行政刷新会議の「事業仕分け」雑感

 行政刷新会議の「事業仕分け」は、国民の注目を集めた一方、産業育成や科学技術振興にかかわる事業にも大なたが振るわれ経済界には波紋が広がった

  • 産業育成が減って、経済界に余波がゆくのは解る。
  • だが科学技術振興が減って、経済界に余波がゆくのは、『民主党自民党と違い、科学技術予算の拡充をもくろむ経済界との間にしがらみがなく、遠慮なく縮減できる。[朝日朝刊2面, 20091126]』という事だろうか。

 道路整備など公共事業に切り込んだ結果、地方経済をさらに落ち込ませる危険もはらんでいる。日本経済は急激な円高とデフレに見舞われており、「仕分け」の一方で、鳩山政権は早急に経済成長に向けた処方せんを示す必要がある。

これはちと待てよと思う。円高とデフレはどちらも「よい/悪い」と一概に言えるものではない。評価は立ち位置で代わるからだ。

以下抜粋要約:

  • 今回の消費者物価下落の大きな原因の1つは、原油価格の低下。それで消費者物価が下落するのは特に問題ではない。
  • 心配するなら、むしろ今後の原油価格の上昇のほう。これはインフレ、それも国内に利益の残らない形のインフレを呼ぶ。
  • デフレといっても、下落しているのは工業製品、なかんずく耐久消費財。サービスの価格はほぼ不変。
  • そもそも「工業製品の価格低下」は、90年代からの長期的な傾向。
  • 大雑把に、90年に比べサービス価格はほぼ2割上昇。対するに工業製品価格は半分以下。
  • 原因は主に2つ。1)冷戦の終結。安価な労働力が世界中で急増した。2)ITの進歩*1
  • ドルに連動してウォンと台湾ドルも落ちている。東亜諸国の通貨減価は日本の輸出産業には大きな脅威。
  • 少なくとも、ドルの下落は食い止められない。政策金利では、日米金利は逆転した。
  • 製造業は、生産拠点の海外移転を促進するしかないだろう。
  • 消費者の立場から言えば、安くなった工業製品を使って、サービスに代替すべきだ。
  • 供給者の立場から言えば、製造業をやめ、サービスを売るビジネスモデルに転換すべきだ。
  • 日本の場合に問題なのは、製品をつくる立場の考えだけが強く主張されてきたこと。

ひらたく言うと、『日本経済は急激な円高とデフレに見舞われており』という言い回しは、これ自体がすでにポジショントークなのだ。いや別に読売の記者さんがナニカの手先という意味ではなく、脳内になんか堅めの枠組みが住み着いてるという意味。これは『経済成長に向けた処方せん』の選択肢を狭める。例えば、事業領域のエクソダス、産業構造の新陳代謝促進、「大企業あっての中小企業」という思考回路の転換、など。

頭書記事に戻る。

 9日間にわたった仕分け作業の判定結果で、翻弄(ほんろう)される企業が相次いだ。
 中型ロケット「GXロケット」開発計画が「廃止」を求められたのに対し、計画に参加するIHIは「議論に用いた資料に誤情報がある」と指摘する反論文書を政府に提出した。結局、平野官房長官は26日の記者会見で誤りを認め、再検討する方針を表明した。しかし、この迷走の間にIHIは株価が1割以上も下落する事態に見舞われた。

さすがにそれはちょっとIHIがかわいそうだが、どんだけ国に依存してるんだというキモチもなくはない。レイセオンぢゃないんだから!、、、と思ったけど、オカネの流れで考えたら米国の軍需産業と被るとこがあるのか。GX計画の妥当性など自分に解る由もないが、正直このへんのテーマは、もっと上のレベルで検討して、そこからブレイクダウンすべきものだと思う。例えば、防衛、外務、経産、文科の各大臣*2と、首相で開発方針立てて、そいつを衆院予算公聴会で叩くとか、、、それとも、仕分け作業そのものが、その手の空気の醸成器なんだろうか。

 過疎地などへの携帯電話エリア整備事業は、緊急性や採算性の観点から「削減」とされ、「民間が自己負担で行うべきだ」とされた。ある通信会社は「携帯電話はもはや社会インフラだ。補助がなければ私企業として取り組む限界もある」とため息をつく。
 「コンクリートから人へ」とのかけ声で、農林水産省の農道整備事業など自民党政権が権力基盤としてきた公共事業にも切り込んだが、「地方の景気や雇用には確実にマイナスになる」との声もある。

ぶっちゃけこのへんは、地方交付税交付金の配分を、人口比例にするのが手っ取り早いんぢゃないだろうか。使途限定ナシナシで。省庁単位の目的型補助金は、どうしたって省益と利権がついて回る(ドコだよ『ある通信会社』ってw)。自治体に入るオカネは実質減るだろうけど、そこで「携帯アンテナと農道整備、ウチラに必要なのはどっち!?」と県や市区町村議会でやるのが民主制というものではないかと。

 三菱UFJ証券景気循環研究所の嶋中雄二所長は今回の事業仕分けについて、「明確な成長戦略を持たないまま、企業の負担増につながる予算削減だけに政権が没頭した」と指摘している。(経済部 宮崎誠
(2009年11月28日00時05分 読売新聞)

実はやってる事は小泉改革より厳しい。「改革ドリーム」で引っ張ってゆくか、「フリーランチは終わりだ!」と自助努力に追い立てるかの差でしかない。なにしろ国庫は火の車だ。うかつに「改革ドリーム」をまき散らすほどのゆとりも、もはや無い。

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乱暴に言うと。
小泉改革の時代は、科学技術予算の拡充をもくろむ経済界*3や、地元の利益誘導をもくろむ族議員や、改革に協力するから補助金を、などの「古き良き自民党時代の思考回路」「高度成長期に確立した行動様式」が、今(09Q4)よりずっと多かった。

敢えて世代論に踏み込むと、実は日本の「団塊世代」は、生まれてこのかた「昇ってゆく経済」しか知らない。「バブル入社組」でさえ、20までは「昇ってゆく経済」しか知らない。「自分たちは親より貧しいくらししかできないのでは」という感覚〜理屈による理解ではなく、収入の多寡から来る実感でもない、もうすこし根源的なもの〜を持つ人は必ずしも多く無い。「経済大国のピークアウト」は非常にゆるやかだからだ。刷り込まれた思考回路や行動様式を自覚的に変えるのは、決して平易な作業ではない*4

オザワン民主はそうした思考回路との間のしがらみが薄い。あくまでも"So far"であり、相対的な差でしかないし、世代的な制約もあるだろうが、集団としては、より冷酷なコストカッターになれるだろう。

2010年度の概算要求 2009年度の税収見込み 差額
95兆円 38兆円以下の可能性 57兆
「事項要求」を加えると少なくとも97兆円程度 - 59兆

事業仕分けで削減できたのは1兆6千億に過ぎず、しかもその52%(8400億円)は「基金の返納」という奴だ。つまり、こんなもんでは済まない。

おそらく日本の2010年代は、米国の1980年代に似たものになるだろう。経済が脱工業化を果たし、それに適した社会構造が軌道に乗るまでは、たぶん、とてもくるしい。んが、その先に「日本型」と呼ばれる格差の少ない脱工業化社会を編み出せるなら、それわそれでというか、そのために頑張らねばというか。

なに国家は破綻しないから国債なんかバンバン刷っちゃえ?バカいってんぢゃないよ。そんなアクロバティックな綱渡りで誰が自助努力を志向しますかっつの。両足を地につけず、国債補助金の竹馬にのっているような経済は、この際一掃してしまへ。男は黙ってドッジ・ライン!(しぬっつのw)

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行政刷新会議の「事業仕分け」については。

  1. 予算と政策を「省庁と業界の専門家が決め、そこに族議員が取り付く」という意思決定プロセスに、
  2. 消費者、生活者、納税者、つまり「生産者以外の立場」が、制度的に介入したのは戦後初、もしかしたら帝政期含めて憲政史上初なんでないかと思う。

個別には乱暴に見える部分もあんだけど、元の閉鎖性に戻りたいとも思わない。望むらくはこの「歴史」が、「衆院予算公聴会」のような制度を産む事を願いたひ

*1:※たぶんサプライチェーンマネージメントの劇的なカイゼン、ホワイトカラーの労働生産性向上、例えば「マクロはずる!」的な精神論の縮退。など

*2:重要度この順。科学技術に投入される税金は、国の防衛外交経済に奉仕するものでなくてはならないと思。スパコン計画もロケット計画も、このへんの「順序感」がイマイチ整ってない。なんとなく「ほしいねー」「そうだねー」「ひつようだねー」「きっとそうだよ」で進んでいるように見える。それが無きゃなんも始まらんのは確かだが、見えてしまうようでは税金支出になじまない。

*3:あんど、無自覚に人寄せパンダを買って出て、Lv.1マヌーサが効かない相手を「モンスター」扱いするみなさま

*4:だから世代論嫌い