自民党と放送業界が地デジの停波前倒しを言い出した件について

下記3番に日テレ社長の発言は「自民の動きに呼応したものとみられる」とあるが、*1呼応ではなく、最初から「阿吽の呼吸」で「空気醸成」に動いているようにも見える。働きかけなきゃ自民は動かん。

1番:2009/02/17:「地デジ対応受信機」の普及率、いまだ半数に満たず - 総務省緊急調査 | マイコミジャーナル

地上デジタル放送対応受信機を保有していない世帯は全体の50.3%

2番:2009/02/18:追加景気対策、地デジTV購入に2万円支援 自民が検討 :NIKKEI NET(日経ネット)

 自民党は追加景気対策の一環として、地上デジタル放送が受信できるテレビやチューナーを購入した全世帯に一律2万円程度の支援金を配布する方向で検討に入った。2011年7月に地上デジタル放送へ全面移行する計画も1年間前倒しして、早期普及を目指す液晶テレビなど急激な需要落ち込みに悩む電機業界を支援する狙いもある。

3番:2009/02/23:日テレ社長「地デジ移行期限、10年に前倒しを」:NIKKEI NET(日経ネット)

 日本テレビ放送網の久保伸太郎社長は23日の記者会見で、地上デジタル放送への移行問題について「私見だが、2011年7月の移行完了期限を10年に(1年程度)前倒しすべきだ」と述べた。同時に、1月時点で約49%にとどまる対応受信機の世帯普及率を押し上げるため「集中的な投資が必要」と主張。国費などを財源に、受信機購入を期限つきで支援する案を示した。
 自民党では17日、追加景気対策の一環として受信機の購入世帯に約2万円の支援金を配布する案が浮上。*1久保氏の発言はこうした動きに呼応したとみられる。久保社長は「移行期限の延期は絶対に困る」と訴えた。(01:07)

この施策でメリットがあるのは、1に放送業界2に電機業界と思われる。頭書の通り、下線部は*1呼応ではなく連携プレイだろう。票か金にならなきゃ政党は動かん。

1)放送業界

1-a)なぜ「移行期限の延期は絶対に困る」のか

TV局は現在アナログと地デジの両方を放送しているが、これが結構コストがかかる。「移行期限の延期は絶対に困る」というのはそういう事だ。本音を言えば一日も早く停波したい。

駄菓子菓子、コストがキツいと一局だけ停波する事は避けたい。「広告争奪チキンレース」になるからだ。企業広告費は「人口カバー率」の高い「アナデジ同時放送局」に集中し、先に停波した局は沈んでしまう。体力の弱い地方局だけ先に停波した場合、「全国ネットの広告枠」が値切られる。まぁ、それを自由競争とか民間企業と言うのだけれど、ともかく、日本は全国一斉停波、という事になっている。先行実験すら抜きと言うのは、G7では異例だ。

1-b)なぜ「全国一斉停波」なのか

「全国ネット広告」のCM代は、最終的に地方局に流れる。地方局の経営は、このキー局からのCM放送代(波代とも言う)抜きでは立ち行かない。放送免許は県単位なので(一県一波制)、キー局は地方局と協力しなければ「全国放送」ができない。

  • CM広告費→キー局→地方局

本質的には「広告費資金の東京一局集中」は「経済の東京一局集中」が原因なので、ダレが悪いというものでは無いのだけれど、県単位の放送免許は、日本でTV放送が始まった当時の主務大臣(郵政省)、田中角栄さんの遺した「東京のオカネを地方に回す用水路」の一つでもある。この「波代」を「新田開拓」に回し、地方が経済的な自立を果たす助けになれば良かったのになぁとは思う。水量が不足だったのか、無為に呑んでしまったのかまでは知らない。

知らないが、地方局の経営陣は、今でも「地元のセンセイ」と非常に近しい。例えばこれを書いている2009/02/24日、テレビ埼玉では『特別番組"前埼玉県知事 故土屋義彦さんを偲ぶ"』という番組をやっていた。

1-c)「停波前倒し」で困るのはダレか
  1. 09Q1時点で地上デジタル放送対応受信機を保有していない50.3%の世帯
  2. 地デジ移行でアナログの数万→35万に増える難視聴世帯

地デジは政治的発火性が高い。代替選択肢が豊富で平均所得も高い都市部より、代替選択肢に乏しく平均所得も低い地方ほど高い。そしてもちろん「東京用水の水門をもっと開けろ!」という事になるのだろう。もともと山間離島の多い日本は、国土の広過ぎる米国とは違った意味で地上波向きでないように思うのだが。いまや立派な衛星を打ち上げられる国になった筈だが。

2)電機業界

地デジ移行に必要なのは、一にチューナー、二にアンテナ工事。それだけだ。このアンテナ工事が結構かかる。国で支援金を出すならアンテナ工事のほうだろう。

もともと日本の地デジは、ハイビジョン(1080i)を強行*1した上、伝送効率が見込みより低く、MPEG-2としてDVDに遥かに劣る。それでも「高解像度の恩恵」は残る。従って「静止部分*2だけがクリアーで、動く部分*3はブロックまみれ」なカンジになっている。「デジタルTV」としては、たぶん世界最悪の画質だろう。

だがそもそも、高画質など三日で飽きる。メーカーが「テレビなんざ映りゃいい層」向けのラインナップを放置しているのは理解に苦しむ。

1080i/B-CAS/コピワンを「放送業界に押し付けられた」という被害者意識はあるかもしれない。ARIB審査のコストアップもあるだろう。だが、それら非関税障壁に守られながら、フルスペック・ハイビジョン!高画質!ばかりやっておれば、左前になるのが当たり前だ。金より商売より技術開発の方が大切な人々は、趣味的には大好きだが、国費を投じてまで守るのは間違っている。

それでも景気対策としてメーカーに回す必要があるのなら、すくなくとも5000円チューナーの発売を義務づけ*4、さらに、生産出荷台数足切りラインを設けべきだろう。世帯普及率50.3%の状態で停波前倒しを言うなら、これは必須条件であるように思う。

基本的には、景気対策を目的に、特定業界の特定商品を支援するのはスジが悪い。「商売の巧い業界」より「政治にコネのある業界」に左右されがちだからだ。

3)地デジ移行における日本固有の事情

3-a)「地上波無料放送が圧倒的な娯楽の王様」な国
  • おそらく「日本のテレビ」は無料放送としては世界一面白い。
  • 「経済の東京一局集中」が「広告費資金の東京一局集中」を生み、「CM広告費→キー局→地方局」の用水路を守りたい人々が、衛星やCATVなど、ペイTV普及のボトルネックとなった。
  • 世界一般には、ペイTVのコンテンツの方が面白いが、日本には「NHK」という巨大なペイTVが存在。
  • 有料放送の世帯普及率は北米は勿論、EUよりも低い。
3-b)「世界に冠たるモノツクリ企業がたくさんある」国

おそらく、必要以上にたくさんある。世界市場の冷え込みで、中韓との価格競争はこれまで以上に激化する。

*1:NHKが放送規格から720pを政治的に除外。

*2:ゲンミツにはローモーション・ローディテイルなエリア

*3:ゲンミツにはハイモーション・ハイディテイルなエリア

*4:英・米ともにその価格帯のチューナーが市場に存在し、移行政策の主役でもある。