たぶん「著作権団体」は体の良いタマヨケに使われているだけだ。

 現行の著作権法がひどく煩瑣*1で、手直しが必要な事は疑わないが、この話にはちと疑問がある。
 以下全文。

 2008年7月16日
  
(1)インターネットでテレビ番組などの著作物を流通しやすくするため、自民党知的財産戦略調査会(会長・松田岩夫参院議員)は16日、法的措置をとる方針を打ち出した。個々の俳優や歌手らが持つ著作権を制限し、一つに集約する新制度を検討している。著作権団体は反発しており、曲折も予想される。
 
(2)今の著作権法は、番組など作品をネット配信する際、著作権者から事前に許諾を得ることを求めている。例えば、テレビ番組の場合、個々の俳優やBGMの歌手など多数の著作権者の許諾が必要だ。
 
(3)同調査会が目指すのは、こうした権利処理の「煩雑さ」を解消し、ネットでの作品の流通量を増やすこと。流通量の増加で、作品を楽しむ人が増え、俳優ら著作権者の利益も増えると想定している。
 
(4)具体的には、ネットでの作品流通に限って、個々の俳優ら著作権者が持つ流通を拒める権利を制限し、放送局などの事業者に権利を集約。ネットでの作品配信をめざす配信業者の側は事業者を相手に交渉し、まとめて著作権料を支払えばよいことになる。
 
(5)著作権を法的に制限せずに配信業者が個々の著作権者と契約することで解決する方法もあるが、同調査会は16日の小委員会でまとめた中間整理の中で「契約による対応を待つだけでは時機を失することになりかねない。法的枠組みの構築が必要」と明記した。
 
(6)新制度が実現すれば、俳優ら著作権者は、過去の失敗作や無名時代に出演したポルノなど不本意な作品のネット配信を止められなくなる恐れがある。また、ネット上での作品流通の市場が成熟していない中で作品が買いたたかれることも、俳優らでつくる実演家著作隣接権センターなど著作権者側は心配している。(赤田康和)

 一見消費者としては良い事のように見えるが(6)番のような事態を、法的措置で甘受せざるを得ない、というのはあまりに不当であるように思える。こうした法的保護の元で、マスコミが一般人にカメラを向ける可能性もなしとしない。

デンパキチについて

デンパキチ:デンパク、キーキョク、チホウキョク。三つまとめてデンパキチ。

  • デンパク:大手広告代理店。キーキョクの番組枠販売窓口は彼らの寡占で、既得権益電通試算による2007のTV広告費は約2兆で、このオカネがないとテレビ放送は「空気がなくてしんぢゃう」。
  • キーキョク:デンパクの広告費を元手に番組を「製作*2」。資金量の豊富さから、国内で制作*3される映像のほとんどの「製作者*4」。「製作」のもっとも重要な役目は、各出演者等のわけまえ配分したがって、原則論を言えば、『インターネットでテレビ番組などの著作物を流通しやすくするために番組の著作権を取りまとめる責任』すなわち『ファミリーに充分な分け前を配る義務』は「テレビ局」にあるように思うのだが、キーキョクは案外原資に乏しい。「全国ネット」を通じて番組を配信すると同時に、CMの放送料もかなり分配してしまうからだ。
  • チホウキョク:テレビ局の放送免許を都道府県内に限る「一県一波制度」により、日本には首都圏広域免許を持つ在京キー局を除き、全都道府県に地方局がある。これは当時(50年代)の技術的限界というわけではなく「メディアの集中イクナイ*5」という理屈で決まったものだが、現実的な背景には、NHKに先駆けて一社で全国放送を開始しようとしていた日テレに対する牽制や*6、当時の郵政大臣*7田中角栄が、電波免許の許認可権限を派閥形成の一助に使ったなどの事情もあるようだ。

 結果的に、民法連の圧倒的多数は、大概が経営陣に「地元のセンセイ」が居る「地方局」が占めている。彼らは、CATV/衛星放送/ネットTVなどの技術革新が波及してくる度に抵抗勢力となっている*8

 十中八九「地デジ問題」の肝は、ここだ。「著作利権」は体の良い弾除けに使われているだけだ。

結論

(1)頭書記事の『自民党知的財産戦略調査会(会長・松田岩夫参院議員)が打ち出した、個々の俳優や歌手らが持つ著作権を制限し、一つに集約する法的措置をとる方針』は、
(2)2008年4月1日に改正・施行された「認定放送持株会社」の「規制緩和」、および、
(3)080716に総務省が固めた『新規に』BSデジタル放送に参入する業者に対し「広告放送」の総量を規制する方針とともに、
(4)衰弱しつつあるキーキョク資本の減衰を押しとどめ、チホウキョクに流れ込む「デンパキチ用水」を守る方向に作用する可能性がある。

 おそらく、「一県一波制」というシカケは、「言論の自由」や「参入機会の平等」よりは、「高度経済成長が生んだ格差の是正」に役立ったのだと思う。道路にしても郵政にしても、田中角栄さんってそれに生涯捧げたようなもんだから。ある意味「地デジ問題」は「小泉改革の積み残し」かもしんない。

関連

*1:これ自体は日本人好みの「カイゼン」かもしんない

*2:番組の著作権を保持する事

*3:実際に手を動かしてつくること

*4:制作者に直に著作権が渡らないのは一見奇異に見えるが、世の中そんなもん。

*5:メディア集中排除原則

*6:マスメディアが世論形成に絶大な威力を持つ事を当時の日本人は良く知っており(というか太政官が新聞・雑誌類を許可制にしたのが明治元年だったり、文部省が活動写真推薦制度を始めたのが大正10年だったりする。ありていに言ってこの辺はすげぇセンス良いと思う)、北米からの輸入機材で日本初のテレビ放送を目指した日テレを「売国テレビ」と呼ぶ向きもあったようだ。参考URI1参考URI2。地デジ絡みでも「マスゴミたたき」や「著作利権たたき」は様々な方向に逆用できるのかもしんない。

*7:当時の電波行政の主務官庁、現在は総務省に統合

*8:なお「みなさまのNHK」もほぼ全都道府県所在地に「NHK放送会館」を設けて、地元に雇用を生み、オカネを落としている。