研究開発費(R&D支出)の対GDP比とイノベーション

日本は、G7中では最も高い。しかし、GDP比は低くとも、世界中から優秀なブレインをかき集めて来れる米国では、一ドル当たりの「有効性」*2が違うだろうし、中国は民族的親和性から台湾香港のR&Dの恩恵を期待できるだろう。一方、イスラエルや韓国、あるいは台湾やシンガポールのように、無資源な事甚だしい知財立国覚悟完了国家群をライバルと看做すと、突き放すにせよ追い越すにせよ、日本はいささか心許ないカンジだ。

「世界の工場」の地位は中国に奪われて久しく、日本より身軽な「無資源知財立国」が台頭してくる中では、日本はちと半端な位置に思える。立国方針の見直しが必要に思える。ぶっちゃけ「XX立国!」て方針自体がアレぢゃねぇのとゆう気もしなくはないが、増やすにしても、減らすにしても、従前通りに突っ込むにしても、「百円当たりの有効性」みたいなベンチマーク指標は欲しいところだ。

このうち、G7中最高の点に着目すると、以下のような事が言える。

日本の研究開発費のGDPに対する比率は約3.6%で、これは米国などを抑えて世界1位となっています。
しかし研究開発費の水準が高くても、それがイノベーションに結びつかなければ意味がありません。日本の研究開発費は、投下した資金に見合う成果を生んでいるでしょうか。残念ながら、世の中を変えるような革新的・創造的イノベーションが、日本で生まれることは非常に少ないと言わざるを得ません。

と云われてぱっと思いつくのは、国産ではVHS、ウォークマンファミコンの三つ。そして世界進出は成らなかったものの*3i-mode

このうちファミコンは、枯れた技術の水平思考という奴だ。またウォークマンは当初、録音機能を省いて売れるワケがない!という冷ややかな視線の中でスタートした*4。VHSは「2時間録画」という使い勝手で画質と技術に勝るベータを撃滅した。i-modeについては、以下の一文に尽きる。

 あるエンジニアが、NTTドコモ社内の「技術功労賞」を獲得した松永氏に対して、皮肉をこめてこんなことを言ったそうだ。
 「それで、松永さんは一体どんな技術を開発したんです?」
 すると、松永氏をNTTドコモに誘った上司が、松永氏を弁護してこう答えた。
 「真理さんはね、サービスという技術を開発してくれたんだよ
  (略)
 エンジニアは皆、iモードの複雑な技術的側面にばかり気をとられていたのでしょう、と松永氏。顧客が本当に気にしているのはその技術が何を提供してくれるかであって、技術がどのように機能するかではないと松永氏は言う。

『iモード』の生みの親、松永真理の実像に迫る(下) | WIRED VISION(2001年06月04日)

VHS、ウォークマンファミコン。そして世界進出は成らなかったものの、i-mode。いずれも、特にハイテクの鎌足というワケでは、ない。これらのなにが革新的で創造的だったかというと「一日の生活の中に、それまでには存在しなかった行動をねじ込んだ」という点だ。

イノベータ 派生したナニカ
VHS レンタルビデオ、アダルトビデオ、ビデオグラム販売(OVAなど)
ウォークマン 貸しレコード、エアチェック
ファミコン 家庭用ゲーム産業、ファミコンショップ、ゲーム雑誌、など
i-mode 有料サイト、勝手サイト、出会い系掲示板、など
cf.電球 電力会社、送電網、コンセント規格、電器産業、など

手許では、この左右をひっくるめた総体を「イノベーション」、それ以外は「カイゼン」と認識している。
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仮に。09Q4現在の日本が「ムダR&D支出の鎌足」だとして。
これを作品ビジネスに当てはめると、売れるか否かはプロデューサーの技量に掛かる部分が多い。「ひとりよがりな監督の暴走を抑えるプロデューサー」とか、「ひとりよがりなまんが家の暴走を抑える編集者」とか、このへんのバランスがどうにかなってしまうと、「日活の落陽」とか「FFの映画」みたいな事が起きる。前者は、じだいおくれな過去の黄金フォーマットを追い過ぎて、後者は暴走するクリエイター魂を抑えきれずに、会社に滅亡の瀬戸際をもたらしたビッグプロジェクトだ。

「ハイテクの暴走」については、既に1983に警告が発せられている。

  • ジョン・ネイスビッツ『メガトレンド』1983

新技術が社会に導入される時にはいつでも、平衡を取り戻そうとする人間的反応があり、それがすなわち「ハイ・タッチ」であって、ハイ・タッチがなければ技術は拒絶される。ハイテクであればあるほど一層のハイ・タッチが必要とされる。

どうすればハイテクとハイ・タッチを高いレベルでバランスさせられるのか、どうすれば「ハイテクの暴走」に無駄金を費消せずに済むのかは、おそらくマンガやアニメやゲームと一緒でなんとも正解の無い話だが、単純に、徹底した成果主義を導入するというのは、アリだと思う。
ジャンプ10週打ち切り方式では、ヒット作を生めないまんが家はもちろん、担当編集者の出世もかかる。編集部主導のマガジン方式というのも、アリかと思う。いずれも、「まんがとしての高度さ」や「芸術的価値」に左右される事が少ない。そんな事より「売れるかどうか」のほうがたいせつだ。ガロ (雑誌)は漫画界の異才をあまた輩出したかもしれないが、ビジネスとしてビッグマネーを叩きだした事はない。
ところで。

(*04秋*)立食式の懇親会にて、ある半導体メーカーの元社長が、筆者を呼び止め、もの凄い剣幕で、「お前の言ったことはすべて間違っている」と叫んだ。さすがにカチンときた筆者は、理屈で応戦した。そのやりとりは以下の通りである。

  • 湯之上 「なぜ、あなたは、私の言ったことがすべて間違っていると思うのですか?」
  • 元社長 「日本半導体の技術力は、実際に高いからだ」
  • 湯之上 「なぜ、そのように判断できるのですか? どんな証拠があるのですか?」
  • 元社長 「おれの直感だ」
  • 湯之上 「あなたがそのように直感で感じるには、何かの根拠があるはずです。どのような根拠があって、そのような直感を持たれたのですか?」
  • 元社長 「日本の技術は本当に強いからだ」

この手のメンタリティに国費を突っ込んで支えてきたという事は、日本もなかなか文化に理解のある国だと思う。

  • 商品の方向性:「まんが家と編集者」が決める。
  • 製品の設計図:「まんが家」がネームを切る。   ← 「R&D」は「取材費・資料費」に相当。
  • 製品の生産は:「まんが家とアシスタント」が行う。← ここが「エンジニアリング」

社長がコレって事は、そもそも「編集者機能」が存在しないって事だ。この社長の下では組織は「自由闊達なるアシスタントの楽園」になる。てゆうか他になりようがない。そこに補助金が出るなら、国のオカネでコミケをやるようなものだろう。

*1:流石に数字を引用するのは気が引けたのだけど、無料会員登録だけでエクセルのデータが貰える。

*2:RR&D、リターン・オブ・R&Dみたいな?

*3:少なくとも今のところは。

*4:ただし市場確立後の小型化は、驚嘆すべき執念を以て進められた。