080722、08年労働経済白書(厚労省)朝日とかその他篇

  1. 成果主義の運用見直し指摘 08年版労働経済白書(47news.jp)
  2. 成果主義制度の改善提案 08年版労働経済白書 - 中国新聞ニュース
  3. 派遣・パートの増加「仕事の満足感低下」…労働白書 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
  4. asahi.com朝日新聞社):非正規雇用頼み、生産性の停滞に 労働経済白書

朝日のみ、非正規雇用批判に特化。

 頭書のリンク中では朝日のみ、大きく非正規雇用批判に特化しているが、他は成果主義の見直しもほぼ対等の扱いで触れている印象を受けた。端的に47news.jp(共同通信社)の冒頭部を引くと、少なくとも共同の記者は成果主義を主、非正規雇用を従と見た様子が伺える。

 厚生労働省は22日、2008年版の労働経済白書を発表した。バブル経済崩壊後、企業が導入した業績・成果主義的な賃金制度の弊害を指摘し、運用などの見直しを求めたほか、パートなどの非正規雇用の増加については、労働者の仕事に対する満足度を低下させるなど問題が多いと分析。多くの日本企業が実施し、業績回復に一役買った人事政策に、白書が疑問を投げかけた形だ。

製造業とサービス業

 これも朝日だが、製造業とサービス業という単純な括りで労働生産性を比較グラフにしており、本文でも「もともと生産性が低いサービス業」的な言い回しを使っている。間違っている、とは言わないし、一次/二次/三次産業という分類は分かりやすくもあるのだが、「三次=サービス」と単純化してしまう事には弊害も多い。ひらたくいうと「新聞記者はバリバリの情報サービス業」だ。

 当面のワーキングプア問題や「社会の矛盾を突く系」にもって行きたいのは分かるが、ずいぶんと乱暴であるように思う。

 ここで単純に、年功賃金と終身雇用に戻せ!というのは、面白みがない。それは、高度経済成長期〜つまり欧米のつくるものを「より安く、より早く、より上手く」作るには、「カイゼン」と共に激しく向いていた。無敵のシカケだったと言っても良い。が、そうした「お手本」はなくなって久しい。失われた10年どころではない。1970起算で40年。80起算でも30年だ。その間ずっと「カイゼンカイゼン・もっと・もっと」とリニアにやって来たわけだが、たぶんオレらの政治/経済/社会構造は、まる1世代、時代に遅れている。そもそも、その間に、製造業は雇用を生み国民に豊かさを保証するようなゆとりも気概も、もう失っている。

 非正規雇用の増加を生んだ労働法制の緩和が、本来の目的としていたのは、専門技能職(弁護士、通訳、技師など)のオンデマンド雇用だ。いわば企業は「藩」か「戦国時代の国」で、ウデに覚えある人が一定期間「仕官」するみたいな。理屈ではこれは、「雇用を守る為に」不採算事業からの撤退が遅れがち*1な日本企業を救うはずだった。

製造業のこしかたゆくすえ

 これを「建前化」し、単純労働者の雇用削減に使ったのは、他ならぬ製造業が筆頭に挙げられる。これは朝日のグラフ(下段)にハッキリ見て取れる。朝日の言う「サービス業」はその雇用を吸収している、と見る事も可能だ。例えばHD-DVDや三菱のケータイ事業に関わった技術者は「社内配置転換」で別の仕事にありつくが、末端の単純労働者はそうはいかない。どちらが、より「再就職能力」が高いか、を考えると、ややアンフェアな気もする。戦略的にも「ウデは立つけど当面は活躍の場が無いお武家様を喰わせたいので足軽大整理」と考えると、スーパーロボット系の見過ぎではないかという気もする*2

 ただし、日本の製造業は「足軽大整理」に踏み切らざるを得ない。国際競争力が危機に瀕しているからだ。2000年代の就業者増加率を-2%台のまま維持したとしても、中韓台、そして印の製造業には勝ちがたい。「絶対性能」で優位を維持しても、シェアは「価格性能比」で決まるからだ。シェアさえ取れれば、資本と経験値は薄利多売で蓄積できる。それを技術開発投資に再投入し続ければ、「絶対性能」で追いつくまでに10年かからない。その「事実」が消費者にブランドとして浸透するまでもう10年。「絶対性能」の僅かな差など、大多数には興味がない。ひらたく言うと「BRiCksの富裕層狙い」は「フェラーリ」にはなれてもトヨタにはなれない。戦いは数だよアニキ。

 という事で、たしか自民党あたりで移民入れましょって話が出てたかと思う。その前に、単純労働で済む部分は中国やらその周辺やらに移しちゃえ!って話はこの10年でだいぶ進んだし、会社によっては中堅級のR&D拠点も中国に持ってってる。中堅がいつまでも中堅で満足するわけがなく、それらの拠点は1世代かからずに最先端になるわけで、そーすっと国内に残るのは、資本くらい。本社が中国開発拠点のアタマを抑えれば、ハイアールなり長虹なりが高給で中国人技術者を迎えに来る。そーすっと国内に残るのはたぶん、空洞化したプライドくらい。←国益上、これが一番マズい*3

 『資源のない日本が発展できたのは技術進歩のおかげ』と公の席で言っちゃうタイプの人は怒ると思うけど、自分は製造業をそんなふうに見てます。

成果主義と非正規雇用の問題。

 繰り返しになるが、非正規雇用の増加を生んだ労働法制の緩和が、本来の目的としていたのは、専門技能職(弁護士、通訳、技師など)のオンデマンド雇用だ。いわば企業は「藩」か「戦国時代の国」で、ウデに覚えある人が一定期間「仕官」するみたいな。理屈ではこれは、「雇用を守る為に」不採算事業からの撤退が遅れがちな日本企業を救うはずだった。

 これは現時点でも「脳内高度成長期」を脱却していない日本の政治/経済/社会構造を動かす梃子になり得るものだ。日本は製造業と単純サービス業の比率が高い*4ので弊害が目立っているが、変化は常に痛みを伴う。また日本の未来はバラ色でもない。

 しかしそれでも、もはや高度成長期ではない。故にお手本は無い。従って未来の成長は約束されていない。すなわち、終身雇用と年功賃金で、長期的に労働生産性を上げてゆく手は通用しがたく、またその余裕ももはや無い。ここで戻れば、子孫に恨まれるだけだろう。

 もし労働法制の緩和が、本来の狙い通りに奏功した場合:

 まず「非正規雇用の増加」。たぶんこれは不可避だ。ワーキングプア問題は深刻だが、仕事があるだけマシ、という状態が続く可能性が高い。誰も同情でカネ(雇用)は出せない。ただし、これは高度な技能職(法務、科学、工学、経営、など)の雇用流動性向上に繋がらなければ意味が無い。これら「社会上層部の変化」は、常に最後になるものだが、そこまでいかねば、「雇用を守る為に」不採算事業からの撤退が遅れるという、帝国陸軍と同じ「ジャパン・オリジナルの破滅因子」を我々は克服できない*5

 次に、成果主義の問題には二つの立場がある。

 前者は『昔の年功制に戻るべき』と唱え、後者は『一度は通らなければならない道だった』と位置づける。自分は後者。結論部はともかく、前者も内容面では著しく後者にとって建設的に使えるように思う。責任の所在が曖昧な稟議書よりはマシだっつの。ノンワーキング・リッチがうようよしてるよかマシだっつの。

 朝日新聞社さんには、情報サービスの専門家として「脳内高度経済期/一億総中流時代の夢/XXなどあってはならない系メンタリティ」から脱却して欲しいところだ。それとも「ノンワーキング・リッチ」をまもりたいのかしら?
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*1:口先では「長期的な視野」と言っとけば「日本的経営」と格好がつく。

*2:いや嫌いではないが

*3:嫌韓・嫌中厨の背景には、国内産業の空洞化、自信喪失の裏返しという面があると思う。自分の中にそれ以上の価値があれば、そんなに気にならないもんあんなの

*4:能力より肩書きとカンバンがモノを言う社会とも

*5:社員編集者しかり、社員記者しかり