なぜ余るほど注文する?

セブンイレブン、値引きした店に契約解除通知
2009年8月13日5時37分
 コンビニエンスストア最大手のセブン—イレブン・ジャパンが、弁当などの値引き販売をしている東京都内の加盟店主に対し、フランチャイズ契約の解除を通知したことが分かった。セブン側は「値引きが理由ではない」としているが、店主は不服だとして、近く東京地裁に地位保全を求める仮処分を申請する方針。

 契約を解除されたのは八王子南口店(八王子市)を経営する増田敏郎さん(60)。値引き販売をする店主らでつくる組織の中心人物の一人だ。

 本部側は契約解除の理由について、会計処理や弁当の鮮度管理などの点での契約違反に加え、来店した本部社員との話し合いの様子を勝手に撮影してテレビ番組に提供した「背信行為」を挙げ、書面で来年9月1日付の解除を通知した。

 一方、増田さんは「問題点は本部の指示通り改善してきた。値引き販売を認めるように活動してきたことへの報復としか思えない」と話している。

 セブンは今月5日、値引き販売を不当に制限したとして、公正取引委員会から出された排除措置命令を受け入れたと発表している。

■過ぎたるは及ばざるがごとし:

そもそも、なぜこの店主たちは、余るほど発注するのだろう。もちろん「彼らが悪い」と決まった訳ではない。コンビニ本部が「押し紙」みたいな真似をしてるのかもしんないし、店舗数が増え過ぎなのかもしんない。コンビニというシカケそのものが曲がり角に来てるのかもしんない。

しかしいずれにせよ値引きの背景には、余ったから=注文し過ぎたから、作り過ぎたから、という「ムダ」がある。消費者としてはもちろん嬉しい事なのだけど、社会全体としては、モッタイナイ。

自分で「材料を仕入れたり、弁当を作ったり」をやらずに「発注して、お客さんに売る」だけをやると、つい「お客様の笑顔」につり込まれてしまう事はありがちだけど(いわゆる「いいひと」に多い)、「値引き」は「廃棄」の次に悪い。どちらも「弁当を作る人、材料を仕入れる人、農産物を作る人」これらの人々の手に「渡る筈だった利益」を減らしてしまうからだ。もちろん「値引き」は「廃棄よりはマシ」だし、モッタイナイ精神も立派な事だが、それを発揮するなら、発注段階、製造段階でやるほうが、マータイさんのお志に沿うだろう。

  • 「売れる以上の数量が店にある」から値引きや廃棄が発生する。これらを減らすには、受注生産が最良だ*1
  • しかしそれでは「消費者様の利便性」が!。という場合、どこかで「見込み生産」をしなければならない。
  • また全ての店舗に厨房を設けるのは非効率だ!(弁当代が高くなる)。という場合、作った場所から「配送」しなければならない。

この場合。「当日売れる数のヨミ(予測精度)」と、「売り時に間に合う配送網」が重要になる。

  • 客数予測→発注→弁当生産→配送→店頭並べ

このプロセスを、的確に、正確に、タイミングを外す事なく回してやれば、「廃棄」も「値引き」も減殺できる。「受注生産」ではなく、「見込み生産」を選ぶなら、「当日売れる数のヨミ」が全ての鍵を握る。これは簡単な事では無い。弁当を運ぶ人、作る人、その向こうの原材料を作る人、その全てが受け取る利益(生活費の原資)に対して責任を背負う事だからだ。ダレにでもできるというものでは、ない

■「コンビニ」の始祖鳥;

がんらい、セブンの値引き禁止・廃棄代店主持ちは、「客筋を読め、過発注でムダ出すな」から来ている。これは「やたらこまめな配送網」と合わせて「流通におけるジャストインタイム方式」とでも言うべきシステムを形成している。これが「コンビニの始祖鳥」たるセブン最大の特徴だ。

このシステムは、「店頭で適正利益が出る事」を前提にしている。

  • 「売れる時間に売れる数、必ず届けます。品物が足りない事はありません」→ 機会ロスの減殺
  • 「また、一度に余るほど発注しなくても、こまめな発注に、こまめにお届けします。ですから、
    • 余ったり腐ったりする事はありません」→ 廃棄ロスの減殺
    • 値引き処分も不要です」→ 利益ロスの減殺

ですから、加盟店の皆さんは、

  • 「適正利益」をとって下さい。また「値引き販売」はしないでください。
  • その代わり、お客様の動きをよく見て、こまめに、「精密な発注」をお願いします
  • 「精密な発注」をやる為の、ノウハウやツールも本部からご提供させて頂きます。

それができなきゃ契約解除ね。という事になる。
ここで値引きを認めると、全体の経費構造が崩れる。したがって、全体のシステムを維持するには、なんらかの価格統制が必要になる。説得や交渉ばかりでなく、中には強制的だったり高圧的だったりする事もあるだろう。「コンビニのフランチャイジーになる」という事は、独立事業主になる事ではあるが、同時にこのシステムの一部に組み込まれるという事でもある。トヨタの言う事聞かない社長さんに、トヨタの下請けはできないのと一緒だ。

■いくぜ、百万台!;

話は飛ぶが、初代プレイステーションも、似たような「流通構造改革」をやった。コンビニよりちょっと簡単だ。

ファミコン/スーファミ時代の「ロムカセット」は、リピート生産に三ヶ月程度掛かった。したがって、品不足になったゲームに追加発注を掛けても、店に来るのは三ヶ月後。売り時はとっくに終わってる。ゆえに値崩れする。周辺店との値引き競争で赤字。そこで、最初の売り時を逃がしたく無いゲーム店は、様々な仕入れルートに、多め多めに発注するという事をやった。そうした受注伝票が集まるソフト会社で集計すると「いやドラクエより数出るワケねーだろ」的な数字になり、「生産数はこの6割ね!」とかなり、どの店に何本入るかは予約してても博打となり、発売日に必死こいてチャリ漕ぐ小学生の群れ発生、というパターンが定着していた。

初代プレイステーションの「CD」は、この状況を一変させた。

  • 「売れる時に売れる数、必ず届けます。品物が足りない事はありません」→ 機会ロスの減殺
  • 「また、一度に余るほど発注しなくても、こまめな発注に、こまめにお届けします。ですから、
    • 値引き処分は不要です」→ 利益ロスの減殺
  • 「ですから、ゲーム店の皆さんは、「適正利益」をとって下さい。また「値引き販売」はしないでください。
    • それから、「中古売買」も禁止です。やったら新品卸してあげない。かもしれません。

というワケで、ゲーム店とソフト会社は「キツネとタヌキの化かし合い」的な肚ヨミ合戦の手間が省け、機会ロスも利益ロスもワゴンセールも激減し、共存共栄で市場拡大を謳歌した。消費者にとって「値引きも中古もない」のは窮屈だったが、別に問題にはならなかった。「CDのソフト」は、「ロムカセット」より、平均価格帯がぐんと安かったのだ。

その後、市場が伸び悩んで来たあたりで「ゲーム店の皆さん」は「値引き」や「中古」をやりたくなり、定価販売/中古禁止を維持したいSCEとの間で軋轢が生じるようになった。最終的に公正取引委員会の警告で「定価販売制」は崩れ、最高裁判決で「中古禁止」も崩れたのだけど、その後「ゲーム店さん」も「ソフト会社」もずいぶんと減った。もちろん公取最高裁は「正しい」し、ゲーム産業縮退の原因はイロイロあるが、「値引き」や「中古」がそのひとつである事は、事実だろう。
いずれにせよ、SCEの「流通構造改革」がなければ、彼らが任天堂を王座から追い落とす事も、ゲーム市場が今日の規模に達する事も、発売日に欲しいソフトがまぁまぁ買える事も、なかっただろう。その全てが悪というワケでは、無い。

公正取引委員会の立場;

公正取引委員会は、個人間の取引や会社間の取引がフェアであるように。強いモンが弱いモンに、不当な事を強制しないように。という観点でものを見るのがお役目だ。
もちろん、それはそれで重要だし、無きゃ困る機能なのだけど。それが本当に「天下万民の為」になるかと言うと、タマにゃ難しいケースもある。

■マスコミ;

適正利益・適正配達・適正在庫でやってきたコンビニが、もしも店舗数の飽和状態を迎えているのなら。
店主の一存で値引き販売を可能にするより、会計処理や弁当の鮮度管理に甘く、余るほど注文して値引きする店主さんにはおやめいただいた方が、世の為人の為。な可能性も、存在する。
「廃棄」は悪だが「値引き」はその次に悪い。どちらも「弁当を届ける人、弁当を作る人、材料を仕入れる人、農産物を作る人」これらの人々の手に「渡る筈だった利益」を減らしてしまうからだ。全国のコンビニに「本部の原価計算が予定していない、店主の一存による弁当値引き」が広がるのなら、これらの人々の実入りは、減る。「過剰発注を繰り返す店主に、要求数を配達しない本部」も出て来るかもしれない。そうなると「弁当求めて必死こいてチャリ漕ぐおとうさん」、、、は、いくらなんでもこれはないよな。うんw。

クオリティ・ペーパーな皆さんには、タマにはそのへんの含蓄ある記事を期待したい。と思った。

日本社会では、ある人物や政策に関して、全肯定または全否定をする傾向が強いように思います。お隣の中国では、文化大革命後、毛沢東を総括して、6対4の割合で貢献のほうが悪影響よりも大きいとしたそうです。文革は大失敗で、中国の近代化を大幅に遅らせたが、中国を統一した功績があまりにも大きいということだったようです。

*1:ここでは「客寄せの為の値引き」は考慮しない。それは自店の利得の為に「弁当を作る人、材料を仕入れる人、農産物を作る人」たちに負荷を掛ける悪徳行為とする。