大日本印刷のブックオフ出資

(*DNPの*)常務取締役、森野鉄治氏は、その目的を「広義の意味での『オン・デマンド』の実現」だと話す。

■サクヒンビジネスの多毛作(書籍版)

Window 出荷数 一点あたり利益 備考
豪華装丁の愛蔵版 -
新刊ハードカバー -
ペラい文庫版 →1)昭和2年New!!、岩波が開拓
New!!新古 顧客が支払う
平均単価ダウン
→2)再販価格指定下の新古販売は、
一点あたり利益が新刊よりも高くあり得る。
New!!中古 ブックオフ問題:「価値の創造者」への配分が無い。
New!!レンタル 『05年の著作権法改正で書籍の貸与権が法制化されたことで
(*コミックのレンタルが*)可能となった』
New!!kindle →3)漢字やスクリーントーンにはdpiが足りない。

  • 1サクヒンあたり利益を最大化するには、「多重ウィンドウの中央制御」が必要。
    • いつ、どのWindowに、いくらで出すかを決断する「見切りのウデマエ」の事。
    • 香具師、詐話師、興行師。*1
    • 波及要素
      • 「1サクヒンあたり利益」が向上すれば、「芸人のとりぶん」も増える。
      • 「興行師のオヤブン」は競合ある事が望ましい。横並びだと「甲斐性の競争」が起きない。
  • 「顧客が払う平均単価が低いウィンドウ」の新設は、「岩波エフェクト」を産む→1)参照。

1)読書子に寄す ー岩波文庫発刊に際してー:岩波茂雄*2

真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚味ならしめるために學芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる要求である。岩波文庫はこの要求に応じそれに励まされて生まれた。それは生命ある不朽の書を少数者の書斎と研究室とより解放して街頭にくまなく立たしめ民衆に伍せしめるであろう。近時大量生産予約出版の流行を見る。その広告宣伝の狂態はしばらくおくも、後代にのこすと誇称する全集がその編集に万全の用意をなしたるか。千古の典籍の翻訳企図に敬虔の態度を欠かざりしか。さらに分売を許さず読者を緊縛して数十冊を強うるがごとき、はたしてその揚言する学芸解放のゆえんなりや。吾人は天下の名士の声に和してこれを推挙するに躊躇するものである。このときにあたって、岩波書店は自己の責務のいよいよ重大なるを思い、従来の方針の徹底を期するため、すでに十数年以前より志して来た計画を慎重審議この際断然実行することにした。吾人は範をかのレクラム文庫にとり、古今東西にわたって文芸・哲学・社会科学・自然科学等種類のいかんを問わず、いやしくも万人の必読すべき真に古典的価値ある書をきわめて簡易なる形式において逐次刊行し、あらゆる人間に必須なる生活向上の資料、生活批判の原理を提供せんと欲する。この文庫は予約出版の方法を排したるがゆえに、読者は自己の欲する時に自己の欲する書物を各個に自由に選択することができる。携帯に便にして価格の低さを最主とするがゆえに、外観を顧みざるも内容に至っては厳選最も力を尽くし、従来の岩波出版物の特色をますます発揮せしめようとする。この計画たるや世間の一時の投機的なるものと異なり、永遠の事業として吾人は微力を傾倒し、あらゆる犠牲を忍んで今後永久に継続発展せしめ、もって文庫の使命を遺憾なく果たさしめることを期する。芸術を愛し知識を求むる士の自ら進んでこの挙に参加し、希望と忠言とを寄せられることは吾人の熱望するところである。その性質上経済的には最も困難多きこの事業にあえて当たらんとする吾人の志を諒として、その達成のため世の読書子とのうるわしき共同を期待する。
昭和二年七月

近時ふろく付き予約出版の流行を見る。その広告宣伝の狂態はしばらくおくも、不朽の名作と誇称する長編まんががその編集に万全の用意をなしたるか。千古のまんがの翻案アニメに敬虔の態度を欠かざりしか。さらに特売を許さず読者を緊縛して指定価格を強うるがごとき、はたしてその揚言するカルチャー・ファーストのゆえんなりや。吾人は天下の名士の声に和してこれを推挙するに躊躇するものである。

なんちて。

2)再販価格指定下の新古販売は、一点あたり利益が新刊よりも高くあり得る。

ブックオフは、1月の段階で、全店舗の17%にあたる161店舗に「B★コレ!」という棚を設置し、新古本を販売している。新古本は一度売買された古本ではなく、あくまでも発売から時間が経過し、出版社が処分のために通常とは別のルートで流通させるものだ。

まず太字部分を「産業廃棄物の処理ルート」と取ればこうなる。

  • 出版社が産廃処理業者に引き取ってもらう(有償)
  • 産廃処理業者がブックオフに引き取ってもらう(有償)
    • 産廃業者には、以下の選択肢があり得る。
  • ブックオフが消費者に引き取ってもらう(有償)

よくも悪くも「処分する」とはそういう事だ。ここは「情緒産業の思考回路」を捨てて、「モノベースの思考回路」で見る必要がある。ブックオフ仕入れパターンがどちらであっても、一点あたり利益は新刊よりも高くあり得る。彼らは「情緒産業の思考回路」が、過剰生産として捨てた複製物〜〜「モノベースのドブに捨てた複製物」の中に、再び「情緒産業の思考回路」を持ち込んだわけだ。

次に、太字部分を「裁断用として一旦簿価をゼロ計上したものを別ルートで流す事が可能」〜すなわち、出版社自身が「ゴミでも売れる!」と気づいた場合〜と取れば、この場合でも一点あたり利益は新刊よりも高くあり得る。ブックオフに直接買い取り請求すれば良いからだ。間に中間業者を挟むにしても、「産廃処理費を払うマイナス」よりは「買い取り金が入る」ほうが利益になる。ただしこれは、再販価格指定制度の理念に対する背信である。また簿価をゼロ計上した時点で「価値の創造者」にワケマエを与える名分も消える事を考えれば、彼らに対する収奪とも言える。

最後に、出版社が「情緒産業の思考回路」を維持したまま、過剰生産してしまった「知識と美の複製物」を「通常とは別のルートで流通させ」ている場合。これは再販価格指定制度の「抜け荷」である。もしも再販価格指定が文化を守る為にあるのなら、生産調整による販売機会の逸失を甘受し、生命ある不朽の書を少数者の書斎と研究室に戻すべきである。

3)kindle

しかしながら、こうした施策がどれほど実現するかはまだ未知数だ。来年には、Amazonの電子ブックリーダー端末「Kindleキンドル)」の日本上陸が予想されている。日本でも富士通フロンテックの「FLEPia(フレッピア)」など、すでに電子ブックリーダー端末が販売されている。新刊や中古、新古などと多様な紙媒体の販路を調整する中、次は電子出版という大波が押し寄せることが考えられる。出版業界は、来年以降も、現状では予想できない動きを見せるはずだ。

  • kindle類はABCには充分でも、漢字やスクリーントーンにはdpiが足りない。これは解決の目処が遠い。
    • 聴覚(音楽)と動体視力(動画)は人間の知覚の中でも誤摩化しやすい部類。
    • 対するに、静止視力は人間の脳が最も依存する知覚であり、従って最も誤摩化しにくい。
  • また日本の出版物は、紙質や印刷精度も欧米とはレベルが違う。

従ってkindle類は、New!!付きWindowの中で最も未知数度が高いと思われる。「漢字のカベ」と「まんがのカベ」は決して低く無い。
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DNPの思考回路をエミュレートすっと、だいたいそんなカンジぢゃないかなぁ。

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*1:「情緒産業」はモノベースの思考回路にステルス性を持つため、捕捉困難となる。例えば「コンテンツの価値はゼロになるのが正しい」などの言い回しや、「コンテンツ」という言葉の発生そのもの。口が裂けてもコンテンツ云うな。アレは配管工の使う言葉だ。

*2:縦書きでないと甚だ読みにくい。Web標準なんて大嫌いだ。MacIEを出してくれ!