書籍流通のブックオフ化
以下、2010年5月21日付紙面より抜粋。
書店の動向
背景
1)中古書籍の収益性:
- 新刊を主に扱う書店各社の粗利益率は20%強にとどまるが、ブックオフは56.4%(連結ベース、10年3月期)。
- 中古書籍は新刊時点の価格の1割で買い取り、5割で販売することが多い。
- 新刊は売れ残っても無償で出版社に返品できるが、中古は在庫リスクを自社で持つため、粗利益率が高くなる。
- ※1.と2.は、2000頃、プレステ1の定価制が崩れた時期と類似の状況と思われる。
- ※3.は、「出版社の過剰生産リスク≒書店の在庫リスク」を出版社・取次・書店が三位一体で負担するシカケ。いわば「売れ残リスクのモチアイ構造」を示唆する。
かんそう
日本の書籍流通は、三位一体。「刷ればみやこ」「取ればみやこ」「二都を支える商工ローン」でできている。
刷ればみやこ。
刷ればひとまずカネになる。 取次が、刷れば刷っただけ現金化してくれるから(最近はそうでもない)。他の商売なら作ったもんは責任持って売らねばならないが、「返本制」はその責任を「繰り延べ」できる。そのスキに「次の本」を出せる。ひらたく云うと『すぐ現金になるんだからガンガンつくっちゃえ!』 現実にはイロイロあるが、こんな商売ほかにない。 |
取ればみやこ。
取っても後から返品できる。 取次が、売れ残りを買い取ってくれるから(期限アリ)。 他の商売なら仕入れたもんは責任持って売らねばならないが、「返本制」はその責任を軽減できる。そのゆとりで品揃えを充実できる。ひらたく云うと『どうせ返品できるんだからガンガン仕入れちゃえ!』 現実にはイロイロあるが、こんな商売ほかにない。 |
二都を支える商工ローン。
大手二社でシェア70%。この体力で、「売れのこリスク」の防波堤になる。出版社から見た取次ぎは、
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全体としては「行きはよいよい。帰りがこわい」*1。これは、市場拡大に向いている。ただし、飽和期に入ると効果が反転する。では「市場拡大」はどのへんか?
書籍流通の拡大期
- 1910's〜1930's:工業化・都市化に伴う都市部の開拓
- 1940's:国策による取次の統合 ← 流通の合理化。
- 1950's:取次の分割民営化(ただし寡占)、独禁法の回避 ← 「逆コース」と「大正デモクラシー回帰」のハイブリッド。
- 1960's:所得倍増計画に伴う都市部の再開拓(まんが含む雑誌類の週間化、貸本屋の縮退、など)
- 1970's:列島改造計画に伴う農村部の開拓 ← 書店網が農村部まで伸びる(学研の最盛期など)。
- 1980's:新ジャンルの開拓(マンガの一般化、アニメ雑誌の創刊ラッシュ、ゲーム攻略本のランク入り、など)
- 1990's:ブックオフの誕生 ← 飽和開始
ものっそい乱暴に言うと、WW2の中だるみを除けば、「出版界」は、「80年間の右肩上がり」。おそらくは、「日本の工業化の歴史」と表裏一体。
飽和期には、同じシカケが衰退を加速する。
需要が6のところへ10押し込めば、4は供給過剰で野積みになる。市場原理主義では、これは値崩れを起こす。人為的にこれを回避するには、
- 4の需要を喚起する(一般論としては、準備期間が必要)。
- 価格調整で在庫を捌く(閉店間際のスーパー)。
- 生産調整で供給を裁く。(時に供給者の合併や淘汰を含む)。
そこでなんらかの無理をすれば、だれかが需給ギャップを埋めに出る。
「藩札の濫発」について
- 出版不況最大の元凶は「刷れば都」の可能性が高い。
- 需要が6のところへ10押し込めば、供給過剰でデフレが起きる。
- 「行きはよいよい。帰りがこわい」の中では、本は本であって本でない。「私造紙幣」や「藩札」というべきもの。
- 「藩札の濫発」を、「出版不況」や「若者の活字離れ」と呼ぶのは「モラルハザード」。
- モラル無きプレイヤーは持続しないのが、市場のルール。
参考:
- 2009年12月19日:驚異的な復活を果たした米投資銀行! そこから垣間見える日米経済の絶望的な差|野口悠紀雄さん
- 2009年12月26日:危機の本質は「スーパーシニア・リスク」 その対処で金融機関の明暗は分かれた!|野口悠紀雄さん
*1:ややポジティブに言えば「出版社と書店の為の再チャレンジ制度が充実」している