「ガラパゴス化」あるいは「パラダイス鎖国」とはなんぞや

 「ガラパゴス」や「パラダイス鎖国」がこうも流行ったのは、多くの人がもともと『なんらかの危機感を持っていたから』ではないかと考えています。流行語になれば意味がボケて行くのは仕方の無い事ですし、なにかと「だから日本はダメなんだ!」と言いたがる脳の玩具になっている面も否めません。評論家の敗北主義は不愉快なものですし、専門知識のある方が苛つく局面が増えてきている事は、充分に考えられます。

 しかし、「ケータイとかB-CASとか、オレたち、囲い込まれてねぇ?なんか息苦しくねぇ?」。という閉塞感を持っている場合、海外の製品やサービスが「隣の芝生」に見えてしまうのは、自然な事だと思っています。それらをオレも使ってみてぇ!と試みる際の「数々のややこしさ」を訝しむ人が出てくるのも、自然な事だと思っています。

 自分は、ガラパゴス化」あるいは「パラダイス鎖国というコトバが批判しているのは、まさに次の点だと理解しています。

スタンダードなんて、無いものの方がたくさんある。最良のメソッドはその国々による。グローバルスタンダードに従うより、グローバルスタンダードを作る方がビジネスになるということを知らないといけないと思う。

 日本がそのグローバルスタンダードを作れず、世界市場相手のビジネスができていない事がモンダイなのだと思いマッスル*1

 08年秋現在、モノではなく、その上で動くサービスが社会を動かしています。この場合は「消費」と言った方が正確かもしれません。そういうイノベーション*2が起きて既に10年以上が過ぎています*3。しかしながら「良いサービスがあれば良い」というものでは無い事に注意が必要です。むしろ「良いサービス」だけが先行してしまった状態は危険です。

 どれほど「良いサービス」を持っていても、ワールドワイドでインフラを制圧していなければ話になりません。iPhoneはインフラです。NOKIAもインフラです。Windows Mobileもインフラですし、Andoroidもインフラになるでしょう。

 これらは、送電線は直流か交流か、電源周波数は50Hzか60Hzか、コンセントの口は三口か二口か、の争いです。ここでの覇権争いに背を向け、特定のインフラに依存した「良いサービス(あるいは、ユーザー・エクスペリエンス)」だけを誇るなら、10年保つまいと思っています。「インフラをまたいで優れたユーザー・エクスペリエンスを移植する手間」は、いろんな意味で厄介なものです

 外来のグローバルスタンダードを受け入れない事は非難しません*4。グローバルスタンダードを造り出せていない状況にも関わらず、我流に拘泥する鈍さに危惧を感じています*5。そりゃiPhoneはうぜーです。マカソリックもうぜーです。しかし「現状破壊的テクノロジー」に目を閉ざし、「現状は快適メンタリティ」に引きこもるようでは、10年保つまいと、わりと本気で思っています*6「ハイテクハイテク日本はやっぱりモノツクリ教」の事です。

 仮に、一億人の蟲毒壷で勝ち残ったとて、米台中韓が24億市場*7を制圧しているなら、補給が持ちません。一億人に先進的なケータイを売るより、アフリカでキャリアを作ってまで端末をバラまくNOKIA、その後を追う華為の方が、水揚げがデカイ事でしょう。これらの端末を前提にした、貧しい人々でも使える電子送金の仕組みも広まっているそうです*8

 モノではなく、その上で動くサービスが重要な社会では「すぐれた機能」や「良いサービス」は「シェアを取ったインフラ」に集中していく傾向があるのは、ファミコン以来の鉄則です。

 極端な話、シェアさえ取れれば機械の品質など大したモンダイではありません。この事は、日本の戦後が示していると思います。自分は、日本の成長は、国内に競合が多く、文化的にTOBに馴染めない*9から、海外企業を殲滅する事でシェアを拡大してきたおかげと理解しています。ご先祖たちは、まずは安かろう悪かろうで小銭を掴み、そのカネを株主ではなく品質向上に叩き込む事でシェアを上げ、それを繰り返して来たのではないでしょうか*10

 現在の日本の技術力はその結果。シェアすなわちオカネ(技術投資)で買ったものと思っています。『資源のない日本が発展できたのは技術進歩のおかげ』と言った方があるようですが、これは「うり家と、唐様で書く三代目」だと思っています。

 海外の競合勢が全滅した後も、国内各社が五十歩百歩の競争を続けていれば、客は不感症になります。リニアな方向、直線的な進化方向では「だからなに?パート2はもういいよ」です。客が「うわなにこれ欲しい!」と思ってくれさえすれば、ナカミなど「枯れた技術の水平思考」で充分なのです*11

 こうした「現状破壊的テクノロジー」(「枯れた技術の水平思考」はそれを産む重要なメソッドだと思っています)が「ハイテクハイテク日本はやっぱりモノツクリ教」な「各社横並びのセカイ」から生まれてくる事は期待し難いです。「官庁のもと一心同体共存共栄」な「業界団体」もまた、イノベーションをすりつぶす「石臼」として機能します*12。ちなみに戦国時代の歴史は「座」より「楽市楽座」の方が商業が発展し、税収が上がる事を示唆しています。

 iPhoneNOKIAに手を加えず「そのまま」販売する事によって、その上で「最良のメソッドの競争」が起きるなら、国内の「優れたサービス」がグローバルマーケットに打って出る際の「移植コスト」は大幅に下がります。これらに匹敵するインフラを、日本が生み出せていない事を、自分は遺憾に思っていマッスル。MVNOPSPやDSにくっつく3Gアダプタ出した方が早いのではないでしょうか?。

 また特に家電メーカーにあっては、いいかげん大規模な業界再編を進めない事には国内市場すら維持できないと思うのですが、VIZIOネットブックに踏み込まれてなお、合併も人員整理も抜きで各個迎撃に走るなら、どうやってこの先きのこっていく積もりであるのか、興味深いところです。やめてよね。BRiCsの富裕層狙いとか*13

*1:任天堂SCEの事はひとまず置く場合。

*2:ここでは「発明」や「技術革新」ではなく「社会的な変化をもたらすもの」の意味で使います。発端は技術革新とは限らず、「枯れた技術の水平思考」や、ビジネスモデルの革新でも発生し得ます。

*3:ファミコンから数えるなら約30年です

*4:「シンク・グローバル、アクト・ローカル」は基本ですので。

*5:かつてスパコン開発で技術的にはリードしていながら、IBM互換路線に転換した池田敏雄さんに申しわけないくらいです

*6:「シンク・ローカル、アクト・ローカル」ではただのイナカモノです

*7:雑駁に米2、欧2、中印各10億

*8:「M-PESAシステム」東洋経済08/09/27日号P146。日本でもブラジルやアジア各地から多くの人が働きにきていますが、彼らが母国に送金するには、日本の銀行の営業時間は不親切で、いわゆる「地下銀行」を頼りにしている方が多いのだとか。この手数料収入が「地下」にいっちゃうのは、モッタイナイ事だと思います。この点「じぶん銀行」がブラジルやアジア各地に「支店」を開くと面白いんじゃないかと思っていマッスル

*9:戦国時代にはTBOどころではない状況が日常茶めしだったわけですから、いたづらに「国民性」に流れる必要はなく、この点は変化し得ると思っています

*10:同じ事はサムスンやハイアールや長虹やVIZIOにもできますし、やっています

*11:個人的には「フルスペック・ハイビジョン」て「おおきい事はいいことだ〜♪」とか「隣の車が小さく見えます」って感じなのですが、これが「タイムシフト」とゆうものなのでしょうか(ちがいます)

*12:そんなドングリ野郎どもに鈴つけられるほど、任天堂は鈍くないでしょう

*13:BRiCsの成長のコアは「低所得層」が年収300万程度の「中流」に化ける事であり、2050の段階でも一人あたりGDPがG7並みになるわけではないと予想されています。従って「BRiCsの富裕層狙い」は中流サムスンなり長虹なりに取られて「フェラーリ化一直線」であり、国益貢献度も世界市場での存在感も下がると考えています。たたかいは数だよアニキぃ!