8月1日に設立された任意団体「日本インターネット報道協会」について。

 もしもこの団体が『インターネット上の報道コンテンツの質向上を目的』としているなら、活動第1弾を『設立記念イベント』というコトバで表現するのは練り込み不足なように思う。せめて基調講演のテーマくらいは示して欲しかったところ。

 現状では任意団体との事だが、数年後には官庁の認可を得て「公益社団法人」となり、天下りを受け入れるギョーカイ団体になっているように思う。

活動内容など

  1. 活動内容:
    • (1)講演会やシンポジウム開催
    • (2)優秀なコンテンツや活動の表彰
    • (3)会員相互や他団体との交流
    • (4)ネット技術やコンテンツ品質向上に関する研究
    • (5)ネットに関する相談や提言
    • (6)関係企業や団体、官庁との連絡や調整 ←たぶんこれが最重要
    • (7)ネットを使った記者会見の開催
    • など。
  2. 最初の活動
    • 第1弾として 9月下旬に設立記念イベント。
  3. 会費
    • 正会員、年間会費12万円(報道コンテンツを作成し、ネット配信する法人や個人が対象)
    • 準会員、年間会費1万2000円(会の趣旨に賛同し、運営に協力する)

 この内容は、プレスリリースとして配られたものを岡田記者が引き写したと考える。まず「活動内容」は極めて抽象的で「定食屋のお品書き」のようだ。「ネット」や「コンテンツ」などの単語を置き換えれば、大概の業界に転用できるだろう。そのわりに正・準会員の定義や会費区分はきちんとしている。

 一般論として、「賛同と協力」を求められる準会員のメリットは、会報がとどく、セミナーや報告書の類いが準会員価格で入手できる、パーティなどのお知らせが届く、といった程度のもので、協会運営に対する議決権などは存在しない。要するにこの区分は、方々に『オープンな組織を目指し、企業・個人の会員を広く募集する。』という一文を滑り混ませる為に必要なものだ。

 全体として、天下り団体を作る際の定型フォーマットという印象を受けた。おそらく類似の団体からひっぱってきたのだろう。

 もちろん趣旨そのものに異論はないが、少なくとも主務官庁(おそらくは総務省)は、未来の天下り先と考えている事と思う。参加企業の側も、各種ネット規制論にたいする「カウンターロビー団体」を持たねば、という意識があるならば、行政・立法に影響力を行使する上で、こうした団体は極めて有用だ。

えらいひとの発言など

 代表幹事を務める日本インターネット新聞の竹内謙社長は「ネット上の報道をめぐってはいろいろな問題が起きている。なるべく良質な報道をするために横連携していきたい」と話した。

 時局柄『いろいろな問題』の具体的事例は佃煮にするほどあるはずだし、それを挙げれば協会設立の訴求力や説得力が格段に増すように思うのだが、此方はそうしていない。敢えて挙げないのは省庁批判じみると言う判断なのだろうか(言及したのに岡田記者が拾わなかったという可能性もあるが、個人的には考えにくい*1)。

事務局長の元木昌彦さんは「私はずっと記者クラブを批判してきたが、協会は、ネットに携わる市民を含めて開かれた組織にしたい。記者クラブに属さないネットメディアは取材にも苦労するから、協会の会員企業で記者会見を主催するといったことも考えたい。政府がネットを規制しようという動きには反対していきたい」などと述べた。

 おそらく此方は純粋な動機で事務局長を引き受けられたのだとは思うが、ご本人の意図に関わらず「オミコシ」の可能性がある。例えば実務上、『報道コンテンツを作成し、ネット配信する法人や個人』の年会費を一律12万とした上で、『協会の会員企業で主催する記者会見は正会員しか参加できません』などの運用は容易だ。

 また『(6)関係企業や団体、官庁との連絡や調整』の中で、正会員企業が自主的に「申し合わせ」を積み上げてゆけば、政府がわざわざ規制に動いて世を騒がせる手間も省ける。

所感

 『インターネット上の報道コンテンツの質向上』を考える団体ができた事は素直に歓迎したい。また、こうした団体を通じて霞ヶ関に利害を主張しない業界は、行政や立法のあらゆる局面で不利な立場に立たされる事も事実だ(競合業界がある場合は特に)。しかし、数年後には「ネット版記者クラブ」と化している可能性なしとしない。
 全体としては「現状よりはマシになる」と思う一方で、主務官庁と業界大手で形成する「事実上の行政機構」がもういっこ増えたという印象がある。

*1:だってIT戦士だし。