「地デジ問題」に興味があると、厚労省の医薬品通販規制も面白い。

■090522:「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」の第7回会合の経過

 主な議題:『医薬品の通信販売規制などを定めた厚生労働省令の再検討』
  出典:http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/05/22/23537.html

開始前に既に険悪
  • 日本オンラインドラッグ協会理事長の後藤玄利氏、会合前の撮影時間に「通販で薬が買えなくなるまであと9日9時間10分」と書かれた紙をテーブルの上に置く。→ 事務局が外すよう要請。
  • 楽天三木谷浩史会長兼社長「今回の会合は何のために行われるのか。ここで議論したことは省令に盛り込まれる余地はあるのか。そのことだけでもカメラが入っているうちに答えていただきたい」→ 事務局は解答を拒否。
事務局による省令の再改正案の説明は、前回の会合とほぼ同様。
  • 薬局のない離島居住者」「改正省令の施行前に購入した薬の継続使用者」に限り、2年間(2011年5月末まで)の経過措置として第2類医薬品の通信販売を認めるとしている。
  • 「継続使用者」は、「同一の業者から同一の薬を買う場合」のみ認める。
  • その確認方法は、示されていない。
パブコメの結果(総数9824)
  • 「そもそも通信販売を規制すべきでない」:84.9%
  • 経過措置に賛成:0.5%
  • 経過措置に反対:11.7%
    • 規制賛成派「経過措置は不要だ」
    • 規制反対派「この経過措置では不十分だ」
パブコメに対する厚労省の姿勢
  • 省令の再改正案に付け加えるべき項目は無かった。
  • 「意見は厚生労働省として拝見した。パブリックコメントは数字ではなく、これまで気付かなかった点が無かったかを確認している」
規制賛成派の意見
  • 「今回の薬事法改正の意義が失われる。継続使用者の定義がきちんとされていないのも問題」(全国薬害被害者団体連絡協議会の増山ゆかり氏)
  • 多くの委員が「反対」または「やむを得ない」
検討会座長の言(北里大学名誉教授の井村伸正氏)
  • この場でコンセンサスを得ることは難しく、いくら議論をしても同じような意見が出てくるだけだろうと思う」と議論の打ち切りを提案。
  • 結論は出ないまま、厚生労働省に一任する形で終了。
かんそう

通販で薬が買えなくなるまであと9日9時間10分』な会議で『この場でコンセンサスを得ることは難しく、いくら議論をしても』て事なら「医薬品新販売制度の円滑施行」は望めない、と理解した。
全体とてして、08Q2著作権紛争(不当ダウンロードの違法化やダビング10問題)と似た印象がある。それぞれの立場や意見は部分的には「正しい」んだが、収集がついてない、という点で。まだ未整理だども、この点から見た印象をちょっと書き飛ばしてみたい。

事実上の統治機構

概要

日本の統治構造は「選挙で選ばれた国会議員の統制(民意)に服す」のが建前だが、実態は下図の構造のほうが強力。

選挙が「地域別の民意集約機構」だとすると、下図は「生業別の民意集約機構」だ。従って、必ずしも非民主的とは言えない。法的根拠は弱いっちゃ弱いが、国会が決めてくんなきゃ何もできませんてのも困る。というのは、国会がものごとを決める速度は非常に遅いし、昨今の国家は「行政に通じた専門家(テクノクラート)」が、いろんな分野ごとに居ないと回らなくもあるからだ。

中央省庁(カスミガセキ)は、種々の業界団体や、公益社団/財団法人から、行政に必要な情報を得る。「天下り」は、この情報連結の媒体だ。

業界団体群(トラノモン)は、様々な業界内部で「民意」を集約する。経産なら石油連盟だの日本自動車工業会だのJEITAだの「業界団体」で間違いないが、これが文科省だと、日本映画製作者連盟のようなものだけでなく、芸術団体協議会、とか、私立大学連盟、みたいなものも入ってくる。例えば、ナニカに補助金を出すにしても、手厚く配分する分野は、貰う側の事情を良く聞いてから決めた方が良い*1
 さらに厚労省ともなると「全国薬害被害者団体連絡協議会」のように、ちょっと逆らうと天罰を喰らいそうな、かつ、おそらくは天下りとは無縁な「権益集団」も入る*2

有力企業群(マルノウチ)は、左図の中では、業界団体にもってく「民意」を集約するシカケ。という事になる。「天下り」は、おおむねこの辺りまでは下ってくる*3

多くの場合、ピラミッド最下層に位置するのは「終身雇用」。古典的には「ケイレツの中小」も入れて良いだろう。そうした「勤め先」を持たない分野では、例えば日本医師会なら個々の街医者、芸団協なら個々の芸術家、という事になると思う。多くは「生業」。だから「生業別の民意集約機構」。

このピラミッド構造は、「民意の近似値算出精度」---すなわち、具体的な政策に必要な情報を収集し、整頓し、優先順位を付ける作業---に於いて、優秀だ。選挙は数年に一度しかなく、その時の感情に流されがちなのに対し、「事実上の統治機構」は恒常的に活動しており、かつ専門的で現実に即した政策を練りこめる*4

その結果、「選挙で選ばれた国会議員の統制(民意)に服す」という建前は、「餅は餅屋」、という論理というか自然な感情の前に膝を屈し、「派閥論功順送り大臣」が「官僚の振り付けで踊る」という図式が出来上がっていった。大臣なんて飾りです。国会なんて儀式です。首相なんざ誰でも一緒、、、で、あれば、パブコメどころか、有識者会議など刺身のツマっすよ(上記「パブコメに対する厚労省の姿勢」参照)。

ゲンミツには、このシカケが「優秀」だったのは、明治維新から高度成長期の終わりまでだと思う。

  • 不平等条約改正の為には鹿鳴館ダケぢゃダメだ!→芸術団体協議会、上野山集団*5
  • コクミン皆保険!→医師会とか。
  • アメリカより良いモノを作れば行ける!→自工会とか、JEITAとか

手許ではこれを、発展途上国型の開発独裁から「独裁者」を引っこ抜き、代わりに「一個日本人是虫、一群日本人是龍」を乗っけたものと理解している。様々な分野で「追いつき追い越せ」「上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フヘシ」をやるには、おそらく無敵の優秀さだと思う。
でも「追いついた後」では、ちょっとどうかなと*6

問題点

たくさんあるだろうけど、ひとまず三つ。

イ)「生業ではない立場」の民意集約が弱い:
 「消費者」や「生活者」など。もちろん官庁の職務範囲によっては、厚労省における「個々の薬害被害者のみなさん」のように生業とはほど遠い方々もカバーするが、その場合でも、医薬品販売業界や薬剤師団体などのほうが、入力値がデカく、恒常的で、細緻だ。

ロ)イノベーティブな新種産業の増大に対応できない:
 イノベーティブな新種産業と既存業界で利害が対立する場合、既存業界はカスミガセキを動かして様々な妨害策を採れる*7。これを「カスミガセキが既存業界と結託している」と取る事もできるが、「カスミガセキの情報源がトラノモンやマルノウチに偏っている事の反映」と取る事もできる*8
 この場合、新種産業の取りうる道は二つある。1)同業他社がある場合、トラノモンに業界団体を作り、カスミガセキに自らの利害を入力する(例:ゲーム業界、但し任天堂は除く)。2)同業他社がない場合、「選挙で選ばれた国会議員の統制」を使って、カスミガセキに自らの利害を入力する(例:リクルート事件)。一応、3)「なにもしない」とライブドア

ハ)ケイレツの崩れ/終身雇用の減少に伴う精度低下:
 ケイレツ、すなわち「親分・子分の関係」が崩れ「ビジネスライクな関係」が増えると、マルノウチに集まる情報は偏る*9。さらに「終身雇用」が減れば、なおさら偏る。その結果、トラノモンもカスミガセキも偏って行き、国全体として「政策に俺の利害が反映されてない感」が高まったり、頭の悪い国会議員が派遣村で「マジメに働く気のある人達なのか」と言ってしまったり、する。
 従来は、「非ケイレツ・非終身雇用」な人々の「民意」は公明党共産党が引き受け、「選挙で選ばれた国会議員の統制」を効かせてきた。のだけど、その手法が「国対政治」とゆうこれまた不透明なもの(一応、公明と組んだ自民はサスガだなーとは思う)。

当面の打開策

要するに、図の「事実上の統治機構」は、「追いつき追い越せ」の目標と具体策を「業界のみんな」で決めるシカケなので、ありとあらゆる種類の「構造変化(イノベーションパラダイムシフト)」と対立しがち。ひらたく言えば「じだいおくれ」だ。

「追い付き、追い越してしまった後」では「次の成長エンジンはナニカ?」と言っても手本がない。無理に「事実上の統治機構」の枠内でやれば無駄に税金を費消する。したがって、自由放埓な試行錯誤を、横槍・同調圧力・他人の迷惑を考えろ、などの形で抑止する圧力は、ある程度弱めなければならない*10

これは、中央省庁をくっつけようがバラそうが、天下りを禁じようと叩こうと、大した効果は無いように思う。「事実上の統治機構」てゆうか、文官統制とゆうか、テクノクラート・コントロールとゆうか、、、政治風土?*11そのものに手をつける必要がある。

もちろん、ただ解体すれば良いというものではない。跡地の真空状態に突っ込むものを用意しないとえれぇ事になる。昨今の国家は「行政に通じた専門家(テクノクラート)」が、いろんな分野ごとに居ないと回らない事実は変わらないし、「事実上の統治機構」は、それ自体が日本最強の政策シンクタンクでもある。餅はやっぱし餅屋さんなのだ。餅屋さんてみたことねーけど。

また「非ケイレツ・非終身雇用」な人々が増えたといっても、この層が日本の圧倒的大多数に達した、という状況ではないし、彼らの「民意」を引き受ける公明や共産が伸びているとて、両党に「全体最適戦略」を練り込あげる度量があるわけでもない*12

こうした「統治構造のリストラクチャリングは、ほとんど「明治維新のやり直し」なみの手間ひまが掛かりそうだなというか、とうぶん退屈しないで済みそうだというか、ぶっちゃけおいらには目指すべき理想図は描けない。

という事で当面の打開策ですが;

さまざまな局面で、上記1,2のケースが増えてゆくと思う。それを積み重ねていきゃあ、飾りモンの議事堂や大臣や首相にタマシイが入ってくるんでないかなぁ*13

、、、そんなわけで

「実力行使をするなら損害賠償請求訴訟を起こすことになる」(実演家著作隣接権センター)

「やってしまへやってしまへ」。と思っているのです。

*1:反面、不透明でもあり、腐敗もまた起きやすいのだが、透明で厳格なルールには、画一的で融通が効かず、チェックコストが莫迦にならない。というデメリットがある。

*2:こうした諸団体までは「業界団体」だの「権益集団」だの言われると腹立つと思うけど、ちょっとここは堪忍してつかぁさい。

*3:郵便、海保、道路など全国展開する組織の、さらにノンキャリまで網を拡げると、死兆星の天の川で溺死する。

*4:ハイライトは、80年代に北米企業から日本企業の根拠地を守り抜いた「非関税障壁の数々」だろう。

*5:帝国美術展覧会(現在の「日展」)など、一連の上野山を根拠地とする組織集団は、元を辿れば「明治時代のソフトパワー論」にいきつく筈だっ!!

*6:民主的かどうかは、ここではあんま気にかけてないです。「最大多数の最大幸福」に近づけるなら、「制度に対する納得度」は二の次です。

*7:かつては北米企業に対する非関税障壁として有効な「免疫システム」だった。

*8:例えば、仮にJEITA非加盟のASUSACERが「公正な市場環境を整備してほしい」と思っても、彼らは行政とのパイプという点で圧倒的な劣位にある。サムスン日本撤退の真相が明らかになる事はないだろう。サムスン自身、再上陸の妨げになる事を恐れて口を閉ざす筈だ。構造的には、JEITA記者クラブは同類項であるように思う。

*9:というか子分の無い親分は「子分の事情」を考えない。

*10:cf.自由 - RCサクセション

*11:文民統制、すなわちシビリアン・コントロールという奴も明文的な原則というよりは「常識に基づく原則」の範疇らしい。

*12:この2党は「がっちりした党員組織が日常的に稼働している」点では、日常的に、具体的な政策に必要な情報を収集し、整頓し、優先順位を付ける作業に勤しむ英米の「政党」に最も近い。政策やテイストの支持不支持はともかく、この機能はぶっちゃけ民主にもない。自民は各種の「政策調査会」を常設し、「生業別の民意集約機構」の各階層と「地域別の民意集約機構」の擦り合わせを行っているが、主要情報源が「官僚のご説明」である点で、テクノクラート・コントロールの影響下にある。

*13:もし裁判員制度行政訴訟にもかかるんだったら行く気マンマンっすよ。選挙権並みの「義務かつ権利」と看做しますよ。