ロ.チャンネルビッグバンとタイムシフト革命
〜あるいは日米ソレゾレの生活習慣病について。
ロの1)欧米では。テレビというのは数十〜数百チャンネルあるのが「ふつう」なようです。
- 80年代:CATV(数十ch) :局→衛星→局→Cable→家
- 90年代:DirecTV(数100ch):局→衛星→家
特に米国では、かなり昔からのようで、今世紀初頭には数十chのCATVを契約している世帯が約60%、数100chに達する衛星放送の契約世帯が30%程度。無料の地上波しか見てないのは、結構びんぼーか、3大ネットワーク時代のご老人、くらいのものなのだそうです。余談ながら、DirecTVというネーミングは、既にCATVを契約してたりで「おウチのシカケがアタマにあると」「オタクのハートをがっちりホールド」なんでねぇかと思います。
昨今の「フジ韓流プッシュし杉騒動」で、欧米を中心に「イヤなら見なきゃイイヂャナイ!」というご意見がありますが、ESPNやMTV、ディスカバリー・チャンネルやヒストリー・チャンネルといったものを有料契約して見るのが「ふつう」な人たちには、他を圧倒する世兄様の存在感は、ちょっと想像がつかない事かも知れません。
もちろん民族差別ちっくな言動は私としても不愉快きわまりないのですが、1)日本人のテレビ視聴時間は、OECD調査ではトップクラスであること。2)在京キー局5系統+NHK=最大6系統の選択肢の中で暮らしているのが「ふつう」であること。などを考えると、その中の一つが「ヤリスギ」た時の影響は、いささか重いものがあるでしょう。どうかすると「ブリオッシュなんざ見た事もねーよアントワネットさんよぉッ!!」てな調子で火にママレモンを注ぐ事にもなりかねません(なぜかよく燃える)。
根本的には、我々には「良い番組は、カネを払って見るもんだ」という生活習慣がありません。「テレビは無料があたりまえ」という、長年の生活習慣病が染み付いているのが問題だと思います。さらには、「デンパキチ」も「政官財業報のピラミッド」も、「数100chに視聴者が分散すると面倒」という利害を持っているのが問題だと思います。
ロの2)日米の「中流社会化」
映像産業の王様は、日本ではテレビですが、米国ではハリウッドです。
思うに。この違いは、日米それぞれが「中流社会になった時期の記憶」と重なっているのかもしれません。日米とも映画が人口に膾炙したのは1920年代、テレビの方も50年代と揃っていますが、日米では「中流社会の成立時期」に違いがあります。
フォードのような工業化・流れ作業は大量の工場雇用を産み、同時に農業人口を吸収することで機械化を促し、農業の生産性も向上させます。これにより、GDPが爆発的に伸びるだけでなく、国民一人あたりの可処分所得もズガドカンと炸裂する「中流社会」というものが生まれます。
米国でコレが起きたのは、概ね1910〜20年代にかけてです。世界初の「中流化」なのであまり明確ではないのですが、この時期は映画が見世物小屋の出し物(ニッケル・オデオン=5セント劇場のエログロナンセンス)から近代的な映画(概ね1時間以上でストーリー性を備えたもの)に進化を遂げた時期でもあります。中流になった人々は、本物のオデオン(劇場)へ本物のオペラを見に行くよりは、慣れ親しんだ映画に「自分たちに相応しい娯楽」になるよう求めたのかもしれません。
今日でも、映画とテレビの間には、流通でも制作でも押しも押されぬ厳然としたヒエラルキーがあります。映画館は「ジャスコあるところシネコンあり」てなイキオイですし、米人の年間映画にゆく回数は隔週かよ!てなほどに多く、料金もまたお安い。どうも米人の中には「良い映像は、カネを払ってみるもんだ」という生活習慣病が在るように思います。
日本が「中流社会」になり始めたのは60年代でしょう。そのへんの本屋に佃煮にするほど転がってる「写真で振り返る昭和」的なものを見ると、皇太子ご成婚や、東京五輪、大阪万博など、高度成長の華やかさを人々に感じさせたのは、なんといってもテレビだったようです。カー・クーラー・カラーテレビが新・三種の神器と呼ばれたように、テレビは「中流階級になったしあわせを噛み締める道具」でもあったのだと思います。
今日でも、日本人のテレビ視聴時間は、OECD調査ではトップクラスですし、「きのう見た番組」というのは「こないだ見た映画」よりポピュラーな話題のひとつです。どうも我々の中には「良い番組は、無料で見れて当たり前」という生活習慣病が在るように思います。
- 米人は「良い映像は、カネを払ってみるもんだ」
- 我々は「良い番組は、無料で見れて当たり前」
手許では。ながらく「日本のアニメがこの先きのこるには米式に変化しなければ」と考えて来たのですが、どうもこうした記憶〜集団的な記憶というべきでしょうか〜は、「中流のライフスタイル」として長く残るものなんじゃないかと考えるようになりました。古人いわく。『わかっちゃいるけどやめられない♪』てなもんで。
趣味的には。平均的なアニメーターさんより平均的なテレビ局員さんの方が給料が高い。というのがどうもアンフェアな事に思えるので、手許では「生活習慣病」言い張りますけども。