参考人の資格

 子どもを性行為の対象にした漫画やアニメを規制する東京都青少年健全育成条例の改正案で、都議会総務委員会は18日、宮台真司首都大学東京教授ら4人を参考人として招致、改正案の是非を聴いた。
 宮台教授は、規制範囲の概念を示した「非実在青少年」などの文言に言及。「条例の構成要件が不明確で、恣意的な運用につながる」と改正案を批判、表現規制により社会に副作用を及ぼすとした。同じく反対派の田中隆弁護士は「性行為描写の漫画を読むことが青少年の成長を阻害するという裏付けはなく、自主的な成長への過度な介入だ」と指摘した。
 一方、賛成派で性に関する子どもたちの相談に乗っている赤枝恒雄医師は「頭が真っ白な子どもたちの中に過激な情報を入れると犯罪につながる恐れがある」と改正案は必要と強調。
 前田雅英首都大学東京教授は「改正案の条文を変える必要はなく、ガイドラインに都民の良識を反映させて動かしていくことが得策だ」とした。
2010/05/18 20:25 【共同通信

ふとこのお名前と肩書きが記憶に引っ掛かった。

1)専門家の本懐

MSN産経は、前田さんに対し、より明示的に賛成派のラベルを打っている。

 子供の性行為を描く漫画などの規制を目指す東京都青少年健全育成条例の改正案をめぐり、都議会総務委員会は18日、識者への参考人招致を行った。
 参考人は、反対派から宮台真司首都大学教授(社会学)と田中隆弁護士、賛成派から前田雅英首都大教授(法学)と赤枝恒雄・赤枝六本木診療所院長の計4人が出席した。

※↑専門は法学。

(略)
 一方、前田教授は「1条文にあいまいな部分がないわけではないが、これだけ議論が出てくることは意外。1概念が不明確とか、1どこまで処罰するか分からないことがあるが法的問題はないと指摘した。

※↑専門は法学

 さらに、前田教授は「2漫画などの区分陳列を義務づけるだけでゆるやかな規制。欧米でも子供が自由に見れるものは限られてる。PTAから『こんな漫画を世の中に出していいのか』という意見もあり、子供へのメリットを考えると改正案を早く施行すべき」と持論を展開した。

下線1は、1法の支配の根幹に関わる問題で、下線2は、2特段の専門性がない。ふつうの常識論。だと思った。

頭書記事に示された、性に関する子どもたちの相談に乗っておられる赤枝医師の懸念は「むぅそうかもな」と云う気がないではない。しかし、それを法律でゲンミツに表現するのは、とても難しい作業の筈だ。んで。1法律専門家の腕のみせどころは、その懸念を「どう法律で表現するか」に掛かっていると思っているのだけど…最近はそうでもないんだろうか?。

「曖昧さの残る条文、不明確な概念、どこまで処罰するか分からない」。でも、「法的問題はない」、、、オレ罪刑法定主義ってもちっと厳格なモンだと思ってたんだけど。…最近の法学はそうでもないんだろうか?。「これだけ議論が出てくることは意外」ってんだからそうでもないんだろうな。と思った。

なワケないよなぁ。個人的には、法学者さんにはまず法律屋ならではの専門的な見解を期待しているんだけど。2PTAの意見はPTA呼んで聞けばいいのに

2)参考人の資格

今回の『子どもを性行為の対象にした漫画やアニメを規制する東京都青少年健全育成条例の改正案』は、以下のタイムテーブルで錬成されてきたモノと理解している。

第28期東京都青少年問題協議会 摘要
12


2008.12.24 第1回総会
 委員名簿(PDF
 議事録(PDF
 諮問(PDF
第1回総会において審議事項を諮問
11

2009.01.30 第1回専門部会 議事録(PDF
2009.02.06 第2回専門部会 議事録(PDF
2009.02.17 第3回専門部会 議事録(PDF
2009.03.26 第4回専門部会 議事録(PDF
2009.04.24 第5回専門部会 議事録(PDF
2009.05.26 第6回専門部会 議事録(PDF
2009.06.25 第7回専門部会 議事録(PDF
2009.07.09 第8回専門部会 議事録(PDF
2009.10.15 第9回専門部会 議事録(PDF
専門部会にて
1)青少年とネット・ケータイをめぐる現状と課題
2)青少年を性的対象とする図書類のあり方
について分析・審議、問題解決の方向性を検討
2009.11.24 第1回拡大専門部会
 議事録(PDF
 答申素案 概要(PDF) / 全文(PDF
拡大専門部会において答申素案を審議
2009.11.26 東京都・パブコメ告知
2009.12.10 パブコメ募集締め切り
答申素案に対する都民意見を募集
2009.12.27 第10回専門部会 議事録(PDF 答申案を審議
2010.01.14 第2回(?)総会
 議事録(100316現在未公表)
 答申(PDF)/ 概要
 パブコメ結果概要
 ※答申に関する告知
総会において答申を知事に提出
■都議会(10Q1時点での見込みスケジュール)


2010.02.24 東京都、議会に条例改正案を提出 2010年第1回定例都議会 第三十号議案
東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」
2010.02.25 都民が意見が言えるのは25日まで 藤本由香里さん
2010.03.04 都議会・代表質問 数日前に質問書提出が必要(同上)
2010.03.05 都議会・一般質問 数日前に質問書提出が必要(同上)
2010.03.19 都議会総務委・付託議案決定
2010.03.30 都議会本会議・会期末
2010.10.01 施行(予)

実質的な改正案の下地は、足掛け11ヶ月に渡る「第28期青少協 専門部会」で錬成されたんだろうなと思っているのだけど、この専門部会の部会長さんが、前田雅英首都大学東京教授その人だ。

  • 2008.12.24 第1回総会 議事録(PDF

○加藤副会長 (略) それでは、専門部会長の選任についてお諮りしたいと思いますが、委員の皆様からご推薦をお願いしたいと存じますが、今回いろいろご負担がかかるかと思うんですが、もし私から推薦させていただきたいと思うんですけれども、よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
○加藤副会長 ありがとうございます。それでは、首都大学東京の前田委員にお願いしたいと思います。専門部会の審議の過程では、行政としてどう対処すべきかという検討が必要になるかと思うんですが、法学のみならず、行政の分野に関しても高いご見識をお持ちになり、また、首都大学のほうで都市教養学部長の任にも当たっておられまして、この専門部会については適任だというふうに思っておりますが、いかがでございましょうか。
(「異議なし」の声あり)

○前田委員 それでは、お引き受けさせていただきたいと思います。
(略)
インターネットと青少年の問題は、長年東京都と国でいろいろな会に参加させていただいておりますので、その議論も踏まえて、副会長がおっしゃったように非常に難しい問題だと思います。ただ、国の動きとかいろいろ見ていますと、明らかに潮目が変わってきていまして、東京都が一番最初にフィルタリングなんかも言い出して、それで国が動いたんですね。じわじわとした動きなのですが、やはり世の中変わってきていると思います。
この一つ前に有害図書についてもやらせていただいたのですが、そのときよりはまたもう一歩前に行けるのではないかということで、ぜひ具体的な案をつくれるように部会としては努力してまいりたいと思っております。
以上でございます。

どうも「参考人」というと、「局外から参考意見を言う立場」な印象があるのだけれど、そういう意味では、この人選はまぎらわしい。此方は、本改正案の方向を確定したチームの、仕切り役だ。しかも当初から「都から全国へ」とのご意向マンマンであらせられる。

参考人」と呼ぶには、この人選はまぎらわしい。当事者臭がキツすぎる。

3)有識者はナニを以て有識者と呼ばれるか

有識者」と呼ぶにも、、、知識量はどうか知らんが、他の部分で若干の疑問なしとしない。

  • 2009.01.30 第1回専門部会 議事録(PDF

P32
○前田部会長 ほかにいかがでしょうか。
後藤委員には怒られるかもしれないんですけど、児童ポルノの中に漫画を含めるかどうかという検討を、別の機会に何年か前にやったことがあるんですが、そこで彼らの代表的な意見みたいなものが紹介されて、議論の俎上に乗ったことがあるんですけど、彼らは、こういう漫画があるから児童性愛事件が減っているんだという言い方をするんですね。それによって昇華されて、本当にそういうことをしない代わりに、代償行為として漫画を見て楽しんでいるんだと。そこにどれだけ説得性があるのか。
ただ、児童性愛をずうっと名乗ってきてカミングアウトしている人で、漫画やなんかがなくなっちゃうともっと悲惨なことが起こる。彼らの言い分は、我々は大人の女性には全く関心ないんだと、それはわかってもらえないかもしれないけど、我々から見ると、これは性を逆にして言っても同じなんですが、何であんな大人みたいな、ある意味で気持ちの悪いものに性的なものを感じるんだと、その裏返しの気持ちをわかってほしい。性同一性障害と同じようなものなんだと。
それが世の中一般に説得性を持つかどうかは別として、真剣にそういうことをずうっとブログやなんかで言いまくっていく人もいるし、それの周辺で、漫画は表現活動だから、それを児童ポルノとして扱うということは許しがたいという漫画家集団が相当強く存在しているし、民主党なんかにも働きかけている事実はあると思うんです
我々から見たら理解不能なんですけど、要するに児童しか愛せないと、それにしか性的興奮を持てないという人がいることも事実なんだと思うんです。そこをどうするかは非常に難しいというか、後藤委員がご指摘になったように、危害があるわけだから、それを押さえ込むというのは一つの方法だし、世界的な方向としては、日本は孤立しているんだというのもご指摘のとおりだと思うんですけれども、これをどう取り組んでいくかというときには、そういう声も結構存在しているということを頭に入れておかないと。前に青少協でやったときも、ポルノを禁止するというときに、一番強く反対とかメールを送ってきたり、脅迫状とかということをやった人たちは漫画家集団なんです。特に児童ポルノをかいている人たち。この人たちはいわば狂信的なグループではありますよね。だから、それが怖いから議論が……ということは絶対あってはいけないのだけれども、ただ、狂信という言葉を使ってはいけないので、彼らは真剣にそういう趣味を持っているという面も、そこは理解しなきゃいけないという感じはしたんですね。
ちょっと余分なことなのかもしれないんですけどね。
どうぞ住田委員。

此方の言われる「狂信的で理解不能なグループ」も、実在児童を守りたいという点では、大多数が一致するんぢゃないかと思う。少なくとも、その相互理解の可能性を狭める言動は、デモクラシーの可能性をも狭め得る。『狂信という言葉を使ってはいけない』と思うなら、公開議事録に残るような場では一切使わないのが「おとな」だと思う。

それに『真剣にそういう趣味を持っている』人々を『理解する』という配慮は、性犯罪から子供を護る上では、基幹となる部分ぢゃないだろうか。それを『余分なこと』と言うのは、言葉のアヤでもよくはない。少なくとも自分の基準では、良識の範疇を外れている。誤爆上等の過剰規制を生みかねない。

また、当の『漫画家集団』は、政治活動の定石として自民党なんかにも働きかけていると思うが、なぜ『民主党なんかにも』ダケなのだろうか。都知事の諮問機関たる青少協の党派色を疑われるような言い回しは、『法学のみならず、行政の分野に関しても高いご見識をお持ち』と呼ぶには、ちと不足なように思う。

P36
○前田部会長 この問題の対策は、東京都を越えて国でもブロッキングの問題とかも、総務省なんかも恐らくおやりになると思うんですけれども、東京都の対策として特にやっていけることがあるかと。先ほど青山課長がおっしゃっている成果の中に取組があるんですけれども、例えば、フィルタリングなんかは、東京都で条例をつくったから総務大臣が動いて、携帯の社長を呼びつけてというようなことにつながった面がもちろんあるんですよね。ここで東京都の条例の中にフィルタリングを持ち込んで、1地方公共団体が何だみたいな感じはあったんだけれども、やはり非常に大きなインパクトを与えていったという経験はあるので、ぜひいろんな意味で可能な、もちろん先ほどご説明いただいたような全体の状況の中で何ができるか考えていかなきゃいけないと思いますけれども、児童ポルノに漫画を含むかどうかというのも大きな問題で、それについて児童ポルノ法の改正が本体だとは思うんですが、その周辺として、東京都としてどういう取組をしていくことが可能であり、していくべきなのかという観点はあり得ると思うんです

ひらたく言うと、都で通れば全国に広がる、という戦術論を開陳しておられる。手管としては理解できるが、議事録に残してしまっては、『狂信集団』を排するために会議を非公開にした意味がないんじゃないだろうか。

  • 2009.07.09 第8回専門部会 議事録(PDF

P18
〇前田部会長 ありがとうございました。二つの点、後者のほうですが、これは外に出すのが非常に難しくて、幾つかの審議会、国レベルでも東京都でもそうだったんですが、児童ポルノみたいなものがあるから幼児に対する虐待的なものが増えるのか、増えないのか、データが有るのか、無いのか、エビデンスを示せみたいな議論が必ずあるわけですね。
これに関しては警察で、こういうものがあったからと、奈良のやつなんかそうなんですけど、それに刺激されてやったということがあることは事実で、それは新谷委員もおっしゃるとおりなんですが、統計的に、こういうものがあるから増えたという立証は、データとしてはそんなに明確には無いんだということなんですね。無いから影響していないというのも間違いだと思うんですけれどもね。
ただ、一つだけ、そういうことに消極的な学者の世界でもはっきりしているのは、アメリカの研究でも、こういう性のことで、今のご指摘にもありましたが、女性とか子どもは虐待されると喜んでいるんだという種類の描写、これは明らかに助長するということははっきりしている。だから、これは禁ずるべきである。これはほぼ異論がないのだと思います。
ただ、ポルノがあることでとか、幼児姦みたいなものがあるから幼児姦がふえるという立証もないし、もっとないのはカタルシス理論で、これがあるから犯罪に至らないんだというのは、そのグループの人たちはおっしゃるけれども、エビデンスは何もないと思いますね。
ですから、あるところから先は水かけ論になってしまうんですが、最後は、法律の世界では常識で、こういうものがあったら増えるという人が多い感じがあれば法的に禁止するのは当然。そのときに統計データがなければ禁止できないというのはナンセンスだと思いますね。
ただ、漫画家団体の人たちは、統計データが無いのにそういうことをする、そういうことを主張している学者のグループというのはインチキであるとか、めちゃくちゃだと。私なんかもやり玉に上げられて10万単位のメールが来ちゃったりするんですね。
ただ、今申し上げた線が大体コンセンサスで、この問題をやっている人たちの、積極の側も消極の側も共通して認識しているところで、確かに新谷委員ご指摘のとおり、カタルシス理論みたいなものだけを強調するとずれてしまうのかなという感じはいたします。
もう一つ、さっき申し上げた具体的な施策のところですけど、幼児に対して性交するような漫画をどのように扱うかというところで、先ほど吉川委員がご指摘になったところですけれども、片一方で児童ポルノは、後藤委員も主張されるように、現に被害者がいて、写真を写された人間の人格の侵害を中心に考えろと。それだと、必ずしも性器が写っているかどうかは重要じゃなくてということだと思うんですね。
それは非常に大事なんですが、片一方で、風俗とか何かのほうでいくと性器がどれだけ写っているかで、都庁の側の文書も、民主党の中の文書と非常によく似ていて、民主党は、性器が大写しになっていないものは児童ポルノから除こうという提案をしているんですね。それは非常に危険で、全裸の幼児の写真はやっぱり児童ポルノなんだと思うんですね。性器が強調されていなくても。
だからといって、性器が強調されたら、それは175条に当たらない限り、漫画で、警察の取り締まりなんかでいくと、性器が露骨に書いてなきゃ175条にならないんですよ。
幼稚園児と性交している漫画でも、そこがぼかしてあれば175条にならなくて、175条でやればいいじゃないかというと、そこはスポンと今、落ちている状況なんですよね。
それは警察をあまり非難してもかわいそうなので、いままでのわいせつ基準だと、性器がどれだけ露骨に何割ぐらい写っているかという、やっぱり構成要件に合うための明確性が要求されちゃうので、そうなっちゃうんですね。
ただ、児童ポルノの場合には、そこが克明に描写されてなくたっておぞましいものというのはあるんじゃないか。そういう方向で議論を前に進めていかないと、いつまでたっても、この間見せていただいてやっぱりびっくりしたんですけど、小学生低学年とか幼稚園児との性交みたいなものが平気で描かれていて社会に出ているというのはやっぱり異常ですよね。
児童ポルノという意味では、本人がいないんだから法益侵害がないと。片一方では、社会公益、法益に対する罪でわいせつだというと、性器が描かれていないんだからわいせつではない、だから売っていいんだ。
これは318歳未満に売っていいかどうかという問題よりは、世の中でああいうものを販売することを許していいかで、そうすると、今、取り締まるというか、ツールとしては18歳以下でやるしかないんですが、3そもそもそういうものを広く売る権利があるという主張はないような気がするんですけれども、その辺のところが今後一つ課題になっていくかなと思いますが、これは漫画家集団の虎のしっぽを踏む行為ですから、これは大変慎重にやらないといけない。ただ、3本質はそういうことだと思っているんですけどね。

ナニがOKでナニが不可かの線引きは、ひっじょ〜〜〜〜〜に厄介なものだ。自分だって『小学生低学年とか幼稚園児との性交みたいなものが平気で描かれて』るようなマンガは見たかない。
でも。
3このあたりは、未成年保護がどうこうより「オレがキモイから禁止!」にも見える。『18歳以下でやるしかない』では、己の生理的嫌悪感を表明するのに、自分がイヤだと思うものを社会から排除してゆく為に、未成年をダシに使っているようにも見えてしまう。
それは、卑劣な事だ。
それよりは嫌ポ権/嫌BL権を唱えるほうが、ナンボか健全なんじゃないだろうか。
////
それにしても。ここまで警戒しておいて『これだけ議論が出てくることは意外』って、よく言うよね。シレッと。『10万単位のメールが来ちゃったり』してるのにw。おっとな〜w。

100520追記

改正案の基になった都青少年問題協議会の答申に携わった前田雅英首都大教授(刑法)も賛成の立場で意見を述べた。「条文には分かりにくい部分もあるが、他の条例と比べて突出しているとは言えない。業界とやり取りして運用のガイドラインを定めればいい」と主張。一方で、答申作成の過程で漫画家らの意見を聞かなかった点については「不明を恥じる」と反省を述べた。

不明と思しきポイントは2点。

イ)「刑法の専門家」が、罪刑法定主義に違背しかねない主張をしている事。

原理主義っぽく言えば、事後的な運用ガイドラインで事足りるという主張をしている時点で、法、なかんづく刑法の専門家と認めるには違和感がある。現実の運用面でも、事前に業界とやり取りして条例案を練り込むほうが、より少ない論争で、よりスムースに可決すると期待できる。もちろん、そちらのほうが、より高い実効性を期待できる。
条例案は、そのプロセスが不十分だったがゆえに紛糾している。このまま可決したところで、運用ガイドラインの策定でまた紛糾するだろう。それは、「法の支配」や「都民の遵法精神」を毀損するリスクがキツい。現下の情勢から見て、業界とやり取りして条例案を練り直す方が、青少年の健全な育成に資するように思う。

なお、青少協の議事録には、所詮商人とコケにするかのごとき文言が散見されるが、商いは、客良し、店良し、世間良し。だ*1

  1. 客の笑顔が第一である。ただし、そこに溺れてはならない。
  2. 店の儲けが第二である。ただし、そこに溺れてはならない。
  3. 世間様あっての商売である。溺れれば、必ずツケが回って来る。

条例改正を求めるなら、この3番を上手に刺激する手腕が必要と思う。もちろん、正論は常に正しい。だが正論を武器にする奴は正しく無い。正義の味方は「世界を敵と味方に分けたがるヤバイ人」だからだ。

ロ)ステルス戦略
  1. 『我々から見たら理解不能』な『いわば狂信的なグループ』
  2. 『漫画家集団の虎のしっぽを踏む行為ですから、これは大変慎重にやらないといけない』
  3. 『18歳未満に売っていいかどうかという問題よりは、世の中でああいうものを販売することを許していいかで、そうすると、今、取り締まるというか、ツールとしては18歳以下でやるしかない』

これらの発言群は、妊娠中絶などを巡って米国の道徳保守派が取った『ステルス戦略』を想起させる。

1960年代以降、アメリカでは伝統文化擁護派の宗教的な保守主義者とカウンターカルチャー推進派の自由主義的な世俗主義者との間での対立抗争が激化し、政治、社会を巻き込み、時に軍事的な衝突の様相すら呈すほどに激しさを増しているという。この両者の対立をアメリカの宗教社会学者ジェイムズ・D・ハンターは「文化戦争"Culture war"」と呼んだ。今まさにアメリカはこの第二の内戦の真っ最中とも言えるようだ。

特に悪名高いのがステルス戦略と呼ばれるもので、公職選挙時に競争相手の候補者に知られないように隠密に進める運動のことだ。アメリカの教育委員会制度はいくつかの制度が併存しているが多くの州で公選制が取られている。80年代までは概ね無風選挙で各委員が決まっていたが、クリスチャン・コアリションはそこに目をつけた。隠密裡に立候補者を立て、候補者は表立っての選挙活動は行わず教会のネットワークを駆使して教会会堂内での有権者登録勧誘などを通して運動し、投票日に当選してみせるという例が続出。教育委員会過半数を握ると公立学校での祈り復活、創造科学の促進、性教育制限など教育現場における保守派の主張を押し通した。これに対してリコールなども続発。90年代、教育委員会選挙は文化戦争の主戦場となっていったという。

年代的に見て、この動きは米国の経済低迷と自信喪失に根ざしていた可能性がある。幸いにして日本には、宗教原理主義と呼べるほどのものはないが、「文化的な色彩の濃い案件」が激化しないよう、注意すべき時期に入っているように思う。この手の亀裂は、一度入るとなっかなか長く尾をひく。人の心を鷹揚にさせる高度成長も、当分は期待し難い。

「文化的(あるいは道徳的)な色彩の濃い案件」の特徴は、おおきく二つ。

  • 第一の特徴は、シンプルなタグ打ちや切り分けが難しく、従って万人が妥協できる策が作りにくく、その結果ドロヌマ化しやすい事。
  • 第二の特徴は、経済が低迷すればするほど、手っ取り早く票になる確率が上がる事。これが第一の特徴と複合して、政治的な亀裂の深刻化ありがちな事。

ひらたくいえば「昭和のモラル」を取り戻そうとしても、「昭和元禄」や「バブル」を経て「価値観の多様化」に馴染んでしまった世間は、一筋縄ではいかない。個人的には、性的モラルの他に、国旗国歌、外国人参政権、選択的夫婦別姓、あたりが要警戒かなとか思う。これら文化的(あるいは道徳的)な問題では、左右性別党派を問わず様々な立場があり得るし、割れ割れに割れるのが「自然」だろう。おそらく我々は、前の世代よりも、高い対話能力を求められる事になる。

そうした中で、反対論者を「理解不能な狂信的なグループ」と呼び、「虎の尾を踏まないよう慎重に」と口に出してしまう姿勢は、『ステルス戦略』と通底したものに〜自分には〜見える。これは、主義主張の是非以前に、政治的な混乱を拡大させるリスクがきつい。デモクラシーの芯の部分は「対話」だ。そこは外さないで欲しい。大変ではあるのだけど、外せば「健全な青少年育成」が文化戦争のネタになってしまう。

でもまぁ「非実在児童ポルノ打ち払い令」てのも、それはそれで面白い気もすっけど。「尊王攘ポ」とか言ってw。

*1:あの人たちナニで喰ってんの?まさか税金?