GIGAZINさんの電旬試さんインタビューを読んだ

GIGAZINさんの電旬試さんインタビューを読んだ

基本認識
  1. マンガ誌の売上げが落ちている。付随して単行本売上げも落ちている。
  2. ゆえに、出版社は売上げの落ち込みをカバーしたい。手段は二通り。
    1. マンガ誌の部数回復
      1. 広告収益の拡大 ←部数が落ちてりゃコレも減る。
      2. 売上げ金額の拡大 ←部数が落ちてりゃコレも減る。
        • 古書店訴訟。←原則二条には反する。
    2. 二次利用収益の拡大
      • アニメ化、ゲーム化、キャラグッズ、新人アイドルタイアップ。

 「ひどい編集者」は「表に出て来た現象」であり、「原因(コイツが悪い)」と看做すと個人攻撃や精神論(ガス抜き)で終わりがちだ。こうなると実効性ある打開策が出てこない。逆に言えば、個々の編集者のモチベーションなど、シカケ次第でどうとでもなる(とでも思い込まないとアタマが回らない)。

 二次利用収益の重みが高まるなら、漫画家は「世界観とキャラ」だけで、後は人気の続く間描いてくれりゃいい、というバイアスが強まる。ゆえに「マ者(マンガ家)」を「仲間」として大切にする動機は、かつてより薄くなるし、マ者の作品を読む必要も、かつてなく薄くなる、、、「ガッシュ訴訟」のコアはそういう事ではないか。

 これはマチガイだ。「ファースト・ウィンドウ」がパワーダウンすれば、二次利用もへったくれもない。マンガ屋の視界の中心は、常にマンガでなければならない。仮に、「コンテンツ」は、ホントはどっか別世界にあるものだとする。マンガやアニメやゲームは、そこを覗くマドに過ぎないとする。「マ者」と「パートナー(担当編集者)」は、そのマドを開くべくチカラを合わせる仲間だとする。このチームは「マンガというマドを開く技」しか持って無い。第二第三のマドは、第一のマドを手本に開かれる*1。このチームは第一のマドをより素晴らしいものにするべく、全力を傾けねばならない(それが第二第三のマドをも拡げる)。もちろんアニメ屋もゲーム屋も、自らが「第一のマド」を開くべく、全力を傾けている。だから、口が裂けてもコンテンツってゆうな

 現状に於いて『第一の術』は、日刊化、薄型化、無料化(誌の広告依存度を上げ、単の宣伝と割り切る)、などではないか?「既存誌の部数回復」ではない。「客をマンガ漬けにする機能」が回復すればそれで良い。まずそこを志向し、試行錯誤するべきではないか?
 それらが成功すれば、「社員編集者」にかかる「利益拡大バイアス」は「二次利用」から「作品の質的向上/第一の読者」へ、振れ戻るのではないか?

 というのが現時点での考え。なので、、、

  1. 「エージェント」は実は「2の2がもたらす悪影響の対症療法」ではないか?
  2. この諸症状の緩和は、「2の1の構造改革」により果たし得るのではないか?。
  3. もしも「2の1の構造改革」に対する「抵抗バイアス」があるとすれば、それはどのようなものか?

 といったあたりがくっきりすっと、ちと視界がひらがるような希ガス。とりわけ3番。

GIGAZINさんのインタビューで知った要素

雷句:
サンデー編集部には連載している漫画家さんと同じ数の編集部員がいると思うんですよ。それならなぜ一人の編集さんに複数の漫画家さんを担当させるのかというと、使えない編集者がいるんです。まったく担当を持っていない編集者が本当に、ごろごろいるんです。「なぜ担当を持たない編集さんがいるんですか?」と聞いたら「いや、あいつは平気で大御所とかに無礼な態度を取るから、任せられないんだよ」と。
G:
役に立たないのであれば普通、クビになると思うのですが…。
雷句:
ですよね…なぜなのかな…何か理由があるんでしょうね。

カンチガイ
 『平気で大御所とかに無礼』なのは「マンガ単体の利益などたかが知れている。二次利用ワンソース・マルチユースでウハウハ。その主役は俺たち!」だから。そういう教育しちゃってんでないですか社内的に。マンガ家など下請け納品業者に過ぎない。みたいな。「そうは言ってもまたサンデーに戻ってらっしゃる先生もありますしねぇ」みたいな。
 少なくとも「読者」からみれば、これはカンチガイ。「売上げ数字的にはそれが正しい」と言うのであれば「収益構造が間違っている」。理由:価値の源に敬意を示さぬ商ないは、立たない。

手厚い終身雇用制
 「実力本位世界(漫画家とか)」では「クビ」は1対1のやりとりで済むのが「普通」だが、大手出版社ではムキダシのオカネ争奪バトル(生きさせろ!)になる。「労組VS.経営陣」のカタチで組織戦争になる。労働ナントカ法の類いも大量に絡む。近年の経営難による希望退職でも、再就職斡旋サービスの料金を全額持ってくれないのは「酷い会社」。使い込みなど、ガチンコの個人犯罪でもない限りクビは難しいのが「普通」。
 この「普通」は1950〜1960頃に完成し「労使関係の安定」を生み「高度経済成長」を支えた。このシカケは、右肩上がりである限り、労使も個々の従業員もOBまでも一致団結して「モーレツ社員」と化し、絶大な威力を発揮する(一致協力した日本人ほど恐ろしいもんは無い)。
 だがしかし、このシカケは売れ行き減殺、かつ、打開策が見えない状況に直面すると「*役に立たない者*を*選別*し*コストカットする*」事が極めてやりにくい(前段のシカケが全てマイナスに働く)。かつ、永く転職者を脱藩者扱いしてきた結果、転職市場もキャリアアップのメンタリティも、未成熟。目先の弥縫策として「役に立たない者」の食い扶持を「外部の下請け」や「末端」の負担で賄う事が多い。
 つまり、マ界は「バブル崩壊」や失われた10年」の入り口を迎えたところではないか。*2
 一足先にこれに直面した様々な業界では、成果主義の導入、下請けとの独占関係の解消、一巡して家族主義経営の再評価など、様々な試みが成されている。同時にワーキングプア、看做し管理職、くすぶるホワイトカラーエグザンプションなどのテーマも発生している。

 おそらく、高度経済成長期のような、汎用的な解決策は無い。マ界はマ界で、オリジナルの打開策を編み出す必要があると思う。

雷句:
あと、初代の担当の方があまりにも口が悪い方だったので一回、当時の編集長に相談したことがあったんですよ。そうしたら「いや、あいつがどれだけ働いていると思っている。本当に今の編集部は働かないんだよ。あいつがどれだけ役に立っていると思っているんだ。あいつはがんばっているから、なんとかやってくれ」と言われました。
(*中略*)
雷句:
上の方の人も本当に困ってましたね。言うことを聞かない、と。こういうことを言うと「いや、そんなことはない」と言われるかもしれないんですが、当時の編集長の叫びは身に染みましたね…本当に。

 「本当に今の編集部は働かない」といいつつクビにできないのが家族主義経営の基幹。そこで働かないヤツの事など知るかと言えず「当時の編集長の叫びが身に染みちゃう」メンタリティも、家族主義経営の基幹。♪ナッニワぶしぶしかっつお〜ぶし〜。

  • 「欧米流のエージェント制」の阻害要因。
    • 「あいつがどれだけ働いていると思っている。」と言わせるほどの編集者が、独立エージェントを志向しない。恩義があるから。
    • 編集長も「本当に今の編集部は働かない」と「身に染みる叫び」で引き止める。
    • 振り切って独立エージェントを開業しても「任せられない編集者」が、団結して妨害する。
    • 出版社あがりの独立エージェントも、能力十分ではない。例えば二次利用に関する著作権マネージメントは「電話一本社内リソース」のはずだから。←独立エージェントより圧倒的に安価で実績もある。

 既に小学館社内では「構造改革プロジェクトチーム」みたいのが発足してると思うんだけども。一般的にうまくいっても、カタチに出るのは数年先になる。とりあえず、1年以内に希望退職のニュースが出たら、無策では無い証拠だと思う。なにをするにも脂肪は落とさな。

 ところで担当を持たない編集部員てナニやってんだろ。持ち込み対応?、、、ちょっと怖いなソレ*3
***
 33巻買った。騒ぎの渦中でいろいろな思いを抱えた人もあったろうが、ちゃんと出した小学館えらい。
 なお、ケータイマンガには感心しない。だってコルルちゃんのアップが、アップにならないぢゃないか*4

*1:それぞれを得意とするチームの構成は、マ界よりややこしい

*2:「もともと商品単価が安い」や「ほとんど必需品なみの定着度」などから、波及が遅れたと思われる。ケータイを軽視する積もりはないが、アレだけ視てると他に目がいかなくなる

*3:つつくとスゴい不祥事が出てきそうだ

*4:見開き・コマ割り・マハクによる演出が効かない。この点は、量産型MacBookAir(カンに過ぎないが、iPhoneの外部モニタ/外部ストレージとしてNetBook/Kindleキラーを志向すると思う。画面サイズそのまま。薄さそのまま)の類いが解決するかも知れない