ぶっちゃけ「新聞コンテンツ」には大した競争力が無いらしい。

■北米におけるNYTの状況

万人(構成比) 億ドル(構成比)
有料紙購読者 280 (6.5) 16 (88.9)
無料Web版利用 4000 (93.5) 2 (11.1)
合計 4280 18
  • Webの読者は紙の14倍だが、売り上げは紙の1/10。
  • 国内新聞社のWebからの収入は、有料DBを持つ場合で全体の1割程度。無い場合は1%程度。

※出展:週間アスキー11/4号「歌田明弘氏の仮想報道」より抜粋。
 となると、国内新聞社が短期間で記事を取り下げてしまうキモチはわかる。また、過去記事の蓄積を有料公開にしたくなるキモチもわかる。既に著作権が切れている記事や「単なる事実の報道」もあるはずだが、それを自腹の電気代で公開する義務は無いだろう。誰だってテメェの食い扶持が一番だ。社会の公器とか報道の使命とか、あんまうるさく言わなければ、キモチはわかる。
 とはいえ、世の中の情報回路はWebに移行してゆく。たとえ紙がなくなることなど無いにしても、相当程度が食われてゆくことは疑えないだろう。ところが、ぶっちゃけ「新聞コンテンツ」には大した競争力が無いらしい。

■北米におけるとマイスペースのPV

月間ユーザ 月間PV
NYT無料Web版 4000万 4億8900万
マイスペース 5000万 290億

※出展:週間アスキー11/4号「歌田明弘氏の仮想報道」より抜粋。
 広告主にとって、NYTよりマイスペースのほうが価値が高いことは明らかだ。この数字は、新聞社がWebからお金を得るには「新聞コンテンツの移植」ではなく「コンテンツのWeb最適化」が必要なことを示唆しているように思える。

「新聞コンテンツのWeb最適化」

ひらたく言うと「提灯化/太鼓持ち化」が一番手っ取り早いのだが、他の「コンテンツのWeb最適化」には、次のようなものが考えられる。

  • 過去記事の有料DB。昨年Web版の完全無料化に踏み切ったNYTも、過去記事DBだけは有料を堅持している。
  • 記事掲載権の卸売り。「掲載権」をPVが欲しいサイト運営会社やSNSなどに売る。ペイテレビの「チャンネルパック」のように「ヘッドライン2週間パック〜全記事永代掲載権」などに小分けして売るなど。
紙に関しては、
  • 広告費だけで運営する、日刊フリーペーパーも有力な選択肢だ。これは「金はあるが読む時間が無いので新聞を取らない」人向けのほかに、格差化の進行で金も時間もない人に最低限の報道を届けるという市場があるかもしれない。
  • 「格差の反対側」向けに、バリバリに力の入った高級紙を出すことも考えられる。これは、取ること自体がセレブの証でなければならないので、内容はもちろん、紙質や発色、配達夫の服装などもとことんこだわる必要がある。
劇的なコストカットも必要だろう。
  • 印刷や配送、販売網の共同化。
  • 地方版の縮小・廃止。地元のニュースは地方紙と提携して「オリコミ」にするなど。もちろん「オリコミ代」は頂く。
  • 先般、テレ朝と朝日新聞資本提携があったが、いっそ合併してしまったほうが早い。極端なはなし、新聞記者がデジカムを持てば、人件費が浮く。
  • 「記者雇用の流動化」。入社後、一定年数の過ぎた記者を、保険代理店のように独立事業主化し、社屋内に椅子と電話を与えて出来高制にする。その下に新入社員を配して教育係も兼務させる。など。これで独立した記者に「仕事で使うPCとソフト」を売ったり、税務処理サービスを売ったりできる。「独立事業主」なので、社会保険負担もなければ一定年齢に達したときに子会社の役職を用意する必要もない。新聞社は、大学や官公庁と並んで「年功序列を前提にした昔ながらの人材育成システム」が、もっとも佳く残っている業界のひとつだ。近年、成果主義の見直し機運が高まっているが、それ以前の天然記念物状態。

すべてのイノベーション*1の本質は、安かろう悪かろうだ。

  • 鉄砲より弓の方が手間も金もかかる(鉄砲兵の方が訓練期間が短く、安いため、弓兵は廃れた)。
  • 車より馬車の方が手間も金もかかる(車はカイバを毎日は食わず、生まれたらすぐ乗れるため、御者≒お抱え運転手はぜいたく品になった)。
  • 映画より歌舞伎の方が手間も金もかかる(発声もままならぬど素人でも、カメラに収めりゃサマになるため、歌舞伎産業は「文化」になった)。

 実は一番「再定義」が必要なのは「記者という職業」なのだと思う。

*1:ただの技術革新ではなく、社会のさまざまな分野に構造の変化をもたらすナニカ