せいゆうさんのとりぶん

1)名探偵コナン毛利小五郎の場合

神谷さんが「週一レギュラーでも一本10万円いかない」と言うと「声優として最高ランクの神谷さんでもそれなら安すぎる」と会場は騒然となりました。
以下、原文ママのスタジオの会話。

  • 芸人1「視聴率のこととか考えたら10倍くらいもらってもいいぐらいですよね」
  • 神谷2「ただ、テレビの場合は僕はある程度仕方ないと思ってるんですけど・・」
  • 東野「それがDVDになったりしたとき、DVDの売り上げの印税的なものは?」
  • 神谷3「買取の場合ですね。”オールライトクリア”って言うんですけど、全部買い取りでナイショ(ピ−が入った。残念)ですよ。」
  • 芸人「うわ・・・・安いですね・・・・」
  • 神谷「何も言えないです。(苦笑)」
  • 芸人「え・・・・それで(ギャラは)終わりですか??」
  • 神谷「そうです」
  • 芸人「全部買取で・・・エエエエッ!? 」

安すぎるギャラに驚く芸人たち。

  • 下線1)確かに安いし、驚く。
  • 下線2)しかし、「視聴率貢献度」という軸で考えると、
    • この手のアニメは「原作のネームバリュー(キャラクターと脚本)」が最も高い。次に「絵がうごく!」。
    • 「しゃべる!」と「音楽がついてる!」はその後に来るのではないだろうか。もちろんイマドキ「サイレント」で客が呼べるワケもなく、それらの総合力が視聴率に貢献するワケだが、、、
    • ひな壇芸人さん」は、一人で動くし喋るしネームバリュー(キャラとネタ)も持っている。
    • 「視聴率に制作費を出す側」から見れば、そう見えるだろう。
    • したがって『テレビの場合はある程度仕方ない』と思われる。仮に、視聴率も制作費も同一のバラエティとアニメがあった場合、アニメの方が、ギャラがあちこちに分散するからだ。
    • そしてスポンサーは「なるたけ安い値段で高視聴率」を求める。アニメは手間が掛かるんです!ギャラの払い先も沢山あるんです!と言ったところで、同じスポンサー料で同じ視聴率を稼ぐ番組があるなら、彼らはそちらを採る。
  • 下線3)DVDの「オールライトクリア=全部買い取り」は、「印税」など「利益のとりぶん」ではなく「とっぱらいの手間賃」や「後から文句いいません料」に近いものと思われる

2)サザエさんの波平の場合

  • 1988(昭和63)年9月号の「オール讀物」(文藝春秋社)の記事。筆者は永井一郎氏。
  • 実際のギャラは1本につき4万3200円。
  • 所属事務所に手数料20%
  • さらに源泉税
  • 最終的には〜(年収で)164万円
  • 1ヶ月の収入は13万7000円足らず。
  • 1982(昭和57)年現在で、標準4人世帯に対する生活扶助基準額が14万3345円。
  • 1その後、“闘争”と“交渉”で1本につき4万5000円に
  • 2さらに2001(平成13)年の時点で「目的使用料」80%が加算1本につき8万1000円に
  • 結果、年間305万円強までUP。
  • 下線1)バブルまっさかりの時期で一本1800円しか上がってない。
  • 下線2)今世紀に入って加算された「目的使用料」の趣旨は不明だが、
    • この時期にはDVD市場の誕生(PS2)や、
    • マルチメディア・ブームの中で、「コンテンツ」だの「ワンソース・マルチユース」だのといった単語がもてはやされていた。他にも「ジャパニメーション」とか、「ソフトパワー」とか、「ブロードバンド」とか、「ソフトいや、ビデオ・オン・デマンド」、などの単語が、日経脳の間に蔓延していた。
    • 実は80%もの「目的使用料」には、「来るべきブロードバンド時代」を睨んで、権利関係をすっきりクリアしておく為に導入された、「コレ貰ったらあとから文句いいません代」の意味合いがあったのではないか?これが前項の「オールライトクリア」なのではないか?

…にしても、波平さん年収305万。ぬお、元祖ワーキングプア!!というのは、しかし短絡だろう。永井一郎さんは磯野波平ではないし、神谷明さんも毛利小五郎ではない。

3)お二人ともお仕事がそれダケという事は考えにくい。

波平さんクラスのレギュラーが三本あれば、年収900万になる。また、払いの良いCM界からお声が掛かれば、それはそれで助けになるだろう。そこを目指せと言ってもなかなかなれるものではないし、あっても不安定な事甚だしいが、、、基本的には、それがショウビジネスというものだ。
ただし、永井さんも神谷さんも、全盛期をクソ安い賃金で過ごされて来た事は事実だ。また、下っぱや無名の若手は「とっぱらいの手間賃」で喰うや喰わずが当たり前でも、頂点の収入は、もうちょっと高い方が望ましい。できれば、過去の出演作が、テレビで再放送されるたびに、光学ディスクが一枚売れるたびに、ネットで一回再生されるたびに、芸人に応分のとりぶんが渡るシカケがあるべきだろう。

だが日本の映像ビジネス〜なかんづくテレビアニメ〜は、以下のオカネの流れの中で発展してきた。

4)テレビ番組のおかねの流れ。


一般アニメ(非・製作委員会方式)の著作権は放送局が持っている。「製作・著作◎◎◎」という奴だ。

仮に、「製作=著作権保有する事」、「制作=手を動かして作る事」とすると、通常「製作」は「オカネを出した者」が務める。あるいは「制作費をかき集めてきた者」と言っても良い。まんがや小説の著作権に比べると、ちと飲み込みにくいのだけど、映画でもゲームでも、「多彩な芸人が協力しその総合力が魅力を創るサクヒン」かつ「個人では創出資金を出しがたいサクヒン」は、ほぼこの体裁になっている。要はイニシャルの制作費なのだ。大工さんが自分の家を建てても、資材を買うのに借金してれば、ローンを終えるまではその大工さんの家ではない。銀行なんてカネ出しただけだろと言っても、そのカネがなきゃ家が建てられないなら、オレが建てたと言えるだけなのと似ている(かえってややこしいが、一番偉いのが大工さんなところは似ている)。

しかし「製作・著作◎◎◎」な番組と、映画やゲームの違いは、サクヒンを売っていない事だ。このビジネスモデルの中では、もともと全てのテレビ番組は広告であり、「芸人」は「チンドン屋さん」に過ぎない。歴史的にはラジオもテレビも「放送」と名のつくものは、そこからスタートしている。せざるを得ない。「送りっ放し」しかできないから。

ところで。PDF無料配布で有名なクリス・アンダーソン著 『フリー 無料からお金を生みだす新戦略』に、これに似た図があった。

実はこの図と前の図には大きな違いがある。著作権の所在だ。クリスさんの図中では、著作権の所在が明瞭でない。「製造者」が広告プラットフォームの製造者を意味するなら、コンテンツは外部から「借りて」くる事になる。「製造者」がコンテンツの製造者を意味するなら、広告プラットフォームは外部から「借りて」くる事になる。先述の通り日本では、一般アニメ(だけでなく全ての自社製作番組の)の著作権は、放送局=広告プラットフォームが持っている。手許で付記した「伝播回路」が、「制作者」を「下請け」にして、だ。この関係はクリスさんの図中にはない。両図の間には、「価値の創造者の自立性」に大きな差がある。十中八九、クリスさんの脳内では、広告プラットフォームとコンテンツ、ソレゾレの製造者は別個に独立した存在であり、日本の映像産業の前近代的な構造は存在し無い。

ぶっちゃけ米国の無料放送から、カネ取って売れそうな番組が生まれて来る事は考え難い。米国の無料放送は「出涸らし」だ

【ハリウッド映画に見るウィンドウ】

WINDOW1 映画興行 →0ヶ月
WINDOW2 機内上映 →1ヶ月後
WINDOW3 レンタル・セルDVD発売 →3〜6ヶ月後
WINDOW4 ペイ・パー・ビューTV →7ヶ月後
WINDOW5 ペイTV局 →1年後
WINDOW6 ネットワークTV局 →2年後
WINDOW7 ケーブルTV局 →ネットワークの1年後
WINDOW8 地方TV局 →ケーブルTV放映のあと
WINDOW9 インターネットによるオン・デマンド配信 →随時

(『ビッグ・ピクチャー』エドワード・J・エプスタイン著/塩谷紘訳/早川書房

ハリウッドと米テレビ局は、VHSが世に出るや否や訴訟を行い、敗訴するや無料放送からコンテンツを引き上げ、自ら有料放送に乗り出して視聴者から直にオカネを貰い、あるいは普及を後押ししてそれらに放送権を売る方向へ「エクソダス」した。

その過程で「放送と製作の分離」が起こった。09Q4現在の米国では、「電波免許の管理人」は「番組著作権」を持っていない。独立した番組製作会社が、各WINDOWに「放送権」を売っている。または企画書を持って回って、興味を持ったWINDOWから制作資金を集めている。ある意味、米国のテレビ番組は、全て製作委員会方式といって良いだろう。

さらに、これら有料放送に必要なチューナーは、タイムシフトはできてもディスク書き出し機能が付いていない(つけるメリットがない)。チューナーBOXの内蔵ディスクから消えてしまった「価値ある番組」を見るには、光学ディスクをレンタルするか、買って来る必要がある(だから単価が安くなる)。

この中では、「良い番組」とは「来週、高い視聴率を出す番組」ではない。多種多様なWINDOWに、くりかえし・なんども放送権を売れるのが「良い番組」だ。レンタル店で何度も回転するのが「良い番組」だ。DVDを買って貰えるのが「良い番組」だ。無料放送は「出涸らし」に過ぎない。番組はクソつまんねぇし、CMはクソ長ぇし、idiot boxどころの騒ぎでは無い。マジで気ぃ狂う。

これに対して日本の場合、「デンパキチの下請け」の中から、なんの因果か、いつのまにか、カネ取っても売れそうな(そして実際に売れる)サクヒンが、出て来てしまっている。オレここは断言するけどクリスさん、日本のアニメまっっったく理解できないと思うよ。なんで?どうして?チンドン屋さん以上のオカネが貰えない仕事で、なんでそこまですんの?って言うと思うよ。ビジネスモデル以前に、なんなのコレ?ってカンジだと思うよ。