その手術は苦痛なしにはすまされない。

2011年08月03日

  • 1955年にはアメリカにテレビジョンを作っている企業が二十七社もあった。しかし1985年には一社だけになってしまった。
  • 最もドラマティックだったのは半導体である。メモリーについては1975年から85年の十年の間にアメリカの世界シェアは100%から18%に急落し、ほぼ同じ時期に日本のシェアは3%から80%に急増している。

ものつくり敗戦―「匠の呪縛」が日本を衰退させる (日経プレミアシリーズ)』P173~174

もしも日本が「自由貿易」を堅持するなら、このことは必ず起きる。それで豊かになれる人々が、億の単位で存在するからだ。

震災やでんき不足や円高の如きは、大した要素ではない。部品輸出は堅調といっても、中韓の部品内製率は上がってゆく。その方がローコストにできるからだ。それはより高い付加価値を得る為ではない。よりコスパの高い商材で、競合から市場占有率を奪う為だ。

冷戦終結の時点で、競争のルールが変わりはじめていたのだ。飽和していた市場に「未開拓のフロンティア」があらわれたからだ(参考)。世界シェアを獲ったものだけが生き残る。製造業の本分は「水道の哲学」である。その要諦は「製品より工場を愛す・工場より流通を愛す」である。R&Dは、この川上から川下まで(aka.サプライチェーン)の生産性を上げるためにある。商材の性能は「市場にとって充分」ならソレで良い。

もはや「冷戦景気の時代」ではない。我々は20年も前から、異なった事態に当面している。高付加価値を通じての成長は終わった。今後の成長は近代化によって支えられる。

新しきものの摂取は常に抵抗を伴う。経済社会の遅れた部面は、一時的には近代化によってかえってその矛盾が激成されるごとくに感ずるかもしれない。しかし長期的には製造、労働、農業などの各部面が抱く諸矛盾は経済の発展によってのみ吸収される。近代化が国民経済の進むべき唯一の方向とするならば、その遂行に伴う負担は国民相互にその力に応じて分け合わねばならない。

近代化−−トランスフォーメーション−−とは、自らを改造する過程である。その手術は苦痛なしにはすまされない。