も著作利権も公務員も消費者も、ホントはみんな分かってると思うんだけど、これは明治以来の「追いつき追い越せ」体制だ。どうすれば「みんな」が「ゆたか」になるか、ハッキリしていた時代の統治マッシィイインだ。カイゼンには強い。しかしパラダイムシフトを横紙破りと呼ぶ。

その一方で、「じじとうユニット」は「和を以て尊しと為す」や、中国人の言う「一個日本人是虫、一群日本人是龍」にはひどく即したものにも思えるし、パラダイムシフトやイノベーションに不愉快を感じる事もある*4。別にアメリカ人のエイリアスになりたい訳でもない。

どうすれば「みんな」が「ゆたか」になるか、ハッキリしていない事だけはハッキリしているのだけど、なんかこう、ジャパンオリジナルなシカケがないかなぁ。

基本的には「羊頭狗肉な議院内閣制を、羊頭羊肉に修正する」になるのだろうけど、「機動的な省庁再編を可能にし、臨機応変に、必要な分野に毛細血管を伸ばすシカケを作る」でも良いような気もする。どちらの場合でも、公務員制度改革を進める必要があるだろう。あれはウマくやれば「じじとうユニット」に新陳代謝を促す。もちろん下手すりゃ統治構造の手足を切り落とす事になるのだが、いずれにせよ、政治経済の混乱は不可避だ*5

0708年06月のダビ10騒動には良い点がひとつあった。省庁単位のナントカ会議では、今日的な問題に対処できない事が明らかになった事だ。あれは我々の社会にとって良い経験だったと思う。

重ねて引く。

私的複製に関する制度問題をしっかりと決めた上でインターネットと向き合う必要がある。そしてその議論も省庁間の机の下でモニョモニョやるのではなく、開かれた公会の場で行ない、経産省文科省総務省が“ナショナルプラン”を協力して描いてもらわないといけない椎名和夫氏)

わしもそー思う。「公会」は誤字かも知れないが、消費者だからといって「録画利権」という「既得権益」を金科玉条にすること抜きで考えたい。どうか「私的録音録画補償金」という「既得権益」を金科玉条にすることなく考えて欲しい。

基本は「万機公論に決すべし」だ。

*1:その財源はダビ10対応機を売ってる会社の広告費に乗っけるのが相当、という意見もあるかしれないが、そんなん払うくらいならアクトビラ育てた方が実があるだろうなぁ

*2:タイムシフトだから

*3:キー局もいつまでも広告依存では持つまい。

*4:cf.google Street Viewの「表札を掲げてる国にプライバシーの概念は無い」や「オプトアウト」≒文句があるなら言ってこい。

*5:基本的に、それが気に入らんと、新自由主義だの改革利権だの騒ぐだけでは、ソ連崩壊の轍を踏むと思っていますよあたしゃ。