蛇口屋さんは水質を保証しない。その責任は水道局が負う。

iPhoneiPadアプリを販売するiTunesの「App Store」で、村上春樹さんの小説「1Q84」(新潮社)の海賊版とみられるファイルが販売されている。日本語のアプリだが、販売元は中国の業者とみられ、知らずに購入したユーザーがレビューで3「こんなものにお金を払ったのが腹立たしい」などと憤っている。

横書きのみだったり、異常終了したり、ヤケに高かったりするようだ。

アップルジャパンの広報担当者は、取材に対し著作権者から著作権侵害の申告があれば、迅速・適切に対応する」とコメントしている。

この対応は、法律上は全く問題ない。著作権侵害親告罪だからだ。ただし日本市場での好感度は下がる。「オペレーションがローカライズ不足」だからだ。

オプトアウト(文句があるなら言ってこい)は、「権利の上に眠る者はこれを保護せず」とほぼ同義というか、近代法体系の基本理念ではあるし、またイノベーション*1の源でもあるのだけれど、それらは「居心地が良い」とは別レイヤーの話だ。個人の自由を愛し「隣はナニをする人ぞ」の傾向が深い米人でさえ、自国を『バカな弁護士ランド』と言う事がある。在日感性*2閾値はさらに高い。

サクヒンビジネスに於いては、ソコが死命を決する。「創り手の心地よさ」と「受け手の心地よさ」。両者のバランスを調停し、双方の楽しみを妨げないよう「雑音」から遠ざけ、互いの交流が巧くゆくよう心を配り、不埒者を簀巻きにして川に沈めるのは「興行師の腕前」だ。この腕前が文化圏を超えて通用する事はあまり無い。さじ加減が異なるからだ。そもそも自分が表舞台に立ちたがる者には難しい。法の予定しないところで泳がなならんからだ。

善し悪しは別として、所詮iOSは「米人の、米人による、米人のための」サービスだ。大味なんだよ。アメ車みてぇに。蕎麦喰ってベンツ乗ったくれぇでTボーンステーキの堅さとクアーズの水っぽさが抜けるもんかい。やや正確に言うと;「所詮Appleは蛇口をばらまく土管屋に過ぎず、水質を保証する水道局ではないのだね」という事になる。

仮に対抗するとして。案は三つの方角に収束すると思う。

1)流通を常時監視する"出版社"を通す:つまりStoreは「流通」だ。国内書籍流通では、この流通監視は「取次会社」が行っている。例えば第三書館が出版した『「流出『公安テロ情報』全データ」』は、取次大手が個人情報がそのまま載っている事を問題視して配本を拒否している(出典)。もともとの出自が40年体制下の検閲装置という側面もあるかも知れない。電子書籍においても「流通を常時監視し、著作権侵害をサーチ・アンド・デストろぉおおい!」するサービスが成立し得ると思う。但しコレ既存出版社が実書籍もパックで手がけると、Apple3割,「版元」6割,著者のとりぶん1割ぽっきりとか、そういう面白みの薄い話になりがちだ。

2)任天堂式一元管理:つまり「プラットフォームホルダーが全てのサクヒンに"任天堂チェック"を掛け、問題あるものは発売じたいを許可しない」だ。シャープ藩のGALAPAGOSソニー藩のSony Readerがここを目指しているように思えるが、提携関係がぐちょぐちょで「悪霊退散責任」がどこにあるのかよくわからない。「水質管理」は一カ所で集中的に行えるので、トータルのコストパフォーマンス(これは売値に反映される)は最も良いだろう。「安心の代償」として「自由なカンジ」はゼロになるけど大丈夫だ。問題ない。iOSにもそれはない。「安心度」で差をつけるなら「任天堂式水道局」だ。

3)返金制で焼畑農業を淘汰Android Marketは「24時間以内なら返金可能」。これにより頭書下線3番『こんなものにお金を払った』腹立たしさは癒される。だけでなく。「不埒な版元」は、持ち逃げするほどの売上げが立たない。賢い。google藩かしこい。オプトアウト侮れねぇ(追記:返品期限は、10Q4中に15分以内に短縮される見込み(gapsis.jp)。ゲームやまんがや読物系の商売は、より立ちやすくなるだろう)。

個人的に最大の期待を寄せているのは「プレステロイド」。2)と3)の並立を狙って欲しいところです。

*1:「革新」ないしは「刷新」であり「技術革新」ではない。それはさる経済官僚の「誘導の意図を持った誤訳」だ。(後藤譽之助 - Wikipedia

*2:先代から在日なら日本籍だろうが便宜上の朝鮮籍だろうが韓国籍だろうが、感性には大差ないだろう、というほどの意味