労働集約型の生産技術開発。とか。

それまでの日本は、スイスより安くて良い時計→独逸より安くてよいカメラ→アメリカより安くて良いクルマ、、、という具合に「価格性能比」を武器にのしあがって来た。「高級」でも「高性能」でもない。そんなものはシェアさえ獲ればついてくる。大切なのは、「これだけついてこのおねだん!」だ*1

  • 1955年にはアメリカにテレビジョンを作っている企業が二十七社もあった。しかし1985年には一社だけになってしまった。
  • 最もドラマティックだったのは半導体である。メモリーについては1975年から85年の十年の間にアメリカの世界シェアは100%から18%に急落し、ほぼ同じ時期に日本のシェアは3%から80%に急増している。

『ものつくり敗戦』P173~174

そりゃその勢いでヨソをぶっ倒してりゃ実入りは伸びる(先方から見りゃ「侵略」にも見えただろう)。

主な武器は人口の多さ。そこから来る相対的な低賃金(非・工場なら長い労働時間)と、カイゼンに代表される「労働集約型の生産技術開発」だ。「一億総中流」というのは、主にこうした「加工貿易」が稼いだお金を、ワークシェアリング的に日本全体に回す事で成立していた(これで国内市場も育ってきた)。

事実上のワークシェアリング地方交付税交付金、公共事業、土建談合、陳情、かんぽの宿、高速、国道整備、新幹線、整備新幹線、などなどなど、、、。それが「最大多数の最大幸福」に繋がるなら、そうそう悪いもんではない。

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駄菓子菓子。デジタル・デバイスに顕著だが、近年の「もの」は、部品買って来て組み立てりゃそれなりに格好がつく。そのほうが「価格性能比」を上げやすい。これは「カイゼン」や「擦り合わせ型技術開発」の効きが悪くなると言う事だ。

「付加価値」に占めるソフトウェアの比重も高まっている。これも「ライブラリ」を「マッシュアップ」すればそれなりに格好がつく。そのほうが「価格性能比」を上げやすい。これも「擦り合わせ型技術開発」とは相性が良く無い。

こうなると「新興国の圧倒的な低賃金」のほうが強いわけだが、それよりも深いところで、「付加価値競争のルール」が変わって来てもいるらしい。つまるところ「擦り合わせ型技術開発」は、「一品ものの職人芸」に近い立場に立たされているらしい。

普遍性がない。共通プラットフォームがAPI公開で瓢箪からdllが出て桶屋が儲かり一同Win-Win(←よくわかってない。複雑系とか言うらしいが、ふくざつだ。)みたいな事がやりにくい。OSやソフト開発が振るわず、ケータイやTVがガラパゴス化したりする背景には、そういう事情があるらしい*2
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※自動車会社にて
部下「部長、先日見積もり依頼した部品会社2社から回答来ました。」
部長「地元の会社はなんと?」
部下「『仕様書どおり製品1000個につき1個の不良品では納期が間に合いません。
    延長お願いいたします』と。」

部長「日本の会社はなんと?」
部下「『仕様書にある製品1000個につき1個の不良品の図面が入っておりません。
    送付お願いいたします』と。」
民族性ジョーク

80年代あたりの米人労働者に、「タイムカードを押した後でQC活動に参加」する理由はない。そんな事をしても、ぐいぐい売上げがのびたり、ぐいぐい利益率があがったり、ぐいぐい給金があがったり、するとは思えなかっただろう。で、あれば、終業時間きっかりに帰れるよう、支度を整えてタイムカードの前に並ぶ方が良い。「いつでも削減できる安全弁」と扱われれば、誰でもそうなる。
当時の日本では、その逆が起きていた。しかし昨今では「似たような事」が起きているようだ。

※技術者の内訳比較
- ハードウエア設計 ソフトウエア設計 プロセス開発 動作検証や品質管理
海外ファブレス 30〜40% 20〜40% 10%程度 10〜40%
日本 37% 6% 18% 39%
 なぜ日本だけが儲からない? 半導体世界戦争(下) | 週刊ダイヤモンド 産業特集 | ダイヤモンド・オンラインより作成

上記記事によると『過剰な動作検証・品質管理は、重い本社人員に加えて、一人当たり収益を押し下げる要因になっている』のだとか、、、地の文から計算すると海外ファブレスにも動検品管40%の会社はあるようなのだけど、ソフト設計の手薄さは否めない。たぶんARMのような(またCellが狙ったような)アーキテクチャーライセンスは難かしいだろう。

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ひとまず価格競争力を維持するには、「相対的な低賃金」をさらに安くする必要があるわけだが*3、それは、これまでワークシェアリングに回してたぶんを喰うという事だ。

「一億総中流」じたいは幻想だが、てっぺんと底辺の差が開き過ぎるのも困る。「一億総中流」と「2/3の中流+1/3の下流」では、後者の方が税収もGDPも下がる。1/3が家計を切り詰めるだけだからだ。「1/3の上流+1/3の中流+1/3の下流」は尚悪い。上流がどんなにお金を使ったって、一日に6食喰うわけではないからだ。

「2/3の中流」や「1/3の上流」がガンガン稼いで、ガンガン使って、ガンガン税金も収めて、それが「事実上のワークシェアリング」に回るなら大した問題も無い訳だが、「ガンガン稼いでた大黒柱」がナニでアレになっているので大した問題になっている。

これは困る。江戸時代なみの一汁一菜*4に戻そうが、鎌倉時代なみに一日二食に戻そうが、1億人が喰うのは難しいからだ。

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そうすると、「最先端の製品」よりは、「不可欠の部品」ないし「土台の提供」を抑えたほうが、景気変動に強いだろう。

莫迦には見えない服ビジネス」は、景気変動に弱いが利益率は高い。材料費が安くつくので、無資源国としては抑えておきたい所だ。

  • コカコーラのブランド、ディズニーの著作権NIKE、GAP、、、
  • 観光。

「アンドロイドのドコモドロイド化」は、案外面白いかもしれない。単純に「アンドロイド・マーケットにパラダイス鎖国を被せる」だけなら論外だが、i-modeのコンテンツや決済機能を移植してやれば「世界で最も進化したユーザーエクスペリエンス」を輸出できるかもしれない。移植といっても、技術というより「サービス・ポータルの経験」というか、「アンドロイドのiPhone化」で「googleさんとWin-Win」みたいな*6

いずれにせよ「ものつくり」だけに稼ぎをお任せしておっては、保たない。「ものカルチュア」はイロイロとマズい。

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  • 2025年「世界は多極化」米情報評議会が予測 - 081122-朝日新聞朝刊
【ワシントン=梅原季哉】米政府の全情報機関の分析予測を統括する国家情報評議会(NIC)は20日、2025年の国際情勢を複数のシナリオで予測した報告書を発表した。米国の政治経済的影響力が相対的に低下し、国際社会は多極化に向かうと予測。資源競争や不安定化のリスクは増えるとの見通しを示した。

報告書は、経済のグローバル化などによって、国民国家で構成される国際社会システムはほぼ形をとどめなくなると分析。従来の西側経済発展モデルに代わり、中国やインド、ロシアに代表される「国家資本主義」が力を増すだろうとした。とりわけ中国は、世界第2位の経済大国となり、「今後20年問、どの国よりも世界に影響を及ぼす位置にある」との見方を示した。

はて、力を増した「国家資本主義国家」が構成するのは「国民国家で構成される国際社会システム」とそんなに違わないのぢゃないかという気もするが、「国家資本主義」て事なら日本のお家芸でもある。小泉改革が志向したのは「従来の西側経済発展モデル」への転換だと思うんだけど、どうも人気ないみたいだし。結果が出るならどっちでも良い希ガス

*1:一億総たかた化

*2:独りゲームのみが気を吐いて来たのは、「一品ものの職人芸」が効きやすい世界だったから、と考える事もできる。

*3:新興国中流」を獲ろうと思ったら、平均売価をガクンと落とす必要がある。車ならTata nano並みにして、G20市場トータルでシェアをかっぱがないと、フェラーリ化する。

*4:ご飯とみそ汁とたくあん。程度のもの。

*5:いくら個々の要素技術が強くても、全体システムの主導権を握れなきゃ「下請け」だ。

*6:キャリアのままじゃ難しいかな。分社化したほうがいいのかな。