自殺に関するメディア報道の影響力
※「WHOによる自殺予防の手引き(PDF)」を抜粋、簡略化。
自殺方法を示す本が出ると、自殺が増える。
- ニューヨークで、Derek Humphryの書いた”Final Exit”(最後の出口)が出版された後、この本にある方法を使った自殺が増加。
- フランスで出版された「自殺」という本が米国で翻訳された後に、やはり自殺が増加。
新聞報道が大々的に取り上げるほど、その後の自殺が増える。
- 研究者らによると、自殺が大々的に報道されればされるほど、その後の自殺の数が増える。
- 著名人の自殺は、とくに衝撃が強い。
テレビ報道の後、10日の間は自殺が増える。
- 同じ研究者によると、テレビが自殺のニュースを伝えた後は10日後まで自殺が増える。
- 活字メディアと同様、多くの局や番組で取り上げられ、広く知られた事例ほど影響が強い。
- とくに自殺したのが著名人の場合その傾向がよりいっそう強かった。
影響が未解明のメディア
- フィクションの番組については、影響力について意見の一致を見ていない。まったく影響がないというものも、自殺行動が増加したというものもある。
- 演劇や音楽と自殺行動の関係についてはあまり調査されていない。
- インターネットが自殺にもたらす影響について今のところ系統的な研究はない。希死念慮のある人が自殺するように仕向けるウェブサイトもあれば、自殺を予防しようとするウェブサイトもある。
啓発されたメディアが、適切で、正確で、悩みを援けるような方法で自殺を報道するならば、悲劇的な死の予防に役立つだろう。
自殺を報道する際の一般的原則
- 時間が迫っているからといって、十分に用意されていないコメントを安易に用いない。
- 件数の少ない事例を過度に一般化することに対して特に慎重にする。
- たとえば「世界でもっとも高い自殺率の地域」などといった表現は使うべきではない。
- 社会・文化的な変化に対する理解できる反応として自殺行動を報道するのを控える。
- 慎重かつ正確に統計を解釈する。
- 信頼できる情報源を利用する。
特別な自殺をどのように報道すべきか
- 自殺手段やその入手方法を詳しく報道するのは避ける。
- メディアが報道した方法が、それに引続く自殺で模倣されるという研究がある。
- 「自殺の名所」的な報道により、さらに多くの人々がその場所で自殺する危険がある。
- 説明ができないこととして報道したり、あるいはあまりにも単純化して報道すべきではない。
- 自殺はけっして単一の原因や出来事だけで生じるわけではない。しばしば多くの要因が複雑に関連して自殺が生じている。たとえば、精神障害、身体疾患、薬物乱用、家庭的な問題、対人的な葛藤、人生の問題などが複雑に関係している。さまざまな原因が自殺に関連していたことを認識するほうが有用である。
- 個人的な問題を解決する方法として自殺を報道すべきではない。
- 破産、試験の不合格、性的虐待など。
- 偏見や心理的な悩みといった問題について配慮し、遺族や他の遺された人々に及ぼす影響を考慮して報道すべきである。
- 自殺者を殉教者のように美化しない。
- 潜在的に自殺の危険の高い人に対して、社会が自殺を名誉あるものとみなしているとの意思表示になりかねない。むしろ、自殺した人を悼むことを強調すべきである。
- 自殺未遂のために身体的に障害が残った点(脳障害、麻痺など)を報道することは、自殺を抑止する可能性がある。
メディアは自殺予防の重要な役割を果たすことができる。
- 最新の電話番号や住所を載せて、利用可能な精神保健機関や電話相談機関の一覧を掲載する。
- 自殺行動の警戒兆候について報道する。
- うつ病が自殺に関連しているケースがある。うつ病は治療できる「状態」であることを報道する。
- 遺族に対して心からの追悼の念を伝えるとともに、遺族を支えるグループの電話番号なども報道する。
- これで、精神保健の専門家、友人、家族と話をする機会が増える可能性が高まる。
- ※警戒兆候やうつ病の基礎知識、ならびに、警戒兆候のある人、うつ病の人、ご遺族の方と接する際に心に留め置くべき事は、本記事の原文である、「WHOによる自殺予防の手引き(PDF)」に記載されています。
リンク
内閣府 自殺対策ホームページ
- 内閣府 自殺対策ホームページ
- 近年、年間3万人を超える方が自殺で亡くなられていることは、誠に痛ましい事態であり、深刻に受け止める必要があります。自殺は、個人的な問題としてのみとらえるべきものではなく、その背景に様々な社会的要因があることを踏まえ、総合的な対策を早急に確立すべき時期にあります。
- WHOのマスメディア向けガイドライン(英文PDF)
- 自殺総合対策大綱の概要(パンフレットPDF形式)
- 地方公共団体自殺対策関連ホームページ
- 地方公共団体自殺対策担当部署
参考
2008年4月27日 毎日新聞 きょうの怒:硫化水素自殺が全国で多発しています…
硫化水素自殺が全国で多発しています。手元のスクラップを開くと、3月は4件ほどしかなかったのに、4月に入り爆発的に増加し、10倍を超す40件以上に達しています。連日、誰かがどこかで硫化水素自殺をしていることに。年間3万人という大量の自殺者を出すニッポン。そんな社会がいいわけはありません。浴室に目張りをする時、薬剤を混ぜようとするその瞬間、もう一度考え直してください。「生きるんだ」と。
※「硫化水素自殺:」の検索結果 - 毎日jp
毎日新聞のサイトは記事見出しに"硫化水素自殺:"といった分類タグを付加している点で、他の新聞社より記事を探しやすい。これによると、08/04/28現在の検索結果は51件。最も古いものは、硫化水素自殺:札幌でも(2008年4月1日14時50分)であるようだ。単純な割り算だが、毎日新聞社は、一日あたり1.8件の「硫化水素自殺:」という見出しを持つ記事をWeb上に放流している計算になる。もちろん、これを止めたいという善意の存在は十分に感じ取れるものの、その影響についてはご一考いただきたい。
同じ社会派系と目される事の多いasahi.comではタグを見出しに混ぜ込まず、重要報道は「ニューストピック」なる特設ページにまとめる方針を取っているが、ここには硫化水素も自殺も無い。基本的に「社会 事件・事故記事一覧」に他の記事と無差別に並べている。最も古い日付の記事は04/26URI。個々の記事下に配された「この記事の関連情報」欄から同種記事を数件追えるカタチにはなっているが、それ以上は同時に目に入る事は無い。「硫化水素」で検索してもwikipedia等の一般サイトが並ぶのみで、そもそもasahi.com内部の記事が出てこなかった。印象になるが、記事の消滅(Web上での公開停止)も他の記事より速いようだ。
巷間、模倣自殺、または群発自殺と呼ばれるものに、自分が関心を寄せたのは、2006秋です。連日の報道が繰り返す「ゲーム感覚」「ネットの影響」「おどろおどろしい演出」などの中で、「WHOによる自殺予防の手引き」をひき、報道自粛の口火を切った筑紫哲也さんの見識には、現在も敬意を持っています。
2008年4月25日 毎日新聞 社説:硫化水素自殺 死を誘発するサイトの罪深さ
警察当局は監視に努めて、ネットの開設者やプロバイダーに自粛や削除を求めるべきだ。自殺との因果関係が認められた場合は、自殺ほう助罪の適用なども視野に入れて取り締まりを強める必要がある。自殺サイトに限らず、反社会的なサイトを追放する機運も、盛り上げねばならない。
生死のはざまで悩む人を自殺に駆り立てる誘因については早急に除去する取り組みが求められる。
当該記事に関しては、不勉強と言わざるを得ません。自省されたい。
2008年04月26日 Meine Sache:死を誘発するマスコミの罪深さ
ぼくはこれまで、この話題について書くのを意図的に避けてきました。1日わずか数千人の参加者しかいないブログといえども、おかしな流行の拡大に加担したくなかったからです。同じ思いのブロガーは多いと思います。しかしマスメディアは、平然と危険な爆発物に火をつけました。そして何人もの命を奪いました。
警察当局は監視に努めて、テレビ局や新聞社に自粛を求めるべきだ。自殺との因果関係が認められた場合は、自殺ほう助罪の適用なども視野に入れて取締りを強める必要がある。自殺報道に限らず、反社会的な情報を追放する機運も、盛り上げねばならない。