岩波ネイティブ:「読者」の始祖鳥。

本の虫の母、85歳、iPadで読書を始めたら、やめられない止まらない。手放す気配なし。

iPadを手放さない母85歳。「こういうの見ると生きててよかったなと思う」と何度も繰り返している。

85歳母、iPad青空文庫を次々と読む。著作権切れの作品群、彼女にとっては青春の書。「あっこれ知ってる」と言いつつ、喜々として本棚から本を取り出す。

iPadで読書する85歳母、何分かおきに「パパちゃんかわいそう、こんな素敵なもの見ないで死んじゃって」繰り返す。

iPadを手で持って読書するのは85 歳母には無理。Apple純正のケースで、机上にちょっと傾けて置くと、照明の映り込みがなく体も楽な様だ。

85歳母は i文庫HD を使用中。時々意図せぬポップアップ メニューが出て、混乱する場面も。設定で機能制限できるのかな。

帰宅したらやってみます。“@t_satoko: i文庫HDの設定で表示をオン/オフにできたり、機能制限できますよ。RT @hayano: 85歳母は i文庫HD を使用中。時々意図せぬポップアップ メニューが出て、混乱する場面も。設定で機能制限できるのかな。”

2010の85歳がお生まれになったのは、1925(T14)。翌年、1歳で円本ブームが起き、次いで2歳で岩波文庫が発刊している。

円本は、1926〜1930頃に流行った出版形態。一冊一円、月イチ配本、完全予約、古今東西文学全集、オマケで本棚一本お付けします!とかそゆ感じ。最初は関東大震災で滅亡の淵に立った出版社が運転資金目当てに始めた大博打だが、見事に当たって大流行した。当時の1円は大学出の初任給の約2%と言うが、それ以前の本は円本の一冊より薄く、それで三円五円はしたようなので十分に「廉売」と言えた(腰だめで17万とすると、1万〜1万7千円のものが3400円におちてきた感じ。)。さらにほどなく事実上のバラ売りも始まった結果、「それまでの出版界」を価格破壊の大波が襲った。巷には粗製濫造本が溢れ、剽窃・盗用・内容批判やオカネや著作権を巡るトラブルも頻発する。

心ある人は嘆いた事だろう。一円本は文化を殺す。アレは、莫迦と暇人のものだ!

岩波文庫(1927〜)はこのブームの中で良書の廉価大量生産を目指して発刊する。もともと評判の良い会社だったようだが、それでも著作権訴訟を抱えている。

その一方では。大勢の文士が印税収入で「円本成金」となり、また大勢の日本人が、内外の文芸・芸術・文物に親しむ「生活習慣病(aka.本の虫)」に感染していった。

真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。かつては民を愚味ならしめるために學芸が最も狭き堂宇に閉鎖されたことがあった。今や知識と美とを特権階級の独占より奪い返すことはつねに進取的なる民衆の切実なる要求である。


青空文庫読書子に寄す ——岩波文庫発刊に際して——
1927(昭和02)年07月。岩波茂雄(46歳)

『彼女』の幼年期はその渦中にあたる。『彼女』の青春は近代出版の青春に重なる。つまり2010の85歳は「岩波ネイティブ」。おそらくは、現代的な意味での「読者」の始祖鳥だ

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つけたし

こうしたご老人が増えれば増えるほど、「著作権延長」は困難になってゆく。ガンダムにせよエヴァにせよ、「青春の書」は生涯搾れるオイシイネタだが、85歳の『彼女』から青空文庫を取り上げるなら、著作利権は、これまでとは質の異なる反撥に直面する事になるだろう。
個人的には「宇宙特別擁護老人コロニー・ゲルドルバ」とかできたら大喜びで申し込むと思うけど。最後は「ソーラレイ葬」でおねがいしますw。