業界八分:裏切り者扱いとはどういうことか?

『フリーペーパーの衝撃』

ちと古いけど、『フリーペーパーの衝撃 (集英社新書 424B)』という本に国内初の日刊フリーペーパーの顛末が載っている。以下抜粋。

1)TOKYO HEADLINE(創刊2002/首都圏):週刊。産経新聞の配信ニュース。

  1. 記事:
    • 共同:加盟社(有料紙)からお金を貰う社団法人として提供できない。
    • 時事:契約の段になって断られる。
    • ロイターとブルームバーグのみでスタート。
  2. 生産・配布:
    • 大手製紙会社:(用紙を)「売れない」
    • 配布ラック:営団・JRが、構内売店の新聞雑誌売上など理由に、設置を断わる。
    • 印刷会社:創刊数日前に「できなくなった」(スポーツ新聞系の印刷会社)。
  3. 広告:
    • 大手広告代理店に軒並み取り次ぎを断られる(実績がないとちょっと)。
  4. 闇:
    • 大手紙幹部を名乗る電話がかかり「日本で日刊無料紙発行などもってのほかだ」
    • 匿名電話「電車のホームでは気をつけろ」「女房子供を実家に帰したか」
  5. 結果:
    • 社長交代、週刊化、産経の記事配信を受ける事に成功。

2)メトロ(創刊1995@スエーデン):日刊。世界22カ国に進出、各地で既存紙の抵抗を受けつつ、2004までに12カ国で黒字化達成。

  1. 摘要
    • メトロ進出地には、日本並みの新聞購読率を誇る国もあるが、若い人たちの新聞離れは各国共通。「時間が無い」「高すぎる」。にもかかわらず、新聞社は「ページを増やし」「価格をあげた」というのが創刊の理由。その結果、編集方針は宗教中立。社説なし、論説なし、解説一切なし。通勤電車の20分で読み切る事を想定。
  2. 各地の抵抗例
    • 英国:地元紙が「メトロ」を商標登録、同名紙を発行。本家は別名での上陸を余儀なくされ、後に撤退(99)
    • 仏国:印刷労組の反対で隣国で印刷して搬送。労組員がセーヌ河に投げ込む(02) ← すがすがしいw。
    • 韓国:メディア外資規制のためフランチャイズで進出(02)。
    • 世界新聞協会:
      • 2000年大会では「侵略者」「バイキング」呼ばわり
      • 2001年大会では「若い人たちを新聞読者に引き込む理想のメディア」
  3. 日本進出の頓挫
    • 2000年、進出可能性を探りに副社長が来日。
    • 国内新聞・通信社/地下鉄駅/大手広告代理店の協力が得られないと知り「そんな条件は外国なら簡単にクリアできるのに。日本は特殊な国だ」。

以下のような記事を見る度に、この本の事を思い出す。

直接的な嫌がらせ、誹謗中傷が連日のように続き、中には犯罪行為ともいえる脅迫までが行なわれるようになった。ここでその内容は詳らかにしない。だが、自らの身を守るためにも、その反発は想像以上のものであることだけは書き残しておこう。

日本の出版業界はiPadに強い関心を示しているものの、積極的に電子出版に乗り出そうとするところはまだ少ないようだ。ある業界関係者は「電子出版に前向きに取り組んでいる出版社だという評判がたつと、業界内で裏切り者扱いされる」と語る。また関係筋によると、大手ビジネス総合誌の編集部が電子出版の特集の取材を進めていたところ、出版直前に経営層から同特集の掲載中止を命じられたという。この雑誌で経営が編集内容に口出しするのは異例のことらしく、また明確な理由も示されていないもよう。「業界内で裏切り者扱いされるかもしれないという経営陣の自主規制ではないか」(同関係筋)という。

同じような問題は日本の多くの業界にあり、特にメディアに多い。当ブログでも取り上げてきた電波利権や、いま話題になっている記者クラブ、またこのダイヤモンドの特集のテーマだった再販など、枚挙にいとまがないほどだ。それはこの業界が「互いに他のメディアを批判しない」という情報カルテルを結んでいるからだ。

こういう事には「雇用を守る」というメリットがある。代償として、自らの存在意義を問い直す機会を失う。それは、ジブンのコトバが枯れてゆくという事だ。そんなペンでは、剣にも空気にも勝てはしない。