ドコモドロイド

 日本のケータイは外貨をまったく稼いでいない。
 しかし、ユーザーエクスペリエンスは世界一である。
 モッタイナイ。
 これを「デファクト・スタンダード・プラットフォーム」として輸出し、世界征服する方策を考えてみる。

問題点:

日本のケータイ産業の現状は、道路公団が道を整備し、車を造って販売し、さらに通行料まで取っているようなものだ。アウトバーンを輸出する事はできない。アウトバーンしか走れないフォルクスワーゲンも輸出できない。道路沿いの観光地も、同様だ

これは道路整備と車の普及を同時に、かつ一気に進める上では必要な事だったかもしれない。アウトバーンを整備したのは彼らだ。フォルクスワーゲンを企画したのも彼らだ。アウトバーンの先にある「観光のメダマ」すら、彼らが最初に手をつけた。日本のケータイのユーザーエクスペリエンスが世界一になったのがその結果であることは、疑う必要がないだろう。それでも。これらは最終的には分離する事が望ましい。

しかしながら、単純に国内メーカーが自由に端末を開発・販売できるようにする事は望ましくない。国内製造業は「ものカルチュア」の色彩が濃すぎるからだ。例えば「電子辞書」という堅固な商品ジャンルを確立しながら、差別化ポイントが「ワンセグが付きました!」などというのは、テクノロジー・ドリブンの度を越している。青空文庫リーダーや動画プレイヤーやMP3プレイヤーをつけて、「コンテンツ販売の胴元」を目指すほうが断然儲かる。そこまでやらんにしても、辞書にテレビってあーた。せめてテキストエディタが先なのではないか?彼らに自由を与えても、取るに足らない「モノの追加」に血眼になるだけだろう。

「過去の成功体験に基づく歴史的慣性」は止むを得ないが、電子辞書は、「電子まんがビュワー」、乃至は「Kindle対抗馬」の最有力候補であると思う。電子まんが/e-ブックにとって最も重要な要素は、アスペクトと解像度だと自分は思う*1。このアプライアンスは、最も「画面の横縦比」を「印刷物の横縦比」に合わせやすいはずだ。そして、まんがに十分な解像度のモニタ・乃至は電子ペーパーがあれば、漢字の本もまた十分な解像度で表現できるはずだ。電子辞書サイズでそれを開発できる根性の持ち主リストを作るとすれば、国内企業が筆頭に来るとは思うのだが、「電子まんがビュワー」には当然「コンテンツ販売の胴元」が必要だ。しかし彼らには、そうした新しいビジネスモデルに進化してゆく覚悟がないように見える。結局のところ、パラダイス鎖国だのガラパゴスだの言われるのは、そうした業態転換を躊躇う姿が不甲斐なく見えるからではないだろうか。

したがって分割は、現有キャリアのサービス企画能力を土台に置くべきと考える。「日本のケータイのユーザーエクスペリエンス」は、モノでも技術でもキャリアのインフラでもなく「それ」により達せられたと考えるからだ。

プロセス:

1)例えば。NTTドコモを「キャリア」と「i-mode(株)」に分離する。
  • 「キャリア」は、インフラ整備。いわば「道路公団」。
  • i-mode(株)」は、i-mode(メール、Web上のサービス、端末の企画、開発、販売)

※「ドコモ・キャリア」と「i-mode(株)」は、持ち株会社にぶら下げるなど。別会計にすることで「キャリアの都合」と「ユーザーが求めるサービス」の間にあるべき緊張関係(aka.社内闘争)を、「見える化」できる。と同時に、その上に持ち株会社を被せることで、「先端的な通信網を活用したサービスの開発」で協同できる。以下が軌道に乗ったり、無線通信技術の進歩が停滞したりした場合は、完全分離が望ましいだろう。

2)「i-mode(株)」は、i-modeの「ユーザーエクスペリエンス」をアンドロイドに移植する。
  • i-modeメール
  • i-modeブラウザ
  • iアプリ実行環境(但し、ツナギ)
  • 各種決済サービス(DCMX、お財布ケータイ、電子送金)
3)「i-mode(株)」は、上記端末を開発し、発売する。
  • 国内メーカーで競作。←お財布ケータイ等、ハード機能を備えた端末を作るため。
  • 弱ってきたところで事業買収。

※既にDoCoMoの支援がなければ開発投資を続けられないメーカーが出ているが、DoCoMoは資金援助の代償に、特許の引渡しを求めているようだ。

4)ドコモドロイド・マーケット
  • i-mode(株)」が厳選したアンドロイド・アプリを取り揃え、決済事務を請け負い、販売手数料を取る。
  • iアプリ実行環境はコレが軌道に乗るまでのツナギ。
  • アンドロイド・マーケットよりも目立つ形でOSに組み込んだ端末を発売。
    • あるいは他社製端末に組み込める形でアンドロイド・マーケットにも無償公開。ここでは「安心を売るセレクト・ショップ」としてアピール。
5)「i-mode(株)」は、Apple対抗馬として、世界進出する。
  • 端末の企画、製造、販売。
  • Webサービスのポータル
  • 有価bitの販売窓口
    • 有価bit:音楽、動画、ゲーム、アプリ、テキスト、、、、

※これらを高いレベルで融合させたハイブリッド・ビジネスで「アンドロイドのシェル」を形成する事でデファクト・スタンダードを獲り、コレを事実上乗っ取る。なお、Appleは類似の戦法で、オープンソースWebkitプロジェクト、国際標準規格H.264にシェルをかぶせている。また、同社がOSXの土台として公開し、オープンソースで開発を進めているDarwinは、2005年4月の Darwin 8.0 以降、インストール用CDイメージを公開していない。

メモ)

アンドロイドは現状のままでは普及に限界があるように思う。googleは開発自由度を高く保つことで普及を進めようとしているが、これが効くのは開発者、ギーク、乃至はマニアだけだ。後が続かない。それ以外の層、すなわち「普通の人々」は、個人データ山盛りのケータイが「開発者の自由な遊び場」であることを喜ばないだろう。Windowsのように、日々セキュリティ対策の説教を食らいながら過ごしたい人は居ない。彼らは、一定水準以上の安心感と完成度を求める。そういう人々の為に、「i-mode(株)のシェル」からうっかり出ないように配慮された端末が必要だ。iPhoneに対するアドバンテージは、no need 4 jailbreak。自由がほしいなら At Your Own Risk でアンドロイド・マーケットへ行けば良い。これで「濃い人々」も一定の満足を得る事ができる。
つまりアンドロイドは、「普通のひと向けのシェル」を被せる事で、「iPhoneに比肩する安心」と「iPhoneにない自由度」を併せ持つ端末が可能だ。

どっちかというと国策会社のドコモより(いろいろと内部抵抗が多い)、SBMauの方が向いてそうな気がするのだけど、やはりi-modeの蓄積と経験値は無視できないように思う。

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