ちょいとお待ちよクルマ屋さん。

酒の肴に茶々を入れるも無粋だが。

 若者が自動車に興味を持たなくなったという。新車販売は90年をピークに下落基調が続く。オジサン記者の私が若者だった約20年前は「デートカー」というカテゴリーが人気だった。日産シルビア、ホンダプレリュード。トヨタカローラレビンは車両型式から「ハチロク」と呼ばれた。カッコよい愛車に大切な彼女を乗せるため、仕事だって頑張った。私は若者が草食化し、車に関心を持たなくなったことも、少子化の一因だと思っている。
 デートカーの思い出を酒の肴(さかな)にしていると、1トヨタ自動車の幹部は「家庭用ゲーム機がいけない。あんなリアルな遊びがあったら、車なんか要らなくなっちゃう」と嘆いた。ある金融関係者は2「昔は卒業して就職すると、ローンを組んで車が買えた。今は派遣が多いからローンも組めない」と正論を吐く。なるほど。3でも私は車にも責任があると思う。若者の心をつかむ魅力的な車が少なくなった。そこでトヨタはスバルとのコラボでハチロク再来のスポーツカーを開発。ホンダはハイブリッドスポーツカーを来年発売する。次世代を提案する24日開幕の東京モーターショーが楽しみだ。【川口雅浩】
毎日新聞 2009年10月19日 大阪夕刊

  • 下線1については、笑ってしまった。仮令*1リラックスした席でも「幹部」は他人のせいにしてはならない。「下」が真似するからだ。その結果は「客離れ」となって表われる。
  • 下線2については、おそらくその通りだ。クルマ屋さん自身が「日給5ドル宣言」の逆をやってきた。
  • 下線3については、激しく同意したい。現在市場で起きている現象は、若者のクルマ離れではない。クルマ屋の若者離れ。だ。その打開策として「若者=スポーツカー」が適切か否かは、よく考えて欲しいと思う。黒沢明至上主義のおっさんのお陰であたしゃあのヒトの映画好きくないんで(関係ない)。

1)下線1の認識の背景には、09Q1に、日本自動車工業会(JAMA)が発表したレポートがあると思われる。

【要約】:クルマを買わない若者の傾向と対策

  • イ)クルマの『効用』が小さくなった。
    1. ゲーム・携帯電話・パソコンが普及し屋内で遊ぶことが多い→クルマの使用機会が減。
    2. 競争機会が少なく、自己表現せず、他人との差異化を気にしない→クルマの所有価値低下。
    3. 魅力的な製品・サービスが多くなった→クルマの相対的な魅力低下。
    • 【対策】:『効用』の高度化:利便性、情報化、自動化、環境性能、などの向上。
  • ロ)クルマの『負担』が大きくなった。
    1. 経済低迷期に育ったので価値観や行動が保守的。環境負担や事故などリスクを気にするようになった。
    2. 製品・サービスの増加で、クルマにかけられるお金が制約されるようになった。
    • 【対策】『負担』の減殺:自動車関連諸税の軽減、免許取得手続きの簡素化、交通インフラの高度化、など。

イ)は要約すると、こうした市場変化に適応したビジネスを企画しろ。という事だ。もちろんクルマ屋さんにはクルマで勝負して欲しいところだが、必ずしも「クルマの製造・販売」である必要はない。銭の華至上主義的には、手持ちリソースをカネに変換できればなんでも良い。クルマは、消費者にとっては「家」に次ぐ大きな買い物なので、クルマ屋さんは「消費者相手の製造業」の中では「金融ノウハウ」の蓄積が大きい業種だ。
いや、イロイロ手を出しているのを知らないではないが、ヤマハが「事業の柱」をぼこぼこモノにしてきたのと比べると、どうもハングル精神が不足に見える。いやハングリーか。

ロ)については、最も単純な要素が欠けている。価格破壊だ。グズグズしてると、タタ・ナノがネトブショックを起こしてから「あんなの"ビジネス"には使えない!」と、あたら未来ある銭をネガキャンに散らす事になる(ノーモア硫黄島!)。
また、特に大都市圏における社会資本の未整備という問題は存在するが、GMは、その伸張期において、全米各地の路線バスやローカル鉄道を買収して生殺しにする、という荒技を「自前で」やっている。この結果、幾多の自治体が「クルマ前提の都市再開発を余儀なくされる」こととなった。

これは末永くBIG3の命脈を保ち、また日本車の進出余地までも創出したが、日本では、地方では概ね官の力で成功したものの、大都市圏ではそうならなかった。東京で云うなら、首都拘束や駐車場貧乏はゴメンだ。
今後少子化により都会への人口集中*2が進んでゆくのが確実なら、その中でクルマで喰ってゆくには「外車通行禁止の私道を大都市圏に張り巡らせる」くらいの荒技が要る、、、というのは、自分で書いてて暴論だと思うけど、東京外環を、波及効果を受ける業界の受益者負担」で整備するのは、そう不合理でもないように思う。


『東京都都市整備局-東京外かく環状道路』より

てのもまだ暴論臭が漂うけど。この理屈は、タタや上海汽車、そして現代が日本市場を蚕食すればするほど、通りがよくなってゆくだろう。仮に彼らの上陸を阻止できたとしても、クルマ屋さんが国内雇用を減らしてゆくのなら「自動車販売税を道路整備に!」と云う議員さんの票は、増えてゆくと思われる。

2)下線2の背景には、以下の事柄があると思われる。


【出典】若者のクルマ離れ、その本質は「購買力」の欠如:NB Online(2009/01/14)より作成。

これは2頭書引用部下線2にも関連するのだけど、「そろそろ自動車を買ってもいいお年頃」は、「1年を通じて仕事があったひと(給与所得者)の比率」が落ちている(赤い折れ線)。『オジサン記者の私が若者だった約20年前』と比べると、概ね10ポイントダウンだ。草食とか肉食とか車に関心を持つとか持たないとか以前に、「車どころぢゃねぇよ」て人が1割増えている。ここに追加効果「少子化(緑の棒)」が乗る。さらに「1年を通じて仕事があったひと」でも「非・終身雇用の拡大」で実入りが減っており、「終身雇用」も「それでゆとりが増えたわけぢゃない」ならば、「買おうと思えば車買える若者数」は、「少子化の進行」を上回る速度で減っている事になる*3

話は飛ぶ。

此方の経歴で最も偉大なのは、ベルトコンベアでもT型フォードでもない。「日給5ドル宣言」だ。すなわち、破格の給料で工員を確保し、クルマと同時に「クルマの生産消費者も生産」してしまった事だ。そして、「クルマの生産消費者」こそは「カーマニア」の母である。「クルマ好きといふ病」を社会に感染す最初の砦だ。

まるっと一世紀も昔の話だが、「IT関係のひと」も「Web信者」ありがちだったりする。最強のメディアはひとだ。生業への情熱を語れるひとは強い感染力を持つ。良いお給金を得ていれば、なお良い。そうであれば人は寄って来る。誰だってそうありたいからだ。逆であれば人は散る。あたりまえだろう。誰だってそうはなりたくない。

消費社会が存在し、その中で自由競争が機能している限り、生産消費者を拡大できないビジネスは、新陳代謝の対象とならざるを得ない。

なお、貯蓄率が低く一般家庭でも株をやる確率の高い米国では「株価」も効く。おばあちゃんが孫の10歳の誕生日にどこぞの株券を贈るような習わしのある国*4では、あんまし雇用を増やさずとも、彼ら零細株主が、クチコミで「クルマを買えばしあわせになれる教」を布教してくれる*5。他方、貯蓄率が高く「メインバンクからの借入れ」が資金調達の使命を決する日本では、同じ事は期待し難い。布教は「雇用拡大一本槍」だ。

国内市場で「クルマ好き」を増やすには。「ウチのクルマすげぇぜ!」と語り、ドレスアップに給金注ぎ込む工員さんを増やす必要がある(少なくとも維持する必要がある)。種を蒔かなきゃ芽が出ないのは当たり前だ。天気や土のせいぢゃない。国産のタネモミを買うと破産するなら、メイフラワー号に乗るほかないだろう。

3)下線3について。

初報では、ぐぐっと豪華装備でお高くしてリアルタイマーを毟る「オヤジ狩り戦法」だな!と思っていた。こんなカンジ↓

最近のアメ車は1960〜70年代のデザインのリバイバルが見受けられる。現代の空力云々の合理的デザインではなく、往年の名車の初代のカタチ。写真のダッジ・チャレンジャーをはじめ、シボレー・カマロやフォード・マスタング等々。車種は少ないからまだ流行っているとは云えないが、間違いなく売れている。つまり支持されている。これから流行る兆しだ。
車好きには堪らないだろう。年寄りには昔、その車が格好良かった頃に『憧れたけど手に届かなかった』車が復活して感激だし、しかも今最近の若者達にもバカウケである。コレに乗って息子達に「父ちゃん格好いい!」と言われながら共に車イジリとか楽しいだろう。てか、俺も今現在、アメリカン・マッスルカーが候補の1つですらある。

クルマ名 経緯 メーカー希望小売価格
フォード・マスタング 概要【 carview 】 2006モデル。 \3,900,000〜\5,300,000
シボレー・カマロ(GM) 概要【 carview 】 2009復活 \4,300,000〜\5,350,000

残念ながらチャレンジャーのカタログが見当たらなかったが「輸入価格」という上乗せぶんはあるにせよ、もともとそんなに安く無い。特に先代マスタング(1993〜2005モデル)は国内でも200万円台前半という安さだっただけに、現行モデルの価格帯は、「うわ〜オヤジ狩りや〜!オッサンホイホイや〜!」と思ってあんまし目を向けないようにしていた。

開発開始当時副社長であったリー・アイアコッカの指導下で、第二次世界大戦以降に出生したいわゆる「ベビーブーマー」世代向けの中型車として開発が開始され、1964年4月17日から開催されたニューヨーク万国博覧会の初日に発表された初代マスタングは、そのスポーティーな外観や性能、低価格、「フルチョイスシステム」と呼ばれる多彩なオプション群と巧みな広告戦略などでアメリカ人の心を掴み、1960年代中盤の好景気も背景にT型フォード以来と言われる同社の大ヒットとなった。

ぶっちゃけ、こんなにかっちょいいクルマがこのお値段でという、「デートカーの始祖鳥」みたいなものだ。Wikipediaでは後年『トヨタセリカにも多大な影響を与えたと言われている』としている。
初代(1964〜)と現行(2006〜)のザデインは以下で見比べられる。

あんまクリソツ感がないが、実はシェルビーのコブラGT350/GT500(1967~)まんま。

えらい遠回りになってしまったが、トヨタのFT‐86Concept。

市販の際のメインターゲットは当然、往年のハチロクファンだが、その先のクルマにあまり興味のない層まで裾野を広げる意向で、価格が焦点になりそうだ。先代ハチロクの当時の価格は160万円前後。そこまで安くなるかは未定だが、「新・小型FRスポーツ車の価格は300万円はもちろん切り、250万円前後、さらにはそれ以下を目指したい」(多田哲哉BRスポーツ車両企画室長)。
企画発案は3年ほど前から始まり、豊田章男社長も開発に期待。試乗の際にはテストドライバーの経験から、クルマの乗り味について意見したという。
伝説の名車“ハチロク”復活でトヨタスポーツブランド再生なるか | inside Enterprise | ダイヤモンド・オンライン

ぶっちゃけ、半端やな。と思う。『往年のハチロクファン』なら300〜500くらいは軽く搾れるだろうし、昨今の若者を狙うなら『250万前後』はちと疑問だ。ステーションワゴン、ミニバン、クロスオーバーSUVなどなどの人気ジャンルの変遷を経て、ちょっとスゲェ使い勝手を獲得するに至った「コンパクトカー」の価格帯はこんなカンジだ。

先代ハチロク当時の若者は『カッコよい愛車に大切な彼女を乗せるため』「カローラ+数十万」でもいろいろ頑張ったかもしれないが、当世の若者は「かっこいいスポーツカー」に60〜130万上乗せしてくれるだろうか?「オフィシャルの痛車」ならあるいは、とゆう気もするが。

*1:たとえ

*2:ドーナツ化のハンタイはなんだろう。アンパン?

*3:クルマ屋さん各社とも、その実数は独自に推計しているハズだが社内でもおおっぴらにはできないだろう。

*4:なんか、これで「世の中のしくみ」を覚えて強く生きてゆくのよ的な、教育効果コミらしい。

*5:頑としてクライスラーに乗り続けるクライスラーの「端株主様」みたいのも、珍しく無い