書籍流通のブックオフ化

以下、2010年5月21日付紙面より抜粋。

書店の動向

  1. 三洋堂書店:今夏、全店で買い取りができる体制を整える。中古書籍のFC展開も始める。
  2. 文教堂GH:年内に買い取り店舗の数を50店から80店に増やす。
  3. 有隣堂(横浜市):4月下旬より、中古書籍の取り扱いを開始。
  4. カルチュア・コンビニ一エンス・クラブ(CCC):来年度以降、中古書籍を扱うスペースを年50店の割合で増やす。
  5. ブックオフ:10年3月期は既存店売上高が4・2%伸びるなど好調だったため、事業拡大を加速。

背景

1)中古書籍の収益性:
  1. 新刊を主に扱う書店各社の粗利益率は20%強にとどまるが、ブックオフは56.4%(連結ベース、10年3月期)
  2. 中古書籍は新刊時点の価格の1割で買い取り、5割で販売することが多い。
  3. 新刊は売れ残っても無償で出版社に返品できるが、中古は在庫リスクを自社で持つため、粗利益率が高くなる。
  • ※1.と2.は、2000頃、プレステ1の定価制が崩れた時期と類似の状況と思われる。
  • ※3.は、「出版社の過剰生産リスク≒書店の在庫リスク」を出版社・取次・書店が三位一体で負担するシカケ。いわば「売れ残リスクのモチアイ構造」を示唆する。
2)新刊市場の縮小:
  1. 出版科学研究所(東京・新宿)によると、09年の書籍・雑誌の推定販売金額は08年比4・1%減のー兆9356億円。21年ぶりに2兆円を下回り、書店各社は収益源の多様化を迫られている。
  • ※返本率が40%付近で高止まりしている状況は「生産調整/仕入れの失敗」を意味する。鮮魚店なら三日持たない(商売に他の理解などない)。いくら日持ちのする商材とはいえ、業界全体としてそれが数年も続いているというのは、ちと信じ難い。

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かんそう

日本の書籍流通は、三位一体。「刷ればみやこ」「取ればみやこ」「二都を支える商工ローン」でできている。

刷ればみやこ。
刷ればひとまずカネになる。
取次が、刷れば刷っただけ現金化してくれるから(最近はそうでもない)。他の商売なら作ったもんは責任持って売らねばならないが、「返本制」はその責任を「繰り延べ」できる。そのスキに「次の本」を出せる。ひらたく云うと『すぐ現金になるんだからガンガンつくっちゃえ!』
現実にはイロイロあるが、こんな商売ほかにない。
取ればみやこ。
取っても後から返品できる。
取次が、売れ残りを買い取ってくれるから(期限アリ)。
他の商売なら仕入れたもんは責任持って売らねばならないが、「返本制」はその責任を軽減できる。そのゆとりで品揃えを充実できる。ひらたく云うと『どうせ返品できるんだからガンガン仕入れちゃえ!』
現実にはイロイロあるが、こんな商売ほかにない。
二都を支える商工ローン
大手二社でシェア70%。この体力で、「売れのこリスク」の防波堤になる。出版社から見た取次ぎは、
  • 「現実にはどこまで売れるかわからない商品を、刷ったぶんだけ言い値で」買い取ってくれて、
  • 書店からの返品リスクも、時間稼ぎをしてくれる存在。
これは問屋とか配送業者というよりは、「事実上の商工ローン」。

全体としては「行きはよいよい。帰りがこわい」*1。これは、市場拡大に向いている。ただし、飽和期に入ると効果が反転する。では「市場拡大」はどのへんか?

書籍流通の拡大期
  • 1910's〜1930's:工業化・都市化に伴う都市部の開拓
    • おしん」が川下り〜東京で美容師やるあたり。 ← 書店網は農村部までは伸びていない。
    • 雑誌/書籍の返本制・定価制が確立。流通も統合が進む。
    • 円本/文庫本による価格破壊。 ← 昭和一桁=岩波ネイティヴ:現代的な意味での「読者」の始祖鳥。
  • 1940's:国策による取次の統合 ← 流通の合理化。
  • 1950's:取次の分割民営化(ただし寡占)、独禁法の回避 ← 「逆コース」と「大正デモクラシー回帰」のハイブリッド。
  • 1960's所得倍増計画に伴う都市部の再開拓(まんが含む雑誌類の週間化、貸本屋の縮退、など
  • 1970's:列島改造計画に伴う農村部の開拓 ← 書店網が農村部まで伸びる(学研の最盛期など)。
  • 1980's:新ジャンルの開拓(マンガの一般化、アニメ雑誌の創刊ラッシュ、ゲーム攻略本のランク入り、など)
  • 1990's:ブックオフの誕生 ← 飽和開始

ものっそい乱暴に言うと、WW2の中だるみを除けば、「出版界」は、「80年間の右肩上がり」。おそらくは、「日本の工業化の歴史」と表裏一体。

飽和期には、同じシカケが衰退を加速する。


需要が6のところへ10押し込めば、4は供給過剰で野積みになる。市場原理主義では、これは値崩れを起こす。人為的にこれを回避するには、

  1. 4の需要を喚起する(一般論としては、準備期間が必要)。
  2. 価格調整で在庫を捌く(閉店間際のスーパー)。
  3. 生産調整で供給を裁く。(時に供給者の合併や淘汰を含む)。

そこでなんらかの無理をすれば、だれかが需給ギャップを埋めに出る。

「藩札の濫発」について
  • 出版不況最大の元凶は「刷れば都」の可能性が高い。
  • 需要が6のところへ10押し込めば、供給過剰でデフレが起きる
  • 「行きはよいよい。帰りがこわい」の中では、本は本であって本でない。「私造紙幣」や「藩札」というべきもの。
  • 「藩札の濫発」を、「出版不況」や「若者の活字離れ」と呼ぶのは「モラルハザード」。
  • モラル無きプレイヤーは持続しないのが、市場のルール。

*1:ややポジティブに言えば「出版社と書店の為の再チャレンジ制度が充実」している