S-VHSは最後までレンタルの主流ではなかった。

【結論】:ない。
09Q4時点で予測可能な範囲の未来におけるBDは、ベータ/D-VHS的なマニア収奪器、ないしはS-VHS的なデッキのオマケに終わる可能性が最も高い。
【理由要旨】:ソフト出す側の心情を妄想するに、ドライブの実効普及台数≒自宅にBDドライブが「ある」と認識している消費者数につかみ所がない。従って「最大販売可能枚数=販売見込み数を予測する際の基盤母数」を想定しにくい。その中で、上昇した「オーサリングコスト」や「求められる品質(画質)を得るためのコスト」に対し慎重にならざるを得ない。ゲームでいうとPS3現象。

  • 1.DVD的4年目ブレイクを期待するなら、PS2起爆剤が来年要る。
    • 「DVDソフト市場」は、2000のPS2(初日100万台突破)で突然発生したものと認識している。私の気が確かなら*1マトリックスが一気に60万枚とか捌けた(鉄拳+リッジより多かった)。
    • ハード・ソフトとも、これに相当する存在がBDには出ていない。高度成長期の野球で言うと王・長島に相当する「象徴」がない。
    • DVDには「ビデオデッキよりずっと小さな機械で、ビデオテープよりペラペラなディスクで、見れる」という「進歩した感」があった。BDはこの「ユーザーエクスペリエンスにおけるそれまでとの落差」が薄い。これは「画質」とは別レイヤーの話だ*2
    • TVレコーダに付随して家庭に到達したドライブ数を無視するべきではない。しかしこれは存在を意識されているか否か疑問が残る。これも高度成長期の野球で言うとノムさん。DVD完全引退後にスポットが当たる可能性は高いが、当分はそうではない。
    • つまり「ドライブの販売台数」と「コンテンツ・プラットフォームの普及数」はイコールでない。後者は「購入者の認識」に依る*3。従って09Q4現在の「BDソフト市場」は、マニア向け収奪器の域を脱しきれずに居る。
  • 2.画質が良い「だけ」は死亡フラグ
    • そもそも「ハイビジョン画質」で最も重要なのは「臨場感≒迫力」であり、規格が想定した臨場感を得るには、視野角25度、できれば30度以上が必要になる。「お茶の間視聴距離」を約2mとした場合、これを得るには50インチのサイズが必要だ。
    • 次に画素数増に伴う「高精細感≒細かいトコまでよく見える」だが、こちらは「精細感度」というか、善し悪しに対する応答性の個人差が激しい。これは高齢になればなるほど鈍る。さらに、画面サイズ*4が小さければ小さいほど、恩恵を感じにくくなる。そしてなにより、動体視力は静止視力より鈍い。映像が動けば動く程、「高精細」はインパクトが薄れてゆく。
    • 適切な視距離で適切なインチ数のモニタで見れば、BD画質*5は「一度見たら戻れない」ものだとは思う。しかしながら、おそらくマジョリティはその環境にない。これは可処分所得の他に、物理的な住宅サイズの問題と、家具配置の感性、そして「視界に占めるテレビの大きさ」という染み付いた生活習慣(病)が関係する。
    • 以上の三項(ハイビジョンの実効画質)に、「美人は三日で飽きる」が加わる。
    • 画質以外の違いは、面倒レス一発で理解できるものでなくてはならない。
    • 単純に「色が違うだけのパッケージ」が売り場に並んでいると、「詳しく無い層」は混乱し「わたしにはわからない世界」と敬遠感が発生する。敬遠感といってもかなり希薄なものだが、積み重なると「無自覚のうちに足そのものが向かなくなる」。一般論として、メダパニを重ね掛けしてもバシルーラにはならないが、この場合はなるのだなるのだ。
  • 3.一方で、YouTubeの1080p宣言が出ている(2009/11/13)。
    • 「ここにiTSや携帯が追随する未来を夢想する層」が発生する。
    • 本棚に光学ディスクをずらずら並べるよりは、ハードディスクで検索一発のほうが明白に「利便」である。
    • いつでも鯖で見れるなら、なお「利便」である。
      • クレカとバインドした「永代視聴権」を売ってくれるなら、バックアップの手間もなく、流出リスクを心理的に減殺できる(脳内ビルトインDRM)。
    • 蛇足ながら。この点でAppleが計画している大規模鯖投資は激しく興味深い。同時に国内のBDドライブ生産ラインにも投資している模様だが、これを「ブルーレイ規格のAACS受け入れ」と直結しては危険かと思う。猊下をFairPlay、iTS、.m4vへの消費者囲い込みを狙うビッグブラザーと仮定した場合、1080p映像をiTSで販売し「居間の大きなテレビで見たければ、non-DRM光学ディスクに書き出そう!」という攻守一体戦法が選択肢に入る。そんなんハリウッドが許すわけないが、どちらかというと猊下は「許さざるを得なくなる日」まで待つタイプだし、その状況を自分で作ってから交渉するタイプだ。
    • 「1080pオンライン」が「ふつう」になる日がいつ来るか、そもそも来るかは不明だが、市中心理に〜それも、ベリー・アーリー・アダプター層の範囲を超えて〜「すぐ次の予感」が存在する事が問題である。スーファミの噂が出ればファミコンの台数には「ガラスの天井」が発生する。これはDVD普及期には存在しなかった(少なくとも、「ちょっと技術に詳しい」程度の消費者の脳内には、なかったハズだ)。
  • 4.CDデファクト,BD Not. MS Officeは砕けない。
    • 09Q4現在もCD市場が残っているのは、それが圧倒的なデファクト・フォーマットだからだ。BDはそうではない。それはDVDである。
    • あるソフトを「ウチのHDレコがBD対応かどうか解らない層」にも売りたければ、DVDソフトは不可欠の選択肢である。
    • 店頭でのメダパニ回避が最優先なら、むしろBDは出すべきでない。
      • 端的には、エロとアンパンマンがこれに相当する。イヤ「おにぎりマンxジャムおぢさん」とかでなくて。

*1:いや、記憶だ

*2:一見瑣末だが、たかた社長の喋りは、こうした感覚的な部分のアピールに相当の重心を割いている。

*3:PS2の場合「一般」の認識は、「マトリックスのDVDが見れるし、ゲーム「も」できるんだぜ」だった。

*4:=視界を覆う程度=視野角度でもある

*5:=現在一般消費者がお金で買える選択肢の中で、最もNHK技研の「ハイビジョン」に近い存在。「地デジ」はそうでもない。