韓国の地デジ政策が「テレビ番組の質的向上」を生んでいる件について

以下、要約と抜粋。

イ)韓国のケーブルテレビ加入率は全世帯の約85%に達する。

趙さん曰く。"日本のように、テレビの線を壁にある穴に差し込むだけで鮮明に地上波テレビが楽しめる環境がうらやましい"
私の記憶が確かなら。

  • ※元々、ソウル以外はチョー山だらけで、日本並みの難視聴対策はカネがかかりすぎる。
  • ※首都圏の人口集中度は日本を上回るが、日本並みの難視聴対策は取られていない。
  • ※これを地域独占のCATV事業で代替した。高くはない。しかし「タダ」ではない。

ちなみに日本の難視聴対策は世界一。てゆうかむしろ異常なまでのコストとテマヒマを、50年間うまずたゆまず手仕事ニッポン。お陰で我が国民はOECD中有数のテレビッ子だ*1

ロ)もともと「テレビは有料」が「ふつう」。

趙さん曰く:"「うちはテレビ観ませんから払いません」なんてことが通用しないのだ。"

  • ほとんどのマンションが管理費にケーブルテレビ視聴料を上乗せする。
  • KBS視聴料(≒NHK代)は電気代に含まれる。

私の記憶が確かなら。

  • ※ソウル圏で「一戸建て居住者」は稀。
  • ※公営放送の徴収体制は日本以上(確か未収率20%台)。
  • ※「ペイTV」の普及率は米国以上(確か60%台)。

ハ)IPTV 対 CATV

趙さんの話をまとめると:

  • 2008年11月、地上波放送のリアルタイム再送信が開始。
  • 消費者が、CATVから、通信事業者のIPTVサービスに大移動中。
  • 理由:三種の神器 V3」*2」:テレビと電話とブロードバンド。どのみち「テレビ見るにはお金が掛かる」。ならばコレのがいいぢゃない。
神器1) IPテレビ 地上波当然。VODで最新映画。そのままネットで検索も!
神器2) IP電話 月額固定でカケホーダイ!
神器3) ブロードバンド 普通のネットもCATVより速い!

私の気が確かなら。

  • ※もともと「テレビは有料」な市場では、「神器1)」の抵抗感が薄い。ここに、VODなどの付加価値、さらに、ケータイや長期割を絡めた価格キャンペーンが加わる。
  • ※もともと「テレビは無料」な市場では、「神器1)」は「NHKを除けば、視聴料払わんでも見れるしなぁ」が「ふつう」。

ニ)メディア未来研究所(放送関連シンクタンク)の予測

趙さん曰く:

- 2009年 2014年末
IPTV契約数 280万件 493万9000件
CATV契約数 1185万8000件 987万6000人
順調に進んだ場合のデジタルCATV契約数 324万件 571万1000件
有料放送市場全体 2051万件 2341万1000件
  • 同研究所は、ケーブルテレビとIPTVのコンテンツ競争により、有料放送市場全体が成長すると予測。

ホ)背景:韓国版「地デジ」の準備、お願いしまーす!

趙さん曰く:

  • アナログ停波期限:2012年12月31日
  • 受信環境:IPTVかCATVに加入していれば、アナログ放送終了後もテレビを買い換えることなく、地上波デジタルテレビを受信できる。

私の気が確かなら。

  • ※2番目。こちらの方が「地デジ推進国民運動」や「エコポイント」のような無理が少ない*3
  • ※衛星やCATVによる救済策を「暫定的なもの」に限定*4するより、サービス分野の市場創出も期待できる。
  • ※アナログ時代のユニバーサル・サービスが「事実上のペイTV化」している点では、韓国は日本に劣後していると言える。しかしこの状況を逆手にとれば、「製品の競争力向上」にコンボし得る。↓

へ)この結果、消費者の選択肢は2つ。

趙さんの話をまとめると:

  • への一:地デジ対応テレビかチューナーを買って、「テレビ」を「タダにする」。 → 製品の魅力競争を生む*5
  • への二:IPTVかCATVに入り、「テレビ」を「有料で見る」。 → 番組の魅力競争を生む

※国内では、「への一」一辺倒の感があるが、韓国では「への二」も盛ん。すなわち、「IPTV対CATVの、番組の質競争」だ。

ト)CATVは座してちりぬるを潔しとせず、逆襲に出ている。

趙さん曰く:

  • 『ケーブルテレビはIPTVの豊富なVODに負けない面白い番組を増やそうと、地上波放送の再放送ばかりだった編成から、独自制作の番組を増やしている。』
  • 『地上波放送では禁じられているパロディやスラングもケーブルテレビでは大目にみてもらえるので、さらに面白く…』

ケーブルテレビやIPTVのコンテンツ競争は視聴者にとってうれしいことである。ネット時代といってもやっぱり面白いのは手間ひまかけて作ったテレビ番組。これからは3Dテレビやモバイルテレビの時代が来るというだけに、どんなテレビ番組が登場するのか楽しみである。

ワ)我が世たれぞ常ならむ。

10年前の日本で中村伊知哉さん曰く。

テレビとインターネットの結合に失敗したら、日本の情報化は死ぬと思います。

メモ)

  • 普及率に圧倒的な差があるとはいへ、韓国のCATVも元来は日本同様、難視聴対策の補完材だった筈。
  • 従って、ユニバーサル・サービスの一環として「地域独占」を認められた。
  • 安定の代償として「過剰な利益」や「内部資本の蓄積」に制限はなかったのか?
    • なかったとすれば、それはナゼカ?
    • あったとすれば「独自番組制作」の原資はどこから調達しているか?
      • 圧倒的な普及率?(免許単位が広域?MSO?)
      • 株式市場?
  • 田中角栄の「一県一波」、「地方独自の番組を!」などの政治的圧力は、歴史的に弱いんだよな確か。

*1:参考:デジタルとハイビジョンは混ぜちゃイケナイ洗剤 - agehaメモの「2)」。
 ちなみにこの「OECD中有数のテレビッ子性向」と「記者クラブベースの情報占有(下図)」を混ぜると、「一億総XX性向」が強まる。
 民主には記者クラブの解放を期待している。それしかしてないと言ってもいい。 - agehaメモ

*2:「トリプルなんちゃら」は、団塊以上の世代に言って、スカっと通じた記憶がない。

*3:「国民運動」という言語センスは、団塊どころか「昭和一桁」ですら嫌悪感を示す方が少なくない。それより上の戦中派には効くかもしれないが、その層の購買意欲に期待するのは老骨にムチ打ち過ぎの感が漂う。
 また「大きいテレビほど沢山もらえるエコポイント」は、「同サイズ製品の2倍の電気代を喰う100万円テレビ(Cell搭載機)に上限一杯ポイントがつく」などの倒錯した状況を生んでいる。それでなくても買い替え前後で大幅にサイズが異なる場合、いくら液晶だろうが電気代にリバウンドが来る。そのような消費行動に、国が税金でポイントを与えるというのは、少なくとも「エコ」の名前でやるべき事ではない(ちなみに番組表の取得など、付加機能の消費電力は基準にカウントされない)。メーカーを保護する必要があるのなら、「地デジ下郷」なり「以デジ換アナ」なり、中国の率直さに倣うべきではないだろうか。
 哲学の欠如や、胸を張るに値する仕事をしていないという自覚は、人を率直さから遠ざけ、「マヌーサの誘惑」に走らせる。

*4:-参考:情報通信審議会の中間答申に、CATVによる従来テレビ救済策が乗りそうな件 - agehaメモ

*5:-参考:ワシも韓国企業を過小評価している日本人が多いと常々感じている - agehaメモ